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第一章
3遠征
しおりを挟む愛する人の訃報を聞かされた一年後。
今度は数珠つなぎに父親が視察中に事故にあった知らせを受けた。
過酷な状況下で誰も寄り添ってくれなかった。
「親が死んでも泣きもしないなんて」
「本当ですわ。聖女様としての資格があるのが不思議なぐらい」
「冷たい人だわ。王太子殿下も気の毒ですわ。あんな冷たい方が第一婚約候補なんて」
イライザの侍女達が口々に私を責める。
聖女として感情を表に出してはダメだと、親が死んでも泣く事すら許されず常に感情のコントロールをして天使のように微笑めと言われて来た。
なのに――。
「お前は何時でも笑っててつまらない女だな」
「本当に人形のような女」
心を殺して聖女の役目を全うしようとしても頑張れば頑張る程に空回りして。
他の聖女達とも距離ができてしまった。
眠る以外は祈りを捧げたのは愛する人が天国で穏やかに暮らせるように。
願いを込めて祈りを捧げた。
そんな中。
「東北の地に遠征なんて嫌よ!危ないじゃない」
「だけどそれが私達の役目で…」
「だったら貴女が行きなさいよ!筆頭聖女様」
「言うだけなら楽だものね…」
イライザに続き普段交流を持たないルーアンまでも賛同する。
「何を騒いでいるんだ」
「殿下ぁ!ジュリエットが遠征に私達に行けとおっしゃるんです」
「何?なんて最低な…あんな危険な場所に行く必要ない。騎士団に任せればいい」
東北の地は魔物が出没して騎士達では危険だった。
瘴気が充満する場所に結界魔法が使えない騎士だけで行くのは死ねと言っているようなものだった。
(酷い…)
ただでさえ、最近は休み無しに戦場に出される。
既に限界なのに。
「何だ。何か言いたげだな」
「いいえ」
「ジュリエットは、騎士団と懇意ですものね?噂では騎士団の団長と…」
「聖女の癖に男を誘惑しているのか!恥知らずが!」
私はそんなことをしていない。
ただ騎士団の皆さんはもう限界だから心配なだけ。
「お待ちください殿下」
「何だミーシャ」
「ジュリエットのいう事も一理あります。騎士団の指揮を上げる事は必要かと…最近は騎士団の中には忠誠を疑う者もおります」
「そうか…ならば聖女も同行させる。ミーシャ、お前が行け」
「私は穢れに弱くて…」
助け舟を出してくれたミーシャはビクつく。
「私が参ります」
「何?」
「ミーシャは穢れに弱いです。それにまだ若い彼女に万一の事があれば困ります」
「随分とご立派です事」
ニヤリと笑うイライザはジュリエットが戦場に死ねばいいと思った。
怖気ずいて醜態を晒せばいいとも思ったのだが、ジュリエットの表情は変わる事が無かった。
「戦場に出て無事では済まんぞ」
「私は聖女です」
「なら好きにしろ」
オルヴィスも売り言葉に買い言葉でジュリエットを戦場に向かわせたのだった。
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