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第五章.栄光と堕落は紙一重
6.宣言
しおりを挟むマルは俺を見つめながら耳を垂らして心配そうにした。
「貴方は優しすぎる」
「え?」
「故に、心無い悪意を持つ者に利用され、殺されないか心配なのです」
俺が、利用される?
「権力を持つ者は全てを手に入れようとする。悪魔はより美しいものを好むのです」
「悪魔?」
「この世の災いです」
聖書に書かれている悪魔とは異なるのだろうか?
「奴らは人間の欲望を糧として大きくなっています。我らが排除し、浄化しても、欲深い人間の心が膨れ上がれば復活します…聖書では悪魔が最大の敵とされますが…私達からすれば人間の欲が悪魔にしか見えません。悪魔が人を変えるのではありません、むしろ逆です」
「悪魔を作りだすのが人間?」
「はい」
マルの言っていることは解る。
人と言うのは業が強すぎる生き物なのかもしれない。
でも欲があるから、成せることがある。
でも、過ぎた欲は身を滅ぼしてしまうのだから怖いな。
「俺も、そうなっちゃうのかな?」
「主!」
「俺も何時か、そんな人間になってしまうのかな?権力を欲して…誰かを虐げて」
人の心は弱い。
強くもあるけど、壊れるのは一瞬なのかもしれない。
幼い頃、俺にはお母様がいた。
クリストフもいたから、耐えることが出来たが、誰も恨まないでいる程聖人じゃない。
一時はあの人を恨んだ。
お母様を守ってくれない、あの人を。
「主が悪魔になるなどありえません。どうかそのような事はおっしゃらないでください。万一悪魔が近づくならば私が噛み殺してくれましょう」
「あはは…洒落にならないな」
俺は僅かな不安を抱きながらマルを抱きしめる。
そうだよな?
そうならないように努めよう。
今は王太后様の贈り物が最優先だしな!
そうだ、教会にお祈りに行こう。
俺の邪心を清める為にも神様にお祈りをして奉仕活動をするのも悪くない。
俺は考えた結果――。
「俺は、今日からお祈りに行く」
「「「は?」」」
「今後は聖書をもっと親しむべきだと思うんだよな。貴族として!よって俺は今後慈善活動を行います!」
「おい、今度は何をやらかした!」
「エリオル様、説明してくださいませ!」
昼食の時間、生徒会室で俺は宣言した。
今後は我が身を振り返り、質素倹約に過ごしながら奉仕をしよう。
そうだ、かの有名な大女優さんも言っていたじゃないか。
美しい瞳になる為には他人の美点を探しなさいと!
「貴族として清く正しく美しくなるには、美しい行動をすべきだ。美しい行動!すなわち奉仕活動をする神父様や修道女の皆さん!俺はこれから神様にお祈りをして邪心を浄化する!」
「いや、お前に邪心なんて塵程度だろ!」
「そうだ、エリオル!この馬鹿女の欲望に比べれべたら無いに等しいではないか!」
「レントン様、どういう意味ですの?」
なんと言われようとも俺は決めた。
何時か欲望に支配される日が来るならば、今から修行すればいいんだ。
在学中に稼いだお金は全て寄付しよう。
「これより、俺は清く正しく美しく生きる!」
「何があったんだ!!」
こうして俺は、暖かな春の季節と共に、最高学年に上がる前に目標を立てることができたのだった。
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