上 下
36 / 40
4 三姉妹のハズレだった私の再生

7 誕生日パーティー②

しおりを挟む
 マルティナの誕生日パーティーはスコールズ家で行われていたアイリーンやリリアンの誕生日会ほど盛大でも豪華でもないけど、家族の笑顔と温かさに溢れていた。

 マルティナは今まで生きてきた中で言われた分よりたくさんのおめでとうとプレゼントをこの一日でもらった。

 人生ではじめて生まれてきてよかったと思える誕生日だ。
 あの国にいた時の私にはきっと信じられないだろうな。
 今、傍にいる血のつながった家族はリリアンだけだ。
 ブラッドリーをはじめとしたここにいる人たちは一かけらも血が繋がっていない。でも、この人たちが私の家族ですって胸をはって言える。

 まだ、会って日も浅いけど。まだ、完全に心を開けているわけでもないけど。でも、信頼できる温かい人達。胸がいっぱいになったマルティナは、高揚する自分を落ち着かせようとバルコニーで一人、夜空を眺める。

 「主役がどうしたの?」
 「なんだか胸がいっぱいで。誕生日を祝ってもらうってはじめてだから」
 三人掛けのベンチに寄り添うようにしてブラッドリーが座る。二人の間に隙間はない。二人で無言でしばし夜空に瞬く星を眺める。

 「ブラッドリーの卒業パーティーの時の星空も綺麗だったね」
 祖国にいた時のことが遠い昔のことのように思える。あの時は、こうしてブラッドリーと気持ちを通い合わせて、また星空を見れるなんて思ってもいなかった。

 「マルティナ、愛してる」
 ふいに抱きしめられて、ブラッドリーの大きな体に包まれて、マルティナは幸せを感じた。
 「ブラッドリー、私も愛してる」
 ずっと言いたかった言葉がするっと出てくる。ブラッドリーからやさしい口づけが降ってくる。

 「マルティナ、結婚しよう」
 「えっ」
 ブラッドリーとお互い、気持ちがあることは、態度やその目線でなんとなく感じてはいたし、今朝、言葉で気持ちが通じていることを知った。それでも、いきなりの提案に、マルティナは言葉に詰まる。マルティナが難しい顔をしていると、ブラッドリーに額の皺をのばされる。

 「ははっ。マルティナは考えていることが筒抜けだな。マルティナのことだから、恋人同士になって関係性を育んで、自立してからって思ってるんだろ? でも、俺は我慢できない。マルティナ、家を出てエミリーと一緒に暮らすつもりなんだよね? 一緒に暮らすの、俺じゃダメかな? 毎日、マルティナの顔が見たいし、一緒に暮らしたい。ダメかな?」

 「ふふふ、私がブラッドリーのお願いを断れたことがある?」

 「これから一緒にご飯を食べて、一緒に眠って、仕事をして、いろいろな場所に行こう。たくさんの景色を見て、経験して、一緒に楽しんで笑って暮らそう。

 もちろんそれだけじゃなくって、マルティナが困った時も、寂しい時も辛い時も、ずっと隣にいたいんだ」

 「ありがとう、ブラッドリー」

 ブラッドリーと家族になる。
 楽しさも悲しさもいいことも悪い事も一緒に味わって生きていく。

 マルティナの中にあたたかい気持ちが広がる。
 ああ、家族って色々な形があって、正解はないけど、きっとブラッドリーと一緒なら楽しい。
 それだけは断言できる。

◇◇

 「あーやっとくっついた。あの二人まだつきあってなかったのよ、信じられる?」
 「まぁ、マルティナちゃんは家族のことで色々あったから、恋愛どころじゃなかったのよ。あと、ブラッドリーがマルティナちゃんが大事すぎて、慎重になりすぎちゃったんでしょ」
 窓からバルコニーにいる二人を眺めながら、エミリーがつぶやく。隣でワインを味わいながら、エリックがしたり顔で補足する。

 「くっついたら、結婚まで早そうねー」
 「そうだな、俺らの結婚と被らないように調整しないとだな……いっそのこと合同でするか?」
 エミリーとエリックが話している所に、レジナルドが割り込む。

 「は? 私達って結婚するの?」
 「ああ。枷つけておかないと、すぐにどっか行っちゃうからな。事実婚でいいなんて言わせないから」
 「えー聞いてないーーー!!!」
 「ああ。プロポーズはこれからするから。ということで、エリック、俺らもちょっとはずすわ」
 「ハイハーイ、ごゆっくり。はー結婚式が二組か……忙しくなるわねー」
 「エリック、マルティナねーさま見なかった?」
 エリックがウェディングドレスの算段をしていると、リリアンが飛び込んでくる。

