27 / 137
第一章.婚約破棄騒動
26.目覚め
しおりを挟むもし、私自身を見てくれたら。
代用品ではなく私自身を好きと言ってくれる人がいたら。
幼い私は愛されたかった。
誰かに認められたかった。
でも、現実は難しくて。
そんな私に祖母は言ってくれた。
『どんなに蔑まれても泣いているだけじゃダメよ。ちゃんと戦いなさい』
体の弱い人だった。
病弱で、一日をベッドの上で過ごすような人だったけど、強い人で。
『リビィアを見てくれる人が現れるわ…だから負けてはダメ』
何時か本当の意味で私を愛してくれる人が現れる。
だから泣き名入りをしないで背筋を伸ばして戦う様にと言ってくれた祖母。
だから私は頑張った。
でも、婚約者にすら置き去りされた私は。
誰が愛してくれるのだろうか?
誰も私を愛してくれる人なんて…
その時だった。
光が差し込み、頬に優しい風が当たる。
風が一つの方向に向かって吹き、こっちにおいでと言われているようだった。
「うっ…」
心地よい風だった。
ふと目を覚ますと見知らぬ場所だった。
「お姉様!」
「え?ベアトリス?」
意識が朦朧とする中驚いた表情のベアトリスがいた。
「気づいたか!」
「え…」
何故か目の前には王女殿下が。
「はっ!」
「動くんじゃない。重症を負っているんだぞ」
無理矢理起きようとするも体が言う事を聞かなかった。
「おっ…お嬢様ぁぁぁ!」
「クローネ?」
「ああ、目覚められてよろしゅうございました。クローネは…クローネは!」
号泣するクローネを慰めようにも体が自由に動かなかった。
ふと、私はどれだけ意識を失っていたんだろうか?
「あの、姉達は?」
「…あの二人なら邸よ。ここはアレキサンドロス王女殿下の別邸よ」
「は?」
王女殿下の別邸?
じゃあここは、エレクトロ宮?
王族が所持する宮殿の一つであり、王女殿下の住まいに使われている宮。
「ひっ…」
「だから動くと体に障ると言っているでしょ?大丈夫よ」
「大丈夫じゃないわ」
エレクトロ宮と言えば、許可なき者は入ること許されない。
例え大臣でも簡単に出入りを許されておらず、私のよう爵位の無い者が留まるなんて許されない。
「おや、私の邸は不満だったか?」
「滅相もございません!」
不満だなんてとんでもない。
恐れ多くて、言葉を放つこともできない。
「お姉様は二週間眠っていたのよ」
「はい?」
そんなに眠っていたの!
じゃあ、姉とブライトンは無事だったのかしら?
「申し訳ありません。王女殿下に置かれましては、このような姿で」
「良い、貴女に責任はない。だが、しばらく静養してくれ」
「しかし…」
ここまで迷惑をかけるわけにも行かない。
「私もしばらく休みで暇でね、相手になってくれるか?私には弟しかおらず、友人もおとんど男でね。できたら女性と話してみたかったんだ」
「はっ…はい」
「では決まりだな。伯爵家にはちゃんと連絡を入れてあるから心配ない…おい、愚弟!何時まで隠れている!」
部屋の外に誰かいるのかしら?
しかも愚弟とは随分な言い方のように思えた。
「オリヴィア嬢」
「ジルベルト様?」
申し訳なさそうな表情で現れたのはジルベルト様だった。
普段とはどことなく雰囲気が違う様な気がした。
91
お気に入りに追加
5,488
あなたにおすすめの小説
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。
三葉 空
恋愛
ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……
【完結】不協和音を奏で続ける二人の関係
つくも茄子
ファンタジー
留学から戻られた王太子からの突然の婚約破棄宣言をされた公爵令嬢。王太子は婚約者の悪事を告発する始末。賄賂?不正?一体何のことなのか周囲も理解できずに途方にくれる。冤罪だと静かに諭す公爵令嬢と激昂する王太子。相反する二人の仲は実は出会った当初からのものだった。王弟を父に帝国皇女を母に持つ血統書付きの公爵令嬢と成り上がりの側妃を母に持つ王太子。貴族然とした計算高く浪費家の婚約者と嫌悪する王太子は公爵令嬢の価値を理解できなかった。それは八年前も今も同じ。二人は互いに理解できない。何故そうなってしまったのか。婚約が白紙となった時、どのような結末がまっているのかは誰にも分からない。
私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜
みおな
恋愛
大好きだった人。
一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。
なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。
もう誰も信じられない。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる