上 下
99 / 101

96.一番恐ろしい人

しおりを挟む




同盟を結んで一安心と思いきや、多額の借金に、違法的な金を借りていたステンシル侯爵家は裁判をするまでもなく取り潰しとなり、爵位も領地も返上となった。


後から知った話だが、こっそり違法となる麻薬の薬草を作り、売りさばこうとしていたそうだ。
背後には貴族派が潜んでおり、母上は以前から貴族派を叩く機会を伺っていたのでこれ幸いと芋蔓形式で彼等の悪事を明らかにした。


ある意味彼は餌だったのだろう。
今回の問題が起きなくても、罪に手を染めなくても既に多額の借金を背負い領民の不満は爆発寸前だったので一揆をされてもおかしくない状況だったとか。


タイミングも丁度良かったらしい。
本当に恐ろしい人だ。


国を出る前に呼ばれた俺は母上に言われたのだ。

「覚えていなさい、相手を徹底的に潰すにはまずは最高の役者になら悪手はならないわ。自分はさも非力ですと演じて相手が油断した所を叩くのよ?二度と這い上がれないようにね?」


「母上…」

「肉体的苦しみは勿論だけど、精神的な苦痛を与えて二度と逆らえない恐怖を味合わせて主導権を握る。いいわね?」

声には出さず頷くしかできなかった。
俺は今まで我が家の影の支配者とも思ったが、母上は国の影の支配者なのではないか?


シメリス帝国の影の女王は伯母上ということか。


「一年前の茶番劇も、貴方は運が良かったわ。最悪の事態を申すこそ考えなさい」

「善処いたします」

否定はできない。
あの時俺は隣国に渡り騎士として生きる道だけを考えていたが。


ジャックやロビンがいなかったら?


母上が先手を打たず、両陛下の手助けがなかったら?

もしかしたら貴族派の奴らが先に手を打っていたら?


考えただけでゾッとする。


もしかしたら俺は、イライザと無理矢理結婚させられていた未来も考えられるのかもしれない。


「愛する者を守りたいならば、もっと太く、強くなりなさい。常に相手に感情を読まれてはなりません。まぁ、アイリスの方がそこは優れているかもしれないわね」

「はい」


情けない話であるが、アイリスの方がずつと感情の隠し方も上手だ。
長年虐げられて来たからなのかもしれないが。


オレよりもアイリスの方がずっと為政者としての顔を持っている気がするな。


「今回は敵がお馬鹿だったからあっさり終わりましたが」

「そのお馬鹿な敵に、全面戦争を仕掛けたんですか」

「どんな敵にも手加減はしては行けません。これも優しだですわ」

何処が優しさだ!
彼等に罪状を伝える時の母上の表情はこれ以上無い程の満面の笑みだっただろう。


絶対にざまぁできて喜んでいたのはアイリスよりも母上だろう。


「しかし、このような因果関係があったとは思いませんでした」

「そうですね」

こんな結末が待っているとは、俺も予想外だった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異国で咲く恋の花

ゆうな
恋愛
エリス・ローレン 20歳の貴族令嬢エリス・ローレンは、社交界での華々しい活躍により名声を得ていた。しかし、陰謀によって冤罪を着せられ、彼女の人生は急転直下する。家族や友人たちからも見捨てられたエリスは、無実を主張するも国外追放される。 新たな生活の舞台は、荒廃した小さな村。貴族としての誇りを失ったエリスは、これまでの経験やスキルを生かして生き抜くことを決意する。彼女の持つ医学や薬草学の知識を武器に、エリスは村人たちと交流を深め、次第に信頼を得ていく。

【完結・全10話】偽物の愛だったようですね。そうですか、婚約者様?婚約破棄ですね、勝手になさい。

BBやっこ
恋愛
アンネ、君と別れたい。そういっぱしに別れ話を持ち出した私の婚約者、7歳。 ひとつ年上の私が我慢することも多かった。それも、両親同士が仲良かったためで。 けして、この子が好きとかでは断じて無い。だって、この子バカな男になる気がする。その片鱗がもう出ている。なんでコレが婚約者なのか両親に問いただしたいことが何回あったか。 まあ、両親の友達の子だからで続いた関係が、やっと終わるらしい。

婚約破棄され、思わず第二王子を殴りとばしました~国外追放ですか!心から感謝いたします~

四季 葉
恋愛
男爵家の令嬢アメリアは、出世に興味のない医師の両親と幸せに暮らしていました。しかし両親を流行り病で亡くし、叔父が当主をつとめる侯爵家に引き取られます。 そこで好きでもない第二王子から一目惚れしたと言われ勝手に婚約者にされてしまい、 「アメリア、君との婚約を破棄する!運命の相手は別にいると僕は気がついたんだ」 散々自分のことを振り回しておきながら、勝手なことを抜かす第二王子に、普段はおとなしい彼女はついにキレてしまったのです。 「婚約破棄するなら、もっと早くできなかったんですか!!」 そうして身分を剥奪され国外追放となりますが、彼女にとっては願ってもない幸運だったのです。

兄の婚約者にはめられた王女は協力者を得て真実を明るみに出す。~そして幸せに生きてゆくのです~

四季
恋愛
兄の婚約者にはめられた王女は協力者を得て真実を明るみに出す。

【完結】フェリシアの誤算

伽羅
恋愛
前世の記憶を持つフェリシアはルームメイトのジェシカと細々と暮らしていた。流行り病でジェシカを亡くしたフェリシアは、彼女を探しに来た人物に彼女と間違えられたのをいい事にジェシカになりすましてついて行くが、なんと彼女は公爵家の孫だった。 正体を明かして迷惑料としてお金をせびろうと考えていたフェリシアだったが、それを言い出す事も出来ないままズルズルと公爵家で暮らしていく事になり…。

【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。

こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。 彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。 皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。 だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。 何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。 どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。 絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。 聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──…… ※在り来りなご都合主義設定です ※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です ※つまりは行き当たりばったり ※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください 4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

勝手にしろと言われたので、勝手にさせていただきます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
子爵家の私は自分よりも身分の高い婚約者に、いつもいいように顎でこき使われていた。ある日、突然婚約者に呼び出されて一方的に婚約破棄を告げられてしまう。二人の婚約は家同士が決めたこと。当然受け入れられるはずもないので拒絶すると「婚約破棄は絶対する。後のことなどしるものか。お前の方で勝手にしろ」と言い切られてしまう。 いいでしょう……そこまで言うのなら、勝手にさせていただきます。 ただし、後のことはどうなっても知りませんよ? * 他サイトでも投稿 * ショートショートです。あっさり終わります

処理中です...