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第一章

43最後の温情

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王宮から誰からも見送られることなく数名の聖職者が静かに去って行く。


その中に聖女がいるとは誰も気づかない。
とても質素な装いの聖職者の数名が静かに目立たず歩いているのを誰も振り返ることもない。


「これが最後よ」


メティスはテレサの聖地巡礼の為に数名の聖職者の動向は許した。
傍にいるのは王宮に仕える神官が現役を退いたので聖地巡礼をしたいと以前から申し出ていたものだ。


高齢であるが旅には慣れており、地方の神殿に向かう先も歩きで移動していた。


「貴方の怒りはこの程度ではないでしょうけど」

「殿下」


ちらりと視線を向けると背後にカディシュがいた。

「私は王女として、法律に触れるような裁きはできないわ。本来ならば彼女を追放したいけど」

「いいえ、十分です」


第三者からは氷の王女とも呼ばれているメティスだが、悪人であっても法に触れるような裁き方はしない。

もし法を破るような真似をしたら為政者として、王女として侵してはならない領域に踏み込むと同じ事だからだ。


「娘の事を思ってくださりありがとうございます」

「私は何もでききなかった、ソフィアに聖女の指南役をさせてしまったわ」

「結果的にヘリオスの毒牙から逃げられました」

「でも、苦しんだ時間は多いわ」


あまりにも多すぎた。
その一方で志のない令嬢に聖女の指導を任せるのは危険だった。


ソフィアを信頼していたからこそ任せたが、メティスも罪の意識に苛まれていた。


「お優しい王女殿下」

「何を…」

メティスに優しい目を向けるカディシュは知っていた。


(本当にお優しい方だ)


ソフィアの件に関しては大臣達が勝手にしたことだ。
メティスが関与していないのは明白でテレサの処遇に関してもこれ以上ない程の情けをかけている。


テレサをそのまま村に帰しても、王都の修道院に送れば襲われる。
今後の事も考え償いとして三年の聖地巡礼の後に王都から離れた辺境地の修道院で奉仕活動をさせた後に村に帰れるように手配するつもりだ。


五年の月日を修業に当てるのだ。
第三者はあまりにも厳しいと言うが、これぐらいしないとテレサは世間の批難を浴びるだろう。


そして孤立無援となった状態で、権力者が近づき利用される。
まさに負の連鎖の出来上がりだ。


「過去に道から外れた聖女は権力者に付け込まれて魔女になりました」

「存じております」

「彼女にはきちんと目を開き現実と向き合ってもらう必要があります」


この判断は決してテレサを守るわけではないとメティスは言うが、カディシュは解っていた。


(本当にお優しい方だ)


本人がなんて言おうと結果的にテレサを守る形になるのだから。



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