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第六章.悪役令嬢と悪女

2.お嬢様の邂逅②

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何を話すでもなく、ただ静かな空間が心地よかった。
微かに香る優しいラベンダーの香りがして、私の心は穏やかだった。


けれどその時間は直ぐに壊された。



「入るぞ」


ノックもなく入って来る医師。
かなり失礼だと思いながら、見上げると――。


「よぉ、必死ぶりだな」

「なっ!」


どうして従兄妹の悠斗がいるの!


「相変わらずの不細工だな」

「おい、ハル…女の子にそんなことを言うなよ。それに彼女は白百合のように綺麗だぞ」

「えっ…」

私が白百合の様に?

初めて言われた言葉に恥ずかしくなる。


「お前、堂々と口説くな…いや、言っても無駄か」

「何を呆れているんだ?」


頬が熱く感じる。
どうしたのかしら?私は低体温なのに、こんなに頬が熱くなるなんて初めてだった。


それにしても…


「悠斗、そちらの方は…」


「名前を名乗っていませんでしたね?俺は相良優と申します。この病院の喫茶店でハーブを提供しています」


「こんなんだが、こいつは薬草を扱っている。伯父の薬草喫茶で店長をしているんだよ」

「俺はまだまだ未熟だ。伯父さんには敵わないよ」


横柄で荒くれ者で謙虚と遠慮を生まれた時に置き忘れて来た悠斗とは正反対だった。


「少し顔色が悪いから、カモミールのお茶を淹れたんだけど…ハーブティーは嫌いでしたか?」


「いいえ、大好きです」


ほんのり甘い香りがする。


「これはマンサニージャ・コン・ミエル?」

「博識ですね。そうです」

「美味しい」


スペインで親しまれているお茶の一つで、現地で何度か飲んだことがある。


懐かしい味。

病気が酷くなる前は飲んでいた。


「体も温まるし、免疫力を高めることができますよ」

「ありがとうございます」


「おい、菓子はないのか?茶だけじゃ物足りない」


そしてこの男はなんて図々しいのかしら。
人の病室でくつろぎ、優さんにお茶を淹れさせたあげくお菓子を欲しがるなんて。


「マーフィンならあるけど」

「寄越せ、腹減ってんだよ」

「はいはい…」


優さんを給仕係に使うなんて、なんて男なの!


「二人はどういうご縁ですの?」

「ハルと俺は幼馴染なんだよ」

「幼馴染…」

この野蛮な男が。
名家、御門家初って以来の不良と言われたこの男と、絵に描いたような王子様のような優さんとお友達。


「ありえない…極悪人と聖人がどうしたら友人になるのでしょうか」

「おい、口の中にマーフィンを突っ込まれたいのか」

「本当に野蛮な人ですわ」

「ああ?言わせておけば…この不細工が!」


私は久しく声を荒げた気がした。
笑うことも、怒ることも疲れ果ててしまったのに。

まだ感情は残っていたのだと知る。

生きる気力を無くした私はまだ生きていたいと思う様になっていた。



「こらこら、病室で騒ぐんじゃないよ」

「コイツが生意気なんだよ。折角の休みだってのに。全部パァじゃねぇか」

「今度埋め合わせするから」



優しく穏やかで、側にいると安心できる人。


私は彼に惹かれていた。


そして私が彼に恋をするのは自然流れで、入院生活が続く中。
精神的なこともあってか、優さんは私の家庭教師の代わりをしてくれるようになり。


狭い世界しか知らない私は、外に出ることが増えて行った。


それから半年過ぎて、病弱だった私の体に免疫力をつけるように色々親身になってくれた。


その甲斐あってか、不治の病と言われた私の病気を治す方法が見つかり、手術を受け、辛いリハビリも優さんが支えてくれたおかげで私は無事に高校に卒業し、大学に行くことが叶った。



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