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1 私が私を見つけるまでの日々

1 自分について知った日

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 私がいる意味はあるのかな?
 私がこの世に存在している意味はなに?

 小さな頃から時折、心に響く問いかけ。
 でも、私の頭のちっぽけな脳みそは、そんな思いが浮かんでも、すぐ目の前の事に捕らわれてしまって、深く考える間もなく、泡のようにすぐ消えていく。

 でも、その思いは心の底にこびりついて、なくなることはなかった。

◇◇
 
 私、リリアン・スコールズは、由緒正しいスコールズ伯爵家の末っ子だ。一番上の姉のアイリーンは、美しくて優雅で、優秀だ。二番目の姉のマルティナは、優しくて、賢くて面倒見が良い。リリアンは、愛嬌があって可愛いなんて言われている。

 母親も顔立ちの整っている三姉妹の親だけあって、美しい容姿をしていた。自分と同じ金髪青瞳のアイリーンとリリアンばかりを可愛がっていた。マルティナと六歳離れているリリアンにもわかるくらいに。マルティナは父親譲りの黒髪黒瞳をしていて、地味だけど、やはり顔立ちは整っていた。アイリーンやリリアンのようにわかりやすい美しさや可愛さではないけれど。

 そんな母親に倣うように、大人達も同世代の子ども達も陰でマルティナを『三姉妹の中でハズレだ』なんてささやいていた。そして、同じ口でアイリーンやリリアンを誉めそやした。アイリーンやリリアンが持ちあげられ、マルティナが蔑まれるたびに、胸の奥にもやもやがたまっていく。でも、その状況をどうにかすることも違和感をぬぐうこともリリアンにはできなかった。

◇◇
 
 自分がどんな存在なのかわかったのは、いくつの時だろう?

 お母さまの仲のいいおばさまの家に、お母さまと一緒に遊びに行くと、そこには初めて見る生き物がいた。

 小さくてふわふわした白い毛並みをした犬だった。犬なのに、その毛並みは艶々していて、首にはかわいいピンクのリボンまでつけている。

 「可愛い……」

 「リリアンっ! ご挨拶は?」

 「こんにちは……じゃない……御機嫌よう。今日はおまねきいただきありがとうございます……」

 スカートをつまんでお辞儀をすると、横目でお母さまの顔色を窺う。目が吊り上がっている。家に帰ったら、ぶたれるかもしれない。

 「こんにちは。あらあら、相変わらず可愛らしいこと。楽にしてちょうだい。お菓子もたくさん用意したのよ。楽しんでいってね」

 お茶をしてお母さまとおばさまが話している間ずっと、おばさまは膝にその犬を乗せて、小さな犬を撫でまわしたり、時折その小さな鼻にキスをしたりしていた。

 そして、犬が飽きて膝から下りたがったり、おばさまのキスを嫌がったりするとおばさまにお尻をはたかれていた。

 その時、リリアンは気づいた。

 ああ、私はこの犬と同じなんだ。

 人に飼われる犬や猫のことを愛玩動物ペットっていうんだって。

 私は人間だけど、きっとお母さまやお母さまのお友達のおじさまやおばさまの愛玩動物ペットなんだわ。

 だって、お母さまは他の人がいる場所でリリアンが話したり、余分なことをするとすぐに睨む。もっとひどいと、そっと腕を抓られる。家だと誰もいない所でぶたれたりする。

 お母さまはリリアンを撫でたり抱きしめたりしないけど、家に遊びに来たおじさまに抱っこされたり、膝に乗せられても、にこにこしているだけだ。遊びに行ったお家のおばさまに撫でまわされても、キスされても、にこにこしているだけだ。

 おじさまやおばさまの香水や化粧や汗の匂いが臭い。ベタベタ触るその手の感触が気持ち悪い。なにより、にやけたようなその表情に背筋がぞっとする。

 初めは『嫌だ』と『気持ち悪い』とお母さまに訴えたのよ?

 でも『可愛がってもらえていいわね。いいこと、大人しくしているのよ』なんて怒っているときの目で見られたら、もう何も言えなくなった。

 ね、犬や猫と一緒でしょ?

 私は抱っこされたり、撫でまわされたりしたくないのに、こっちの思いなんて無視して可愛がって、余分なことをしたり話したら、抓られたりぶたれたりする。

 そこに、私の気持ちは必要ないの。可愛がりたいという気持ちを一方的に押し付けられるだけなの。
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