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第二章
7 うねうね暴れる魔法の木(☆)
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昼食後、さらに移動を続けていると、木々の間にひときわ存在感を放つ大木が見えてきた。それは魔力を持ち自ら動く木で、葉の付いた枝をうねうねとさせて、風もないのに葉擦れの音を立てている。
少し離れたところで馬車を停止させて、幌馬車から飛び降りる。
すると何故か背後から苦笑が聞こえてきた。振り向けば、まだ座ったままのレヴィメウスが残念そうな笑みを浮かべている。
「主が降りる際、エスコートしたかったのだが」
と言ってマージェリィに向かって恭しく手を差し出した。
「そんなこと考えたこともなかった……! 今度してもらえたら嬉しいな」
「ああ、喜んで」
レヴィメウスと並び立ち、枝を揺らしている大木を見上げる。
隣で腕組みしたレヴィメウスが顎に手を当てて木を仰ぎ見た。
「この枝のうねり具合……魔界にある木に似ているな」
「そうなんだ? この木はね、魔女の森にしか生えない木なんだ。どの魔女の森にも生えてるから私たち魔女にとっては珍しくもなんともないけどね」
そう話しつつ鞄から採取道具を取り出していく。ナイフと紐と、縦長の筒状の器。幹に傷を付けてそこから滲み出した樹液を器に溜めていくという寸法である。
「師匠と一緒に遠くからこの木を眺めたときに『あれには近付くな』って注意されたんだけど、潤滑剤の性能を上げるためにはどうしてもこいつの樹液が必要なんだよね。採取するときに、もしかしたら暴れるかもしれないから気を付けてね」
「ああ。いざとなったら我が盾となろう」
「わあ……ありがとう」
美しい顔から放たれる頼もしい笑みに、マージェリィはどきどきしてしまったのだった。
レヴィメウスに紐の端を持ってもらい、太い幹を一周する。
器の取り付けが完了し、ナイフを構えたところでマージェリィは動きを止めた。
「ねえ、レヴィメウス」
「どうした? 主よ」
「あのね、この木って……」
説明しようとしたところで言い淀んでしまう。師匠はこの木に近付いてはならない理由を教えてはくれなかった。そのため後日自分で調べた結果、分かったことと言えば――。
「……人間が近くに寄ると、その人の性欲を感じ取って暴れる習性があるんだって。だから……」
「ふむ。木に邪魔されぬよう、樹液の採取を始める前に主の情欲を満たしてやろうか」
「えっ!」
「その方がこの木が暴れるのを防げるのだろう?」
「そうなんだけど!」
「我の愛撫で一度主を達させてやろう。さすればこの木も暴れまいよ」
「う、うん……」
(安全に採取するためには必要なことなんだから、もじもじしてる場合じゃないよね)
一旦ナイフを革製のケースに収め、鞄にしまい込む。
どきどきしながらレヴィメウスと向かい合った途端に異変は起きた。
葉の擦れるざわめきが辺りを包み込み――鞭のようにしなる枝が目に見えぬ速さでマージェリィの手首を取り上げた。瞬く間に両手両足に枝がきつく巻き付いてきて空中に浮かび上がらせられる。
「主!」
「やばっ……」
まさに危惧していたことが起きてしまった。
(レヴィメウスに気持ちよくしてもらったときのことを思い出しちゃったから、それに反応したのかも)
「ごめん、私がもたもたしてたせいで……」
突然のことに瞠目するレヴィメウスを見下ろしながら、マージェリィは落ち込んだ。拘束されていてはステッキを振るうこともできない。しかもご丁寧に、もう一本伸びてきた別の枝にステッキの入った鞄まで取り上げられてしまった。
鞄が地面に落とされると同時に、さらに別の枝がレヴィメウスに狙いを定める。
「ぬっ……我まで狙うとは。生意気な樹木よの」
レヴィメウスもまた両手足を捕らえられてマージェリィと同じ高さまで担ぎ上げられてしまった。
「我も主に愛撫を施したときのことを思い出したせいかこやつに反応されてしまったな。さて、如何するか主よ。我は火魔法が一番得意なのだが燃やしてしまうと樹液は採取できぬよな」
「うん……私はステッキを振らないと魔法を発動できないからレヴィメウスに助けて欲しいんだけど、他の属性の魔法は何か……――きゃっ!?」
