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第二章
38.すべてはこの手に~シンシアside
しおりを挟む馬鹿な男。
せめて、公の場では冷静な対応をすれば良いのに。
社交界では感情的になった側が負け。
最後まで冷静であり続けた方が勝ちなのだから。
アリアは最後まで冷静に対応した。
貴族令嬢としての振る舞いをして、あくまで余裕を持っているのに対して、あの屑はどうだろうか。
「アリアドーネ!君は何時からそんな生意気な事を言うようになったんだ…皇女殿下の侍女になりいい気になって!」
「私はいい気になったつもりはありません。ただこれまで、何も言わなさ過ぎたのですわ」
「今までの君は控えめだったのに…やはり侍女の真似事をしたのが問題だったんだ。悪い影響を受けたんだろう」
さっきから言いたい放題言う、あの馬鹿は気づいているのかしら?
この場にいるご夫人の半分は宮廷女官であり、独身時代は侍女として働いた方だと言う事を。
「さっきから随分な言い方ですわね」
「聞き捨てならないわね」
名門貴族の中には結婚の後も侍女として宮仕えをする家柄も少なくない。
侍女とは、メイドとは異なり主の秘書的な役割を持つので誰でもなれるわけではないのだから。
特に上級侍女になるには厳しい試験をクリアしなくてはならないのだから。
どの世界も男尊女卑が多くある中、侍女として出世を果たす事で下剋上をした女性も少なくない。
そんな彼女達を否定する発言をすることは許されない。
「私の妻を侮辱する気か!なんという屈辱だ」
「母は元侍女であるのだがね」
「ハント侯爵家は侍女を馬鹿にしているのか…ならば今後の付き合いは見直す必要があるな」
本当に馬鹿な男です事。
現在女官として活躍する方の大半は元侍女で、貴族令嬢の長女以下は侍女として一定期間は宮仕えをしているのだから、その形を侮辱する事。
何より、私の侍女達の父君も本日の舞踏会に参加しているのだから。
「えっ…そんな。私は!」
「私の娘は皇女殿下の侍女なのですがね?以前も娘を侮辱する発言をしたとか」
「私は貴族派ではありますが…ガーナ夫人は我らを陰で笑っていたと言う事ですかな?」
以前の舞踏会の出来事は既に噂が出回っているわ。
所詮噂なので半信半疑だっただろうけど、本人を見て真実だと思ったのね。
「以前にも私の大切な侍女を傷つけ軽んじ、矜持を汚されましたわね。また私の侍女を侮辱なさるのですか」
「皇女殿下!」
「なんということを!皇女宮の侍女は特別なのだぞ!女官同様の地位を許されていると言うのに!」
爵位も持たないだけの公爵子息風情が女官を侮辱することは許されない。
他国では女官の地位は軽んじる事ができないとも言われており、特に王族や皇族の側近を軽はずみに傷つけた結果、罰せられた事は多くあるのだから。
「何様だ!」
「本日の舞踏会を台無しにしおって…今すぐ出て行くが良い!」
他の貴族達も頷き、警備隊は既に待機している。
「ここにいるには相応しくありませんわね」
「ああ、お帰りいただこうか」
「なっ…何で私が!」
大公夫妻が命じるとすぐに警備隊は二人を会場から追い出そうとしたけど、最後までギャーギャー叫ぶあの女は本当に耳障りだったわ。
でも思った以上の効果だわ。
私が計画した以上に、あの二人は勝手に踊ってくれたわ。
これで二人の評価はがた落ちだし、社交界であの二人を支持しても持ち上げていた貴族もどうなるか解りきっている。
明日が楽しみだわ。
ハント侯爵家の立場も落とせたわ。
後はお兄様が武道大会で優勝するだけですわ。
公の場でお父様から許可を頂ければ文句はつけられませんわ。
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