44 / 117
第一章
43最後の温情
しおりを挟む王宮から誰からも見送られることなく数名の聖職者が静かに去って行く。
その中に聖女がいるとは誰も気づかない。
とても質素な装いの聖職者の数名が静かに目立たず歩いているのを誰も振り返ることもない。
「これが最後よ」
メティスはテレサの聖地巡礼の為に数名の聖職者の動向は許した。
傍にいるのは王宮に仕える神官が現役を退いたので聖地巡礼をしたいと以前から申し出ていたものだ。
高齢であるが旅には慣れており、地方の神殿に向かう先も歩きで移動していた。
「貴方の怒りはこの程度ではないでしょうけど」
「殿下」
ちらりと視線を向けると背後にカディシュがいた。
「私は王女として、法律に触れるような裁きはできないわ。本来ならば彼女を追放したいけど」
「いいえ、十分です」
第三者からは氷の王女とも呼ばれているメティスだが、悪人であっても法に触れるような裁き方はしない。
もし法を破るような真似をしたら為政者として、王女として侵してはならない領域に踏み込むと同じ事だからだ。
「娘の事を思ってくださりありがとうございます」
「私は何もでききなかった、ソフィアに聖女の指南役をさせてしまったわ」
「結果的にヘリオスの毒牙から逃げられました」
「でも、苦しんだ時間は多いわ」
あまりにも多すぎた。
その一方で志のない令嬢に聖女の指導を任せるのは危険だった。
ソフィアを信頼していたからこそ任せたが、メティスも罪の意識に苛まれていた。
「お優しい王女殿下」
「何を…」
メティスに優しい目を向けるカディシュは知っていた。
(本当にお優しい方だ)
ソフィアの件に関しては大臣達が勝手にしたことだ。
メティスが関与していないのは明白でテレサの処遇に関してもこれ以上ない程の情けをかけている。
テレサをそのまま村に帰しても、王都の修道院に送れば襲われる。
今後の事も考え償いとして三年の聖地巡礼の後に王都から離れた辺境地の修道院で奉仕活動をさせた後に村に帰れるように手配するつもりだ。
五年の月日を修業に当てるのだ。
第三者はあまりにも厳しいと言うが、これぐらいしないとテレサは世間の批難を浴びるだろう。
そして孤立無援となった状態で、権力者が近づき利用される。
まさに負の連鎖の出来上がりだ。
「過去に道から外れた聖女は権力者に付け込まれて魔女になりました」
「存じております」
「彼女にはきちんと目を開き現実と向き合ってもらう必要があります」
この判断は決してテレサを守るわけではないとメティスは言うが、カディシュは解っていた。
(本当にお優しい方だ)
本人がなんて言おうと結果的にテレサを守る形になるのだから。
171
お気に入りに追加
5,249
あなたにおすすめの小説
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。
【完結】探さないでください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
私は、貴方と共にした一夜を後悔した事はない。
貴方は私に尊いこの子を与えてくれた。
あの一夜を境に、私の環境は正反対に変わってしまった。
冷たく厳しい人々の中から、温かく優しい人々の中へ私は飛び込んだ。
複雑で高級な物に囲まれる暮らしから、質素で簡素な物に囲まれる暮らしへ移ろいだ。
無関心で疎遠な沢山の親族を捨てて、誰よりも私を必要としてくれる尊いこの子だけを選んだ。
風の噂で貴方が私を探しているという話を聞く。
だけど、誰も私が貴方が探している人物とは思わないはず。
今、私は幸せを感じている。
貴方が側にいなくても、私はこの子と生きていける。
だから、、、
もう、、、
私を、、、
探さないでください。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
妹に婚約者を奪われ、聖女の座まで譲れと言ってきたので潔く譲る事にしました。〜あなたに聖女が務まるといいですね?〜
雪島 由
恋愛
聖女として国を守ってきたマリア。
だが、突然妹ミアとともに現れた婚約者である第一王子に婚約を破棄され、ミアに聖女の座まで譲れと言われてしまう。
国を頑張って守ってきたことが馬鹿馬鹿しくなったマリアは潔くミアに聖女の座を譲って国を離れることを決意した。
「あ、そういえばミアの魔力量じゃ国を守護するの難しそうだけど……まぁなんとかするよね、きっと」
*この作品はなろうでも連載しています。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
お姉さまに婚約者を奪われたけど、私は辺境伯と結ばれた~無知なお姉さまは辺境伯の地位の高さを知らない~
マルローネ
恋愛
サイドル王国の子爵家の次女であるテレーズは、長女のマリアに婚約者のラゴウ伯爵を奪われた。
その後、テレーズは辺境伯カインとの婚約が成立するが、マリアやラゴウは所詮は地方領主だとしてバカにし続ける。
しかし、無知な彼らは知らなかったのだ。西の国境線を領地としている辺境伯カインの地位の高さを……。
貴族としての基本的な知識が不足している二人にテレーズは失笑するのだった。
そしてその無知さは取り返しのつかない事態を招くことになる──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる