上 下
27 / 133

しおりを挟む




あの日、私はちゃんと告白しようと思った。
アルバシア様には嘘をつきたくなかからちゃんと言おうと思った。


――なのに。


「アルバシア様、私は貴方に言わなくてはならないことが」

「何だ」

「もうご存じとは思いますが私は一度結婚しております」

「ああ」

緊張しながらも私はじつとアルバシア様を見つめて私はまだ男性との肉体関係がないと言おうとしたのだが。


「無理をしなくていい」

「は?」


「解っている。私に負い目を感じなくてもいい」

「あの…」


アルバシア様は労りの視線を向けながらそっと私に触れた。

「しかし不思議だな」

「何がでしょう?」

「私はアルテミスの加護を持つのだが、彼の女神は処女女神だからな…男と関係を持った女性には相性が悪いと聞いてる」


それは私が男と関係を持っていないから。

「まぁ私の毒に耐えられる人間はまずいないから例外だろう。水の女神の加護があるからだろうか」


水の女神の加護を持つゆえだというのは解るけど。


「それはですね」

「きっと、貴女の心が綺麗だからだ」

「いえ、そうではなくて」

「だから、気にしないで欲しい」


ああ、天然だ。
かなりの天然記念物だわ。

私の話を聞く前に勝手に勘違いをしている。


「挙式の夜に契りを交わすことになる」

「挙式の時とは別ですか」

「いいや、挙式と契りの時に二人の処女女神に誓いをした後に契り合う男女が愛の誓いに薔薇の紋章を刻むんだ」



言い回しがかなり生々しい。


「ただ、一度他の男と契っている状況だと、穢れを抜かなくてはならない」

「はっ…はぁ」


「その場合は通常の契りよりも少しツライかもしれないが、できるだけ負担にならないようにしよう」


この人、基本はいい人なんだけど。
勘違いと思い込みが相当だと思った私は間違っていないはず。


「私はどんな貴女でも受け入れる。だからそんな悲しい目をしないでくれ」

「いえ、そうではなくですね」

「私を信じて欲しい」


もう無理だ。
どうあっても私の話を聞く気はない。


いや、聞く気がないというよりも勘違いをしている。
恐らくこれ以上私を傷つけないようにしようと必死なのだろう。


だけどこれってまずくないかしら?
いざ初夜の本番になって実は初めてでしたなんて言ったら困らないかしら?


でも、完全にタイミングを逃してしまっている。

せめて侍女に相談をと試みたのに。

同じような反応で言えずじまいになってしまった。



そして現在に至る。



「どうしよう」


どうにかなるかな?
なるようになるか?なんて行き当たりばったりな事を考えてしまっていた。




しおりを挟む
感想 123

あなたにおすすめの小説

勝手に召喚して勝手に期待して勝手に捨てたじゃないの。勝手に出て行くわ!

朝山みどり
恋愛
大富豪に生まれたマリカは愛情以外すべて持っていた。そして愛していた結婚相手に裏切られ復讐を始めるが、聖女として召喚された。 怯え警戒していた彼女の心を国王が解きほぐす。共に戦場へ向かうが王宮に反乱が起きたと国王は城に戻る。 マリカはこの機会に敵国の王と面会し、相手の負けで戦争を終わらせる確約を得る。 だが、その功績は王と貴族に奪われる。それどころか、マリカは役立たずと言われるようになる。王はマリカを庇うが貴族の力は強い。やがて王の心は別の女性に移る・・・

今世は好きにできるんだ

朝山みどり
恋愛
誇り高く慈悲深い、公爵令嬢ルイーズ。だが気が付くと粗末な寝台に横たわっているのに気がついた。 鉄の意志で声を押さえ、状況・・・・状況・・・・確か藤棚の下でお茶会・・・・ポットが割れて・・・侍女がその欠片で・・・思わず切られた首を押さえたが・・・・首にさわった手ががさがさ!!!? やがて自分が伯爵家の先妻の娘だと理解した。後妻と義姉にいびられている、いくじなしで魔力なしの役立たずだと・・・・ なるほど・・・今回は遠慮なく敵をいびっていいんですわ。ましてこの境遇やりたい放題って事!! ルイーズは微笑んだ。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

王妃はわたくしですよ

朝山みどり
恋愛
王太子のやらかしで、正妃を人質に出すことになった。正妃に選ばれたジュディは、迎えの馬車に乗って王城に行き、書類にサインした。それが結婚。 隣国からの迎えの馬車に乗って隣国に向かった。迎えに来た宰相は、ジュディに言った。 「王妃殿下、力をつけて仕返ししたらどうですか?我が帝国は寛大ですから機会をたくさんあげますよ」 『わたしを退屈から救ってくれ!楽しませてくれ』宰相の思惑通りに、ジュディは力をつけて行った。

一年で死ぬなら

朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。 理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。 そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。 そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。 一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

いつまでも甘くないから

朝山みどり
恋愛
エリザベスは王宮で働く文官だ。ある日侯爵位を持つ上司から甥を紹介される。 結婚を前提として紹介であることは明白だった。 しかし、指輪を注文しようと街を歩いている時に友人と出会った。お茶を一緒に誘う友人、自慢しちゃえと思い了承したエリザベス。 この日から彼の様子が変わった。真相に気づいたエリザベスは穏やかに微笑んで二人を祝福する。 目を輝かせて喜んだ二人だったが、エリザベスの次の言葉を聞いた時・・・・

妹がいらないと言った婚約者は最高でした

朝山みどり
恋愛
わたしは、侯爵家の長女。跡取りとして学院にも行かず、執務をやって来た。婿に来る王子殿下も好きなのは妹。両親も気楽に遊んでいる妹が大事だ。 息詰まる毎日だった。そんなある日、思いがけない事が起こった。 わたしはそれを利用した。大事にしたい人も見つけた。わたしは幸せになる為に精一杯の事をする。

王子の婚約者を辞めると人生楽になりました!

朝山みどり
恋愛
わたくし、ミランダ・スチュワートは、王子の婚約者として幼いときから、教育を受けていた。わたくしは殿下の事が大好きで将来この方を支えていくのだと努力、努力の日々だった。 やがてわたくしは学院に入学する年になった。二つ年上の殿下は学院の楽しさを語ってくれていたので、わたくしは胸をはずませて学院に入った。登校初日、馬車を降りると殿下がいた。 迎えに来て下さったと喜んだのだが・・・

処理中です...