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第二章
31傲慢な侍女
しおりを挟む通常ならこの態度はありえない。
度重なる嫌がらせをしたバーバラは己の行動を顧みることはない。
傍付きの侍女もこの態度だ。
「なんて無礼なの!立場を解っているの」
「止めなさい」
「だって…いきなりソフィア様の部屋に押し入ってきて」
最年少の侍女が声を荒げるも、急いで止めに入るのはその侍女の同期だった。
年齢は少し上で、冷静さを持っている。
「随分と幼いわね…」
「はぁ!」
声を荒げる侍女を見てアミリアはニヤリと笑った。
明らかに見下している表情だったが、ここで侍女長が前に出る。
「申し訳ありません。彼女は最年少で侍女になった優秀な人材でして…出世もなさらず侍女のままの貴女とは価値観が違いますの。寛大な心でお許しくださいな」
「なっ…」
流石伊達に侍女の仕事をしていないだけあると思った。
(笑顔で言い返したわ…)
感情的になり喧嘩腰になった方が負けだ。
そのことを重々理解している侍女長はあくまで笑顔で対応し、尚且つ未だに出世もしないで一介の侍女であることを馬鹿にしたのだ。
「私は…」
「例え公爵家の侍女でも出世されていないなんて…余程信頼されてないのね」
「止めなさい」
ここぞっとばかりに言い返す最年少の侍女を窘めながらも侍女長の表情は終始笑顔だった。
(内心でガッツポーズしているわね)
ソフィアは侍女達の心の内を理解した。
ここまで言われて屈辱だと言わんばかりのアミリアだったが、その怒りはソフィアに向けられていた。
(何?この目は…)
部屋に入った時から違和感はあった。
何か用があって入って来たのは解るが、その態度に。
(いいえ、初めてじゃないわ)
王宮でバーバラと初めて顔合わせをした時にも感じたこの視線を思い出す。
まるで見下し蔑むような視線。
憎しみを込める視線には覚えがあったのだから。
(この視線は祖国で宮廷貴族から受けた視線と同じ)
何となくだが理解した。
これまですれ違うたびにバーバラ以外にも強い憎悪を受けたことはあったが、その視線の正体がアミリアだとは思わなかった。
(今更だけど…なんというか)
バーバラ以上に厄介な侍女だと思った。
ソフィアはアミリアがクレミア公爵家に忠誠を誓っているわけでもないと気づく。
そして現在も憎しみの視線を向け、侍女達も否定的な目を向けている。
(何か用事があったのよね…)
早く要件を聞いて追い返したかった。
故に要件を早く聞くことにしたのだった。
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