上 下
35 / 40
4 三姉妹のハズレだった私の再生

6 誕生日パーティー①

しおりを挟む
  マーカス家に帰ると、昼過ぎからマルティナの誕生日パーティーが始まった。
 今日は一か所にさまざまな料理が置かれて、家の中はもちろん、庭にもテーブルや椅子が配置されていて、好きな時に好きな分だけ、料理を食べる方式だった。

 ブラッドリーの両親はもちろん、長男一家やレジナルドとエミリー、リリアン、エリックをはじめとしたプレスコット家の家族まで、一族が勢ぞろいしていた。

 みんなからお祝いのことばをもらって、ハグされる。
 プレゼントは、マーカス家やエリックの実家であるプレスコット家のみんなの個性の豊かさが溢れたものだった。

 ブラッドリーの母からは、マルティナの好きな花をあしらった花束。ブラッドリーの父からは、最近買い付けに行った国で買ってきたフルーツのお酒。エミリーからは花の香りのするハンドクリーム。ブラッドリーの下の兄のレジナルドからは、マルティナの祖国のシンプルな紅茶の葉。

 どれも、ささやかで高価ではないけれど、マルティナの好きなものばかりで、マルティナを思う気持ちが現れたプレゼントばかりだ。

 そして、ブラッドリーの上の兄であるフレドリック一家はなんと、家族全員でダンスを披露してくれた。曲自体は、この国のお祝いによく歌われる曲だが、衣装や振り付けはイーサンをはじめとした子ども達が考えてくれたものだという。

 紙や包装紙で作られたコミカルな衣装に身につつみ、厳ついフレドリックが真剣な表情で踊る様は、そのギャップもあり、みんなの笑いを誘う。みんなの手拍子や笑い声をものともせず、フレドリックの普段もの静かな妻のジョアンナも情熱的なダンスを披露する。子ども達も一生懸命踊ってくれて、時折、振りを忘れたり、テンポがズレたりするけど、その様も可愛らしい。

 「はーいいもの見た。フレドリック兄さんにこんな特技があったなんて。ぜひ、俺の誕生日にもやってくれよ!」
 「やだよ。なんで、お前のためにやんなくちゃいけないんだよ」
 どこかツボにはまったのか、大爆笑していたレジナルドが盛大な拍手をしながら茶々を入れる。マルティナも笑ったり、涙ぐんだり、感情が忙しい。

 エリックの家族であるプレスコット家の面々もプレゼントを用意してくれていた。エリックの両親からは、動物をモチーフにしたお菓子の詰め合わせをもらった。

 エリックの二人の姉は、髪や服に飾れるようにいつかのエリックのように生花を加工して、マルティナを飾りたててくれた。
 「俺のあげたネックレスが霞んでる……」
 「もーブラッドリーがマルティナちゃんに服とかアクセサリーをプレゼントしようとすると阻止してくるから、生花にしたのにぃ」
 「ブラッドリーってほんとケチよね。心せまーい」
 「うぅ……」
 「お花もネックレスもどっちもうれしいよ。ありがとう」
 「「やだー、らぶらぶー」」
 二人の従姉に、からかわれて萎れるブラッドリーがどこか可愛くて、マルティナは背伸びしてブラッドリーの頭をなでてお礼を言った。さらにからかわれることになって、ブラッドリーの耳が赤くなる。その様を見て、くすぐったい気持ちになった。

 「アタシからはケーキよ。といっても、作ったのはケーキ屋さんなんだけど、アイディアというかデザインは私がしたのよ!」
 エリックが用意してくれたケーキはシンプルなスポンジとクリームのケーキで、大きな長方形をしていた。そのケーキの至る所に花と瑞々しい果物が飾ってあって、カラフルだ。
 「この飾りのお花、砂糖漬けで、全部食べられるのよ! 食べられるお花があるって聞いて、ケーキ屋さんと相談して作ってもらったの」
 「わーすごい!! すてき! エリック、ありがとう」
 マルティナは自分の誕生日に料理やケーキを用意してもらうのははじめてで、胸が熱くなる。エリックの用意してくれたケーキだけではなくて、家族総出で作ったマルティナの好きな料理ばかりがテーブルいっぱいに並んでいる。

 「じゃじゃーん、私からはこれです!! ちゃんと、ブラッドリー様から許可をもらいました!」
 誇らしげにリリアンは手のひら大の二匹のクマのぬいぐるみをかかげる。

 「ブラッドリーの許可?」
 「エリック様から、この国では誕生日プレゼントは食べ物とかお花とか、形に残らないものを贈る習慣があるって聞いたの。形に残る物をプレゼントをするのは両親や恋人や夫だけなんだって。リリアンは妹だけど、マルティナ姉さまの特別だからいいかなって思って」と教えてくれた。その風習を知って、今までブラッドリーから贈られたプレゼントに込められた思いの深さを知る。

 リリアンのプレゼントは、二匹の手のひら大の黒いクマのぬいぐるみで、片方のクマの耳に花の飾りがついていて、もう片方のクマの首に赤いリボンが結んである。
 「わーかわいい。リリアン、ありがとう」
 「うふふふ、なんとリリアンの手作りでーす。マルティナ姉さまのクマちゃんはリリアンがもらっちゃったので、これからはこのクマちゃんを可愛がってください。この二匹、お手てを縫い合わせてあるので、ずっとくっついてるんです!」
 「ま、ブラッドリーとマルティナちゃんみたいな?」
 今度はエリックからマルティナがからかわれて、顔を赤くする。以前なら、エリックの言葉を否定していたけど、気持ちが通じ合った今は、恥ずかしいけど、どこかうれしい気持ちがある。

