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第三章.高潔の条件
13.決戦前
しおりを挟むこの日をずっと待っていた。
何時か、お姉様を自由にしてあげたい。
私はずっと無力で、小さかった。
「しかしベアトリス、本当にいいのか」
「ええ」
お祖父様は私を心配そうに見つめながらも、もう一度訪ねる。
もし、あの時。
お姉様があの女に見捨てられて、行方知らずになったことを知らされた時。
少しでもお姉様を心配してくれたならば。
お姉様の安否が解り、すぐに会いに行こうとしてくれたならば。
私は、こんな真似をしなかったかもしれない。
あのクズ男を失脚させる程度に収めていたけど、でも!
「私は、最後の最後まで裏切られたわ…あの二人にとってお姉様はマリアナの引き立て役と自分達の都合のいい消耗品でしかないわ」
「ベアトリス」
「よくわかったわ。不義を働いた癖に、社交界では完璧と言われ…完璧であることに執着し続けた結果がこれ」
完璧だと羨ましがられたこともあっただろうが、そんなの一部だ。
婚約者がいる身でありながら、相手を裏切った事実は消えないのだから。
でも、過去の事をどうこう言う気はなかった。
本当に二人が愛し合って、どうにもならないことだったのなら。
けれど、後から調べたけど。
二人は元婚約者に誠意を示したわけでもない。
自分達が幸せになるために多くの人を傷つけ、巻き込み不幸にした自覚があったのならば、お姉様にあんな真似をして平気でいられるはずがないわ。
人の心を踏みにじり、平気でいるような人。
あんなの家族じゃない。
「家族ごっこは終わりです。皮肉ですが…お姉様が家族を結びつけていたの。それを断ち切ったのはあの人達よ」
「すまない…」
「お祖父様は悪くありません」
謝るべきはあの三人だわ。
お祖父様はずっと助言をして来たし、幾度なく忠告だってして来た。
でも、一度だって耳を傾けることはなかった。
「唯一申し訳ないのは、お祖父様に対してです」
「いや、私はいいんだ。あの馬鹿をもっと早く当主から引きずり下ろすべきだった」
優しいお祖父様。
貴族としての矜持を持ちながら情愛の強い方で。
少し優しすぎる所はお姉様と一緒。
「私は、お祖父様とお姉様がいなかったら生きていけなかったわ。あの邸で唯一優しく、愛情を注いでくださった二人がいなかったら、私も同じような最低な人間になっていたかもしれない」
「いや、そんなことはない。オリヴィアを見ればわかるだろう」
孤独と戦い続けながらも、優しさを持ち続けたお姉様を思い出す。
「変わらぬよ。私とオリヴィアがいようとも、ベアトリスが優しい子だということは」
「お祖父様…ありがとうございます」
優しい手が心地よく。
これから両親と本当の意味で別離することになる私はお祖父様の言葉に励まされるのだった。
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