 「あーちょっとお取込み中だから、あっちでケーキでも食べながら、ウェディングドレスのデザインでも考えましょ」
 「えー誰のドレスですか? 楽しみだなぁ」
 バルコニーが見える窓からリリアンの視線を離すようにエリックは誘導した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

公爵令嬢姉妹の対照的な日々 【完結】

あくの
恋愛
 女性が高等教育を受ける機会のないこの国においてバイユ公爵令嬢ヴィクトリアは父親と交渉する。  3年間、高等学校にいる間、男装をして過ごしそれが他の生徒にバレなければ大学にも男装で行かせてくれ、と。  それを鼻で笑われ一蹴され、鬱々としていたところに状況が変わる出来事が。婚約者の第二王子がゆるふわピンクな妹、サラに乗り換えたのだ。 毎週火曜木曜の更新で偶に金曜も更新します。

公爵令嬢ディアセーラの旦那様

cyaru
恋愛
パッと見は冴えないブロスカキ公爵家の令嬢ディアセーラ。 そんなディアセーラの事が本当は病むほどに好きな王太子のベネディクトだが、ディアセーラの気をひきたいがために執務を丸投げし「今月の恋人」と呼ばれる令嬢を月替わりで隣に侍らせる。 色事と怠慢の度が過ぎるベネディクトとディアセーラが言い争うのは日常茶飯事だった。 出来の悪い王太子に王宮で働く者達も辟易していたある日、ベネディクトはディアセーラを突き飛ばし婚約破棄を告げてしまった。 「しかと承りました」と応えたディアセーラ。 婚約破棄を告げる場面で突き飛ばされたディアセーラを受け止める形で一緒に転がってしまったペルセス。偶然居合わせ、とばっちりで巻き込まれただけのリーフ子爵家のペルセスだが婚約破棄の上、下賜するとも取れる発言をこれ幸いとブロスカキ公爵からディアセーラとの婚姻を打診されてしまう。 中央ではなく自然豊かな地方で開拓から始めたい夢を持っていたディアセーラ。当初は困惑するがペルセスもそれまで「氷の令嬢」と呼ばれ次期王妃と言われていたディアセーラの知らなかった一面に段々と惹かれていく。 一方ベネディクトは本当に登城しなくなったディアセーラに会うため公爵家に行くが門前払いされ、手紙すら受け取って貰えなくなった。焦り始めたベネディクトはペルセスを罪人として投獄してしまうが…。 シリアスっぽく見える気がしますが、コメディに近いです。 痛い記述があるのでR指定しました。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。

あなたの事は記憶に御座いません

cyaru
恋愛
この婚約に意味ってあるんだろうか。 ロペ公爵家のグラシアナはいつも考えていた。 婚約者の王太子クリスティアンは幼馴染のオルタ侯爵家の令嬢イメルダを側に侍らせどちらが婚約者なのかよく判らない状況。 そんなある日、グラシアナはイメルダのちょっとした悪戯で負傷してしまう。 グラシアナは「このチャンス!貰った!」と・・・記憶喪失を装い逃げ切りを図る事にした。 のだが…王太子クリスティアンの様子がおかしい。 目覚め、記憶がないグラシアナに「こうなったのも全て私の責任だ。君の生涯、どんな時も私が隣で君を支え、いかなる声にも盾になると誓う」なんて言い出す。 そりゃ、元をただせば貴方がちゃんとしないからですけどね?? 記憶喪失を貫き、距離を取って逃げ切りを図ろうとするのだが何故かクリスティアンが今までに見せた事のない態度で纏わりついてくるのだった・・・。 ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★ニャンの日present♡ 5月18日投稿開始、完結は5月22日22時22分 ★今回久しぶりの5日間という長丁場の為、ご理解お願いします(なんの?) ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

婚約者のいる側近と婚約させられた私は悪の聖女と呼ばれています。

鈴木べにこ
恋愛
 幼い頃から一緒に育ってきた婚約者の王子ギルフォードから婚約破棄を言い渡された聖女マリーベル。  突然の出来事に困惑するマリーベルをよそに、王子は自身の代わりに側近である宰相の息子ロイドとマリーベルを王命で強制的に婚約させたと言い出したのであった。  ロイドに愛する婚約者がいるの事を知っていたマリーベルはギルフォードに王命を取り下げるように訴えるが聞いてもらえず・・・。 カクヨム、小説家になろうでも連載中。 ※最初の数話はイジメ表現のようなキツイ描写が出てくるので注意。 初投稿です。 勢いで書いてるので誤字脱字や変な表現が多いし、余裕で気付かないの時があるのでお気軽に教えてくださるとありがたいです٩( 'ω' )و 気分転換もかねて、他の作品と同時連載をしています。 【書庫の幽霊王妃は、貴方を愛することができない。】 という作品も同時に書いているので、この作品が気に入りましたら是非読んでみてください。

処理中です...