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序章ヒロインの親友として転生
8親友の涙
しおりを挟むレモンパイをワンホール食べきった後にブライアンは困った表情をした。
「このパイならばあの方も食べてくださるだろうに…しかし」
焼き立てのパイ。
しかし持ち帰れば冷めてしまう。
「あの方とは…」
「焼き立てのパイをなんとかして食べさせて差し上げれば」
「あの…焼き立ての状態で食べていただく事ならできますが」
「「は?」」
二人は耳を疑った。
そんな方法が可能なのかと。
「焼く前のパイを冷凍すればいいんです。その状態なら日持ちします」
「その手があったか…」
「そもそもパイは冷やして食べたほうが美味しいんです」
前世ではパイは冷やして食べるのだが、この国ではないのだ。
「お祖父ちゃん、果物は冷たい方が美味しいしでしょ?」
「確かに」
「ケーキは冷たい方が美味しいわ。パイも同じよ」
スポンジケーキが主流でありパイは貴族が好むお菓子ではないと決めつけられいた。
「料理は温度が命でしょ?お祖父ちゃん」
「そうじゃな」
常にサルジュが口癖のように言っていた。
料理は温度が命。
「ではその冷たいパイを貰えるか?」
「はい。少々お待ちを」
リーシェは冷やしているラズベリーパイを差し出した。
普通のパイよりも色鮮やかだった。
「すまないね、感謝するよ」
「いいえ、こちらはアップルパイです。よろしければ」
「ありがとう」
ライアンは大切そうに持ち帰って行った。
「お祖父ちゃん、あの方…辛そうだったわ」
「そうだな」
パイを食べた時の表情が忘れられなかった
リーシエにとって料理は幸せと繋がっていたはずのに悲しい表情をさせてしまった。
「私、まだまだだな」
「そんなことはない」
人を幸せにするのが料理だったが、まだ笑顔にできないのだと知った。
ドンドン!
「誰じゃ?」
「今日は休みの看板を下ろしているのに」
乱暴な叩き方だった。
「どなたで…」
「リーシェ!」
「アリーシャ?」
泣きながら店に飛び込んでいたのはアリーシャだった。
「どうしたの?」
「助けて…リーシェ!私…私!」
人に弱みを見せることが大嫌いなアリーシャが泣いていた。
「さっき、孤児院に私を引き取りたいって人が来て」
「え?」
「私を引き取りたいって…でも!行きたくない」
泣き崩れるアリーシャはようやく自分の足で幸せになろうとした。
なのにその道すら物語の抑止力によって阻まれてしまった。
「使いの人が来て…私は、ちゃんと自分で幸せになろうって思ったの。リーシェと離れ離れになってしまう。もうここには帰って来れないって言うの」
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全てを捨てろだなんて言われるなんて思わなかった。
「私、解ってなかった。貴族になる事がどういうことなのか…使いの人は私をシスター達を汚い目で見るの。人間じゃないって…嫌よ。怖い!」
「だったら!」
「でも、私が断ったら孤児院を潰すって。孤児院はお金がないわ」
「なんて卑怯な」
平民が断れるはずがない。
万一断れば貧しい修道院は潰されるかもしれない。
アリーシャを苦しめ脅す貴族に嫌悪すら抱く。
「もうリーシェに会えなくなるなんて嫌よ…一人になるのはもう嫌!」
こうなってようやく気付く。
リーシェがどれだけ好きだったか。
ずっと心の支えだった親友とも会えなくなる事が何よりも辛かったのだ。
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