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第三章.高潔の条件
8.あの日
しおりを挟む思い当たるのは私が洗礼を受ける一年前の事。
その日、ベアトリスは高熱を出してしまった。
何時も熱を出すけど、その日だけは違って熱は一向に下がらなかった。
その日からベアトリスの体は衰弱して行き、精霊の恩恵故だと聞いた。
まだ小さかった事で強すぎる魔力にベアトリスの体は限界に達していたのだ。
だから私は結界魔法の強化をした。
けれど、今までよりも魔力の増幅が強く、通常の結界では守ることができなかった。
「まさか…あの時」
「身に覚えがあるのですね」
「はい、ベアトリスの魔力を封じる為に光の結界を」
通常の結界魔法と異なり光の結界魔法はかなり体力を消耗し、下手をすれば術者の命を奪う危険な行為だった。
私はお祖父様に沢山の魔法の法則の本を読んでいただいたことから、見よう見まねで光の結界魔法を生み出した。
「光の結界魔法は通常、正式な聖女でも難しいのです。しかも術者の魔力をほとんど消費してしまうのです」
「魔力だけではありません、下手をすれば失明…最悪の場合は命までも!」
強い魔法はそれだけ危険だった。
同等の対価を持って力を得ることになるのは基本だった。
けれど幼かった私はベアトリスを助けたい一心で後先考えなかった。
「私は…ベアトリスを」
「主の妹を助けたいという思いが魔力を最大限にまで高められ、精霊を沈めることが叶ったのであろう。四大精霊を抑え込むなど、通常は不可能だ」
「えっ…四大精霊?」
「ご存じありませんでしたか?貴女の妹君は四大精霊の中でも最も優れた水の精霊の加護を持ちます」
水の精霊の加護を持つ人間は王族にもほとんどいない程重宝されている。
「ベアトリスは確かに水属性ですが…」
「妹君は稀な存在です。水の精霊と地の精霊に愛されています。故にその魔力を幼い体に受け入れるのは難しかった。しかし、貴女様の結界により壊れそうな体を外側から守ることで、生きながらえた」
それはつまり、私が結界でベアトリスの体をコーティングしたということになるの?
「結界魔法を発動する際、貴女は精霊の干渉を受けたはずです。さぞ苦しかったでしょうに」
「たいしたことはありません」
確かに辛かったけど。
あの頃の私は両親からの落胆の視線や姉から叱責に心が麻痺していた。
「それほどに痛みに慣れていたのでしょう」
「そんな…あんまりです!リヴィア様はずっと苦しまれていたのですか」
マリアが私を抱きしめながら泣き出す。
「私はベアトリスが目の前で息絶えれば生きて行けないと思いました。家族の中で唯一私を慕ってくれたあの子を失うぐらいなら…代わりにと」
「なんてことを!」
私の発言はお姉様も悲しませてしまったけど。
でも、事実だった。
あの時私は・・・・
『お願い!ベアトリスを私から奪わないで!奪うなら私の命を奪いなさい!』
今まで心を殺して生きて来た私は泣き叫ぶようにベアトリスを苦しめる精霊を憎み訴えた。
『こんな小さな子を苦しめるなんて許さないわ…例え神でも許さない』
結界魔法を作りながら天に向かって怒りをぶつけた。
私の結界を破ろうとする精霊に対しても同様に罵倒を浴びせながら私は死ぬ気で結界を維持し続けた時だった。
奇跡が起きたのは。
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