突如として手足を拘束する以外の枝が四方から襲い掛かり、魔女の黒いローブの下に潜り込んできた。
手足を拘束する枝と違い、表面が滑らかな蔓のような枝が肌の上を這い回る。一体何が起きるのかと身構えた次の瞬間。
胸まで辿り着いた二本の枝の先がブラジャーの上側から中に入り込んで胸の先端をくすぐり、たちまち硬くなったそこが両方同時に弾かれ始めた。同時に下着の中にまで侵入してきて股の間を撫で始める。
「あっあっやだあっ! やめてやめてえっ」
しなやかな枝の動きに快感が湧き起こり、独りでに全身がびくびくと跳ねる。激しく身を捩っても四肢を制されてしまっていては逃れられるはずもなかった。感じたくもない感覚に苛まれる中、髪を振り乱して刺激に抵抗を試みる。
「あんっあんっはあっはあっ、やっ、やだあ、イヤだってばあ……!」
「ふ。良い眺めだな、主」
真剣に嫌がっているのにレヴィメウスがにやけ面で観賞してくる。
そんな余裕の表情の淫魔にもあちこちから蔓のような枝が襲い掛かり、衣服の中をまさぐられ始めた。
「ほう……これはこれは、なかなかに的確に攻めて来るではないか」
シャツに差し込まれた二本の枝がうねって胸を探り、前をくつろげられたズボンにも一本侵入し、もぞもぞと上下に動いている。芯をしごかれているらしい。
満足げに口の端を吊り上げて、快楽に身もだえるマージェリィの様子を眺め渡す。
「害がないようであればこのままこの樹木の愛撫を堪能しておくとしようか。我は快楽を得られる分には別段不満はないゆえ」
「こいつ、獲物が絶頂するまで離してくれないの! あなた以外にイかせられるのはイヤだよ、見てないで助けてよ~!」
「――!」
途端に黄金色の瞳が鋭さを増し――次の瞬間、魔法の風が巻き起こり二人に絡み付いていた枝がすべて粉々に砕け散った。
「――きゃああっ!」
地面に激突する――かと思いきや、レヴィメウスがしっかりとその逞しい両腕で受け止めてくれたのだった。
ぎゅっと閉じていた目を恐る恐る開く。すると温かな笑みを称えた瞳に見守られていた。その余りの優しさに照れくさくなり弾かれたように目を逸らす。
「あ、ありがと、レヴィメウス」
「すまぬな、主の盾になるなどと宣言しておきながら樹木ごときに簡単に主をさらわれてしまった」
「気にしないで。私も油断しちゃってた。ちゃんと警戒してなかった主人の私の方がダメダメだったよ」
そっと地面に下ろされる。その宝物のような扱いにときめいていると、大きな手が頭を撫でてきた。
「我の方こそ本当にすまなかった。主が快楽に溺れる姿を見たいばかりに、本気で嫌がっているにもかかわらず見過ごしてしまった」
と言って目を細める。その切なげな面持ちが綺麗で、若干落ち着き始めていた心臓が再び騒ぎ出す。
(こんなカッコいい人に、こんなに大事にしてもらえて嬉しいな)
異性から好意を受けるのは初めての経験だったマージェリィは、ますます高鳴りだす胸を押さえて深く項垂れたのだった。
木の枝に刺激されていた体の疼きが収まったところで、本来の目的を果たすための作業に着手する。
地面に打ち捨てられていた鞄を拾ってから木を見上げると、さっきまで暴れていた魔法の木は何本もの枝をまとめて砕かれたのに懲りたのかすっかり大人しくなっていた。心なしかどの枝葉も下向き加減で、落ち込んでいるようにも見えてくる。
人間らしさみたいなものすら感じさせる木の幹を、マージェリィは撫でさすった。
「ごめんね乱暴しちゃって。あなたの樹液を分けて欲しいんだ。ちょっと傷付けさせてもらっちゃうけどいい子だからもう少しだけ大人しくしててね」
ナイフをかざし、容器の上辺りに斜めに傷を付けていく。
傷全体から透明な樹液が滲み出し、傷を伝い落ちていく。
その幹に付けた溝の下端から粘性のある液体がじわじわと溢れ出し、容器の中に溜まっていく。
「さて、これでしばらく放置して。ちょっと水浴びしてこよっと」
「水浴び?」
「うん。体を洗いたいというか……」
「なるほど、先ほど樹木に刺激された部分が濡れてしまったのだな」
「そうはっきり言わないでよ!」
たちまち顔が燃え上がり、マージェリィはぷんぷんとしながらそっぽを向いたのだった。
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