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2 私が私の気持ちに気づくまでの日々

3 ちぐはぐなコーディネート

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 「おはよう。リリアン、今日も可愛いわね。いいコーディネートじゃない」

 翌日に朝食の場でエリックに会って、いつも通りに声を掛けられる。特に変わった様子はない。父上が静かに朝食をとっているけど、まだエイダの姿がなくてほっとする。

 「えへへ。今日はちょっと気合をいれたから、褒めてもらえてうれしいな」

 気が付くと沈み込む自分を励ますように、今日はハッキリとした黄緑色でコーディネートした。襟付きの白色のシャツは、襟と腕の部分が黄緑色の布に切り替わっていて、ボタンも黄緑色のクルミボタンだ。シャープな形のひざ下丈のボックスプリーツスカートは気分をシャッキリしたい時にちょうどいい。服がきちんと系なので、髪型はツインテールにして甘めにしてみた。髪留めにはカリスタから貰ったイミテーションの緑の石が輝いている。

 「今日も一緒に行くでしょ? チェルシー姉さんはどうせ重役出勤だろうしねー」

 「うん、一緒に行く!」

 リリアンが服のデザイナーや服を作る仕事を目指すことに決めてからチェルシーとエリックのお店で、お針子の仕事や雑事やたまにオーダーメイドのお客様のデザインを担当したりしている。いつも朝は、エリックと一緒の馬車で出勤している。

 お店で自分が役に立っているのか?という疑問はあるものの、ケイリーと話してできることをしようと決めたので、気持ちを切り替える。

 「あーでも、今日はあの子も一緒に付いて来るかもなんだけど……」

 「そっか……」

 「リリアン、今日は母上に着いて行く?」

 「うううん。あの子がいてもお店に行く」

 気乗りしないリリアンに敏いエリックは気づいて、気遣う言葉をかけてくれる。でも、あの子とエリックを二人にするのもなんだか嫌だし、あの子が嫌だからって仕事を投げ出したくない。

 「ちょっと! なんとかして、リリアン!」

 朝食後にトボトボと廊下を歩いていると、いきなり現れたエイダに腕を掴まれる。

 「この格好じゃ、エリックさんの仕事場に連れていけないって言われたのよ! そうだ、あんたのその服、私に貸してよ! さっき、エリックさんに褒められていたじゃない」

 エイダは昨日とは違う服だが、同じように丈が短くて、露出の多いワンピースを着ている。なにをするためにお店に付いてくるのかはわからないが、確かに適切ではないだろう。

 「えぇっ? でも、サイズが合わないだろうし、エイダさんだったら、もっと違う色の方が似合うと思うんですけど……」

 エイダの提案にも驚いたが、朝、姿は見えなかったのにどこでエリックとの会話で聞いていたのかも気になった。

 「もー、時間がないのよ! 早くしてよ!」

 リリアンの周りにはこんなに強引な人はいなかった。強いて言えば、実の上の姉がそういったタイプだが、絡まれていたのはマルティナで、リリアンはあまり関わりがなかった。マルティナもこんな大変な思いをしていたのだろうか……子どもの頃を思い出して、少し気持ちが沈む。

 「ちょっとぼんやりしていないで、早く!」

 急かすエイダの勢いに飲まれて、リリアンの部屋の衣装部屋で、リリアンが着ていた服をエイダに渡し、自分はそのへんにあったワンピースを手早く着た。エイダは、やはり体形が違うので、上のシャツのボタンの胸元がパツパツになっているし、ひざ下丈のスカートは丈が足りなくて、膝が見えてしまっている。

 「少しだけ、黙って、止まっていてください」

 それでも、服に関わる仕事をする者として、この不格好なエイダを外に出すわけにいかない。リリアンの権幕に押し黙ったエイダの上のシャツをいったん脱がせて、中にフリルのついたキャミソールを着せて、再びシャツを着せる。胸元のボタンはわざと外した。キャミソールのおかげで胸元が目立つ心配はない。エイダが昨日着ていたワンピースよりは丈は長いが半端に見えるスカートのすそに、同色系のチェックのフリルを手早く縫い付けていく。

 「よし、これならなんとか」

 「なんとかってなによ。あんたに似合うなら、私に似合って当然でしょ。ああ、その髪飾りも貸してよ」
 エイダは服を見られるようにまとめたリリアンにお礼も言わずに、さらには髪飾りをねだる。

 「これは、カリスタ姉さんに貰った大切な物なので……」

 リリアンは思わず、髪飾りを両手で隠す。リリアンにクマのぬいぐるみを欲しいって言われた時のマルティナ姉様はこんな気持ちだったのかしら? 今日はやけに祖国での出来事が頭によぎる。

 「ちょうだいって言ってるわけじゃないんだからいいじゃない! 今日、一日貸してって言っているだけでしょう!!」

 そういうと、エイダは強引にリリアンの髪から飾りを取って、自分の髪につけている。リリアンはエイダともみ合って、くしゃくしゃになった自分の髪からゴムを外すと、髪の毛を下ろした。

 「ほら、行くわよ!」

 鏡で全身を見て、ご満悦のエイダに引きずられるようにして、リリアンも連れて行かれた。

 「どういうことかしら? エイダ、それリリアンが今朝着ていた服よね?」
 玄関で待つエリックが二人の姿を見て、目を吊り上げる。リリアンは自分が怒られているかのように身を縮ませた。

 「そうなんですぅ。リリアンに服のこと、相談したら、ぜひこれを着てって言ってくれて」
 エイダは怒りを醸し出すエリックに気づくこともなく、昨日のようにエリックに絡みついて行く。

 「リリアン」
 「そうなの。ホラ、エイダちゃんに似合うようにアレンジしてみたの。なかなかエイダちゃんに似合っているでしょう。お仕事に遅れちゃう。もう、行こう」
 物言いたげなエリックを制して、リリアンは先に馬車に乗った。

 なんとなくだけど、きっとリリアンが泣きつけば、エリックはエイダを叱ってくれたと思う。エリックが気づいて、怒ってくれようとした。それだけで十分だ。

 エリックが叱ったところで、エイダは聞かないし、最悪もっと騒動が大きくなって、仕事に遅れてしまうかもしれない。ここは、リリアンが我慢して気持ちを飲みこめばいいだけだ。母上だって、数日の我慢だと言っていた。

 エイダに服を取られてそのへんにあったワンピースを適当に着たので、リリアンは白い襟付きの紺色のシンプルなワンピースだ。靴だけが今朝着ていた服と合わせた緑色のストラップのついたヒールの靴。髪の毛も無造作に下ろしたまま。そのちぐはぐな格好が今のリリアンの浮かない気持ちと一緒だなぁと思いながら、馬車に揺られた。
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