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第二章.新たな婚約

12.思い出のリボン

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僅か一か月程度なのに懐かしく感じた。


「大丈夫か?」

「はい」


復学の手続きは終わっているので、このまま生徒会室に向かうことになっている。


ベアトリスは一足先に王都に戻って済ませる手続きがあると聞いていた。

子爵の爵位を授かることになっているので、多忙のようだ。

なのに私のお世話を焼き、大変な思いをさせていたと思うと申し訳なさがこみあげてくる。


「どうしたんだ?」

「いえ…マリアさんは私を覚えてくださっているでしょうか?」

思えば、一緒に過ごした時間は驚くほど短い。
入学して一か月で私は休学することになったのだから、私の事など忘れているのではないか?

不安な思いを抱く。


「その…私はマリアさんに良い印象を抱かれていない気がして」

思えば姉の取り巻きが陰湿な嫌がらせを行っていたし。
直接手を出さなくてもそう仕向けたのは姉であるならば、私はどう思われているのだろうか?


「私は…」

何を今さらなことを思っているのかしら?


もしそうだとしても、仕方ないことじゃない。

「オリヴィア…」

「私、マリアさんには嫌われたくないんです。卑怯ですね」


あの優し気な笑顔が怒りに代わるのが怖い。
他の誰かに詰られるよりも、マリアさんに責められるのが辛いと感じながら私はあのリボンを握りしめる。


「オリヴィア、それは?」

「これは…」

普段は髪を結うのに使わないので腕に結んでいた。


誰の目にも見つからないようにこっそりと忍ばせていた。


「随分古いな」

「はい、私の宝物です」

生まれて初めてできた友人と交換したリボン。

「大切な思い出なんです」

そっとリボンに触れながら思い出す幼い頃。



一人ぼっちだった私は優しい少女に出会った。


言葉を交わしたのは一時だった。


「一緒にいた時間は少しだけでした。でも、あの頃の私は一人で…だから」

その時間が大切だった。
互いにたわいのない話をして、笑いあった。


「ならばきっと会えるだろう」

「はい…」


もし、私と彼女の縁が繋がっているのならば。


会えるかもしれない。


ううん、会いたい。


「さぁ、行こうか」

「はい…」


リボンに触れながら歩き出そうとした時だった。


「何とかいいなさいよ!」

中庭の方から声が聞こえた。


「なんだ?」

「この声…」


聞いたことがあるような声だった。



「喧嘩か?」

「そのようですね、止めてまいりましょうか?」


私達の護衛にと付き添ってくれている近衛騎士の皆さんが声をかけてくれるけど、学園内の生徒同士の喧嘩に介入するのは問題だった。



「いや、その必要は…」


ジルベルト様が断ろうとした時だった。


「何よ、リボンなんて似合わないのよ!」

「そうよ!こんな貧相なサテンのリボンなんて!」


その時私の目に映ったのは、見覚えのあるリボンだった。


「あれは…」

ドクン!


胸の奥が熱くなる。


頭に頭痛が走った。
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