上 下
40 / 237
第一部.婚約破棄と新たな婚約

2.新たな婚約

しおりを挟む
会場はざわめき誰もが困惑する。
今日の成人式には多くの貴族の令息も参加しているし、恥をさらす行為だったが。


この騒ぎをどうするかだったが…


「婚約破棄をなさるといいましたわね」

「ええ」


「その意味を理解しておっしゃるのね」



俺の側に現れたお母様。

何処か笑みを浮かべているように見えた。


「私は神の前で誓います。マルス様と愛し合っております。故に偽りの愛を誓うことできません。結婚は愛し合う者同士がすること…愛なき結婚など神への冒涜です」


「カルメン!」

本当に馬鹿だな。
こんなに声高らかに妾や側妃の存在を否定するなんて。

それに貴族の大半が政略結婚だと言うことを忘れている。


「そうですか、ではもう一度確認する。マルス殿はカルメン殿と婚約されるとのことでよろしいかな」

「はい!」

「おい、マルス…何を勝手な!」


ここで放心していたお父様が我に帰るも手遅れだった。



「ヴィオレッタ様、よろしいですかな?例の話を進めて」

「ええ、よろしくお願いいたします」


ランスロット様とお母様が何やら目で会話をしていた。


「双方の同意もあった所で皆さんにも聞いていただきたいことがございます」


ランスロット様は改まって会場にいる貴族や侍女に侍従にまで告げる。


「エリオル・ラスカル殿を、我が娘レイラの婚約者とし…そして私の後継者として迎えることを宣言します」


「なっ…何だって!」

「嘘だろ!」

「廃嫡寸前の長男がベルクハイツ家の婿養子だって?ありえないだろ!」


一体何がどうなっているのだろうか?

意味が解らない。


「何を馬鹿なことを!」

「そうです。お戯れを…」

「戯れではない。私はエリオル殿を我が侯爵家に迎えたいと思っていた…しかし彼には嫡男である故諦めたのだ」

「ならば!」


どうしてと訴えるエドナだったが、代わりに代弁したのはお母様だった。


「私も息子の婚約が決まっていたのでお断りしようと思ったのですが、カルメン嬢とマルスが思い合っていると知りましたので悩んでいたのですが、テレシア様がお心遣いをくださいまして」

「ええ、当初はレイラをマルス殿の婚約者にと考えておりましたのよ?ですが、愛するお二人を引き離すのはお可哀想ですし…それならば、幼馴染でもあるエリオル様と婚約を結ぶ方がいいと思いましたの」

「幼馴染…?」

「ええ、5歳の頃から小姓として行儀見習いに来ていただいてましたの。ラスカル伯爵にはちゃんと許可はいただいておりましたわよ?」


そう言いながらお父様を見ると思いっきり目を逸らしている。


「私はきちんと手紙をお送りし、夜会でもお伝えしましたわ。ご子息をお預かりしていると」


「何度か王宮内でご子息には世話になっていると伝えたのですが」


テレシア様に続きウィルフレッド様も同様に伝える。
この二人は揃いも揃って仕組んだのだとすぐに気づいた俺はお父様に同情した。


嘘は言っていない。

確かにマルスは騎士見習いであるが特別扱いを受け、王宮に入ることが許され第二王子殿下の側に仕えていた。

普通に考えれば俺ではなくマルスのことを言っていても可笑しくないのだが。


「いえ、てっきりマルスの事かと」

「確かに弟の遊び相手になってくれているそうだな…だがエリオルは俺の側仕えとして仕え、現在では補佐から毒味役まで買って出てくれている…そういえばエリオルを俺達兄弟の毒味役にと進めてくれたのは貴方だったな」


「あっ…それは」

まんまと嵌められたな。
それにつけ加え当時は、王子殿下の影武者に毒味役がいなかったことからお祖母様は俺を毒味役にすることで徹底的に立場を解らせるようにした。


俺とマルスは王族に仕えているが、嫡男であるマルスを影武者や毒味役にするわけにも行かないが、毒味役は大事な役目でもある。

ある意味では王子殿下の命を守る役目で通常は平民か下級貴族が多いのだが、お祖母様は王族との絆を強めるべく俺を差し出した。


まぁ、出来損ないの俺でも王族の役に立てるのだから感謝しろと言われたことがあったな。


「嘘でしょ」

「自分の孫を毒味役に進めた?信じられない」

「だが、ヘレネ様は長男のエリオル様に対してあまりにも厳しかったよな」

「確かに、夜会や大事なパーティーには必ずマルス様を参加させて差別していましたもの」


周りはお祖母様を軽蔑の眼差しで見ていた。
今までは上手く隠していたようだが、知っている人は知っているけど。


今まで公の場では咎めることはできなかった。


「本当に感謝していますのよ。貴女のお孫様は本当に優秀で、夫もエリオル様を是非養子に迎えたいと思っていましたが、嫡男故難しいと断念しましたが…なんの心配もありませんわ」

「そっ…それは」

お祖母様は言葉を放つことができない状態だった。
既に後ろで真っ白になっているシリガリー伯爵夫妻は放心状態だった。


「本当になんて喜ばしいのでしょう?これで私は肩の荷が降りましたわ」


「お母様…」

「エリオル、これより貴方はレイラ様の婚約者となります。今まで以上にレイラ様をお守りし、良き夫となるように努めるのですよ」


俺は未だに頭が着いて行かない。
何がどうなって俺が侯爵家の婿養子になるのだろうか。


意味がさっぱり解らなかったのだが、騒ぎはここで終わることはなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】やり直しの人形姫、二度目は自由に生きていいですか?

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「俺の愛する女性を虐げたお前に、生きる道などない! 死んで贖え」  これが婚約者にもらった最後の言葉でした。  ジュベール国王太子アンドリューの婚約者、フォンテーヌ公爵令嬢コンスタンティナは冤罪で首を刎ねられた。  国王夫妻が知らぬ場で行われた断罪、王太子の浮気、公爵令嬢にかけられた冤罪。すべてが白日の元に晒されたとき、人々の祈りは女神に届いた。  やり直し――与えられた機会を最大限に活かすため、それぞれが独自に動き出す。  この場にいた王侯貴族すべてが記憶を持ったまま、時間を逆行した。人々はどんな未来を望むのか。互いの思惑と利害が入り混じる混沌の中、人形姫は幸せを掴む。  ※ハッピーエンド確定  ※多少、残酷なシーンがあります 2022/10/01 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2021/07/07 アルファポリス、HOT3位 2021/10/11 エブリスタ、ファンタジートレンド1位 2021/10/11 小説家になろう、ハイファンタジー日間28位 【表紙イラスト】伊藤知実さま(coconala.com/users/2630676) 【完結】2021/10/10 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) イラストブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

処理中です...