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私は、今までエルバート様に心の内をこんな風に話しただろうか。
婚約してすぐの頃は私なりに彼に近づこうと、寄り添おうとしたけど頑張ることを止めてしまった。


だから心が離れた。
アラグネ妃はあの方の心にしっかりよりそっていたからこそ愛されたのかもしれない。


だからもう間違えることはしない。


「私はアルバシア様の心をすべて理解することはできません」

「それは…」

「だって貴方の苦悩を他人が理解できるはずがありません。その葛藤苦しみは貴方のだけの物ですし、それを誇りと申されるのでしたら…」


解った風になるのは傲慢だ。
その人の生きざまを簡単に理解できるはずがない。


「人とはままならぬものです。どんなに長く傍にいても、親子であろうともすべてを理解なんてできません」


「貴女もどうだったのか?」

「私は他人の心に疎い、無神経な女です」


私は人の心を敏感に察することができない。
だから中エルバート様も、国王陛下も王妃陛下とも心を通わせることができなかった。


王宮の中にも味方はおらず孤立した。


「そんなわけないだろう…貴方程他者の心に敏感な人はいない」

「いいえ、私は長く傍にいた夫の心を解らなかった。あの方も私の心は見えなかった」


「心残りはないのか」


「ないと言ったら私は酷い女でしょうか」



寂しいとも思っていない。
悔しいと思うことはあっても帰りたいとは思わない時点で私は相当冷たい女のかもしれない。


「私は酷い女です。何年も過ごしたあの方に愛情はないのですから」

「そんなわけあるか!」

「いいえ、そうなのです。私はクラリスに来て皆さんに優しくしていただきあの国に帰りたくないと思いました」


民の事は心配だし、辺境伯爵の皆様の事も気がかりであるけど。
後はどうだと聞かれればさぁと答えるしかないかもしれないなんてあまりにも冷たすぎると思っている。



「エリーゼは不本意な形で私の妻になった…だからこそ私はこれ以上嫌な思いをして欲しくなかった」


「それを言うなら貴方の方が…」

「エリーゼでなかったらそうだったかもしれない」


私の手に触れるのを恐れていた手が触れあった。


「妻にってくれ。形だけ得なくちゃんと」

「はい…」



私達はもしかしたら似ているのかもしれない。
今はまだ出会って間無しだけど、私はこの方が好きだ。


優しく不器用で繊細な彼を守ってあげたい。
聖騎士に様に失礼だけど脆さのあるこの方を守ってあげたいと思ってしまった。


こんなに優しい人を知らない。


いいえ、一人だけ。
私の思い出の中に同じように綺麗で優しい人を知っている。


だから守ろう。
できることは少ないけど、彼の心を守ろうと誓った。


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