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第一章
36本来の目的
しおりを挟む恐怖心に覚えているのか、それともこれからの生活に絶望を抱いているのか解らない。
だが、本人は決してマイナスの感情を抱いているのではない。
「ご慈悲を感謝いたします」
「なっ…伯父上!」
「兄上!血迷ったのか!すぐに断れ!」
正気の沙汰ではないと止めに入る弟夫婦だがクロウリーは頭を深く下げる。
「この身が及ぶ限り、役目を果たさせていただきます」
「それは良かった」
本人が了承した以上は第三者が何を言っても無駄だ。
未だに納得していない三人だが、彼の意志などどうでもよい。
「だが、この度の責任は重い。そなた自身には罪はないが…」
「責任をとっらせていただきたく思います。私はグラノーラ領地に五年は謹慎させていただきたく思います。そして今後男爵以上の爵位を賜ることはなきようにお願いします」
「お義兄様!」
「私にできることはもはや、国の為に尽くす以外に償いが見つかりません」
あまりにも潔い姿勢に誰もが不憫に思った。
クロウリーは領主としては優秀であるが、腹黒さがなさ過ぎた。
その所為で強欲な弟夫妻に利用されて来たのだ。
(実に惜しいですわ。この清廉潔白さは…新時代に必要ですわ)
メティスは内側からも国を変えようと考えている。
腹黒くずるがしこいだけでは国を大きくすることはできない。
今後は正教皇国とも外交をしなくてはならないが、清廉潔白さがなさすぎる貴族では彼らに嫌悪感を抱かせるだけだ。
対するクロウリーはどうだろうか。
潔さもあり責任感が強く、自分が生き残るために他人を利用するなどできない男だ。
貴族としては少しばかり問題であるが、周りに信頼させる人柄を持っている。
クロウリーは領地にて他国との貿易をさせるのもいいかと思う中、例の三人はブルブル震えていた。
「一体どうしてしまったの!こんな条件を飲むなんて」
「おかしいのはお前達だ。本来なら私は平民になり島流しになってもおかしくないのだ…なのに名誉挽回の機会をくださったのだぞ」
「何が名誉挽回だ。領地で死ねと言っているようなものだぞ」
「頭がイカレてまともな判断もできなくなったのですか!エステード家を没落させたのは伯父上だ!疫病神め!」
クロウリーの選択を間違いだと暴言を吐き続ける三人は自分達の立場を理解していない。
国王の決定に異論を唱えることなど論外なのだ。
「でしたら、貴方達は貴族を辞めるべきですわ」
「「「は?」」」
三人の言葉に笑顔を浮かべながらメティスは告げた。
「大臣、聞きまして?」
「はい」
「私もしっかり聞いたぞ」
誰もが証人になると言えるだろう。
「お望みどおりに。三人とも貴族除籍なさい」
三人を社交界から追放すると言っても過言ではなかった。
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