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⑯
しおりを挟む本来なら挙式を行うべきであるのに戦時中であることを理由に不要だと言われ、尚且つ金銭的に苦しい黒騎士閣下の立場を前にして侮辱にも近しい真似をされた。
父に関しては平民と婚姻することになった私に縁を切ると手紙が送られてきた。
別に家と縁を切ることに迷いはない。
ただ兄が心配だった。
体が弱い兄に父が何かしないか、最悪の場合にならないと願いたいが。
だが公の場ですることはできない。
大聖堂で挙式を挙げて、ナタリーを喜ばせたい。
「婿殿」
「義父上…」
「挙式の事は心配しなくていい。君の所為じゃない」
「いえ…」
これは嫌がらせだろう。
あの馬鹿王子の。
後はあの両陛下か。
エリーゼ様と懇意だったものは既に王宮から暇を与えられ左遷されるか、酷い時は王都追放。
貴族でない場合はもっとひどい。
公の場でえりーせ様を庇えば罰を与えられる。
権力を自分の為に使うなど論外だというのに。
「お父さん!ルイス様!」
そんな時だった。
ナタリーが声を荒げた。
「どうした…これは」
窓も空いていないのに風がそよいだ。
外を見ると花も咲いていないはずなのに花弁が舞っていた。
「これは…」
「風と水の魔力?」
気持ちい風が吹き、水しぶきが飛ぶ。
広間の噴水がほとばしり水しぶきがキラキラと光り、そこからシャボン玉が飛ぶ。
「この魔力はエリーゼ様か」
「なんて美しいの…」
水の女神の加護を持つエリーゼ様は風魔法も使えたのか。
「エリーゼ様からの贈り物だわ」
「ああ…」
王宮で幽閉に近い状態にあるあの方は私達の為に小さな結婚式を開いてくれたのだろう。
ただ公に祝うことはできない。
その代わりにこんな素敵な贈り物をしてくださったのだ。
「ナタリー、どうしたんだ。なぜ泣いている」
「ルイス様…私は悔しいです」
「悔しい?」
「どうしてエリーゼ様は幸せになれないのでしょうか」
ナタリーの言葉に私は何も言えなかった。
常に誰かの為に尽くしているあの方は決してその思いを顧みられることはない。
あまりにも酷い仕打ちだ。
「女神様は残酷です。一生苦しみにながら生きろだなんて…私でしたら耐えられません」
「男でも耐えられんよ」
エリーゼ様は幸せにならなくてはならない。
その権利があるはずだ。
だが今の私達にできるのは祈るだけだ。
ただあの方を救ってくれる誰かが現れるまで、祈るしかない。
「最悪の場合、革命を起こし姫様を国の外にお連れするかしかない」
「お父さん!」
「最終手段だ」
だがその数か月後。
魔王軍との戦争は終わった。
英雄となる聖騎士の働きにより世界は救われたが、その見返りに王家はエリーゼ様を売ったことを知らされたのだった。
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