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23.姫君と魔物~カディシュside

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ステンシル侯爵家は歪んでいる。
我が家は貴族の家柄というよりも、騎士の家柄なので家族間の仲は良い方だった。


母上は元皇女であるけど、実家でも腹違いの姉上はいるが、骨肉の争いはしていないし。
アットホームな雰囲気だった。


でも、ステンシル侯爵家は見栄と体裁だけ。
形だけ取り繕っただけの家族で、絆なんてないのだとすぐに解った。


優しく気遣える姉を演じながらも遠回しにアイリス様を蔑み見下し、妹もこれ見よがしに馬鹿にして見下す。

僕達だったらそんなことはしない。
ルカーシュ兄上とユーリ兄上はそれぞれ得意な物は違うけど、ユーリ兄上はルカーシュ兄上から一歩後ろを下がっていたし。


ルカーシュ兄上だった国井一番の聖騎士の称号を持つユーリ兄上を誇りに思っていた。


なのに!


「本当に私の妹は困った子ね」

「お労しい」

「奥ゆかしい妹君を心配されて」


これもよがしにアイリス様を心配しながら馬鹿にして。


「どうしてアイリスお姉様はああなのかしら?こないだも…」

「ローズマリー、アイリス様は控えめなだけだ」

「限度がありますわ。侯爵家として恥ずかしい行動は辞めて欲しいですわ。美貌もないのだから」


妹の方は周りにアイリス様を悪く言って楽しんでいる。
隣で婚約者が困った表情をしているのが解らないのかとも思ったが。



そんなある日。



「まずい事になったな。第二王子殿下が婚約破棄をした」

「しかも大勢の目の前というのが問題ですね」


ある日家族会議で聞かされた、第二王子殿下がイライザ嬢との婚約破棄。
元より政略結婚で王族派との絆を深める為のものだったし、ステンシル侯爵家は男子に恵まれなかったので第二王子殿下を婿に迎える予定だった。


第一王子殿下が立太子しているので、通常なら伯爵位を与えられるのだが、侯爵家に婿入りするのはかなり条件が良いと思える。


なのにだ。


「元より、二人の婚姻は反対意見が多かったが」

「ここまで軽率な行動をする方とは思えない。ステンシル侯爵家が荒れるな」


深刻な問題であるけど、僕達はステンシル侯爵家の今後の心配はしてもイライザ嬢に関してはそこまで心配していなかった。


社交界で傾国の美女として持てはやされているし。
侯爵家ならば、伯爵の次男、三男を婿に貰えばいい話だった。



だけど。



あろうことに彼等はとんでもない事をしでしかしたのだ。


「ルカーシュ兄上、社交界でおかしな噂が…嘘ですよね?ユーリ兄上があの女の婚約者にされるなんて。こんなの」

「先手を取られた。既に噂は広まっている…いや、わざと広められていると言うべきか」


一時期、邸に引きこもりがちなイライザ嬢はアイリス様に当たり散らしているのを心配したユーリ兄上が邸を連れ出し外出するようになった。


全てはアイリス様の為に。
なのに何を勘違いしたのか、ステンシル侯爵夫人は、ユーリ兄上がイライザ嬢に思いを寄せていると勘違いをしていた。


ないだろ!
ユーリ兄上が潔癖症な所があるから、ああいうタイプは一番嫌いなんだ。


なのに、騎士団を辞めて婿になれなんて横暴だ!

僕の中でステンシル侯爵家は魔そのものだと思った。

魔の巣窟に今も囚われている兄上とアイリス様が心配で仕方なかった。

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