 「リリアン、すごいわね。かわいい、大事にするね。ありがとう」
 リリアンも伯爵家を出る時にクマのぬいぐるみを押し付けられて、複雑な気持ちになっただろう。それをこんなすてきなプレゼントで返してくれた、その気持ちがなによりうれしかった。二人で笑顔でマルティナの誕生日を迎えられることも。

 それからは、みんな好きなように談笑し、料理を食べて、お酒を飲んで、時に騒いで、マルティナの誕生日祝いのパーティーは賑やかに日が暮れても続いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

公爵令嬢姉妹の対照的な日々 【完結】

あくの
恋愛
 女性が高等教育を受ける機会のないこの国においてバイユ公爵令嬢ヴィクトリアは父親と交渉する。  3年間、高等学校にいる間、男装をして過ごしそれが他の生徒にバレなければ大学にも男装で行かせてくれ、と。  それを鼻で笑われ一蹴され、鬱々としていたところに状況が変わる出来事が。婚約者の第二王子がゆるふわピンクな妹、サラに乗り換えたのだ。 毎週火曜木曜の更新で偶に金曜も更新します。

公爵令嬢ディアセーラの旦那様

cyaru
恋愛
パッと見は冴えないブロスカキ公爵家の令嬢ディアセーラ。 そんなディアセーラの事が本当は病むほどに好きな王太子のベネディクトだが、ディアセーラの気をひきたいがために執務を丸投げし「今月の恋人」と呼ばれる令嬢を月替わりで隣に侍らせる。 色事と怠慢の度が過ぎるベネディクトとディアセーラが言い争うのは日常茶飯事だった。 出来の悪い王太子に王宮で働く者達も辟易していたある日、ベネディクトはディアセーラを突き飛ばし婚約破棄を告げてしまった。 「しかと承りました」と応えたディアセーラ。 婚約破棄を告げる場面で突き飛ばされたディアセーラを受け止める形で一緒に転がってしまったペルセス。偶然居合わせ、とばっちりで巻き込まれただけのリーフ子爵家のペルセスだが婚約破棄の上、下賜するとも取れる発言をこれ幸いとブロスカキ公爵からディアセーラとの婚姻を打診されてしまう。 中央ではなく自然豊かな地方で開拓から始めたい夢を持っていたディアセーラ。当初は困惑するがペルセスもそれまで「氷の令嬢」と呼ばれ次期王妃と言われていたディアセーラの知らなかった一面に段々と惹かれていく。 一方ベネディクトは本当に登城しなくなったディアセーラに会うため公爵家に行くが門前払いされ、手紙すら受け取って貰えなくなった。焦り始めたベネディクトはペルセスを罪人として投獄してしまうが…。 シリアスっぽく見える気がしますが、コメディに近いです。 痛い記述があるのでR指定しました。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。

あなたの事は記憶に御座いません

cyaru
恋愛
この婚約に意味ってあるんだろうか。 ロペ公爵家のグラシアナはいつも考えていた。 婚約者の王太子クリスティアンは幼馴染のオルタ侯爵家の令嬢イメルダを側に侍らせどちらが婚約者なのかよく判らない状況。 そんなある日、グラシアナはイメルダのちょっとした悪戯で負傷してしまう。 グラシアナは「このチャンス!貰った!」と・・・記憶喪失を装い逃げ切りを図る事にした。 のだが…王太子クリスティアンの様子がおかしい。 目覚め、記憶がないグラシアナに「こうなったのも全て私の責任だ。君の生涯、どんな時も私が隣で君を支え、いかなる声にも盾になると誓う」なんて言い出す。 そりゃ、元をただせば貴方がちゃんとしないからですけどね?? 記憶喪失を貫き、距離を取って逃げ切りを図ろうとするのだが何故かクリスティアンが今までに見せた事のない態度で纏わりついてくるのだった・・・。 ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★ニャンの日present♡ 5月18日投稿開始、完結は5月22日22時22分 ★今回久しぶりの5日間という長丁場の為、ご理解お願いします(なんの?) ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

婚約者のいる側近と婚約させられた私は悪の聖女と呼ばれています。

鈴木べにこ
恋愛
 幼い頃から一緒に育ってきた婚約者の王子ギルフォードから婚約破棄を言い渡された聖女マリーベル。  突然の出来事に困惑するマリーベルをよそに、王子は自身の代わりに側近である宰相の息子ロイドとマリーベルを王命で強制的に婚約させたと言い出したのであった。  ロイドに愛する婚約者がいるの事を知っていたマリーベルはギルフォードに王命を取り下げるように訴えるが聞いてもらえず・・・。 カクヨム、小説家になろうでも連載中。 ※最初の数話はイジメ表現のようなキツイ描写が出てくるので注意。 初投稿です。 勢いで書いてるので誤字脱字や変な表現が多いし、余裕で気付かないの時があるのでお気軽に教えてくださるとありがたいです٩( 'ω' )و 気分転換もかねて、他の作品と同時連載をしています。 【書庫の幽霊王妃は、貴方を愛することができない。】 という作品も同時に書いているので、この作品が気に入りましたら是非読んでみてください。

処理中です...