35 / 41
第九章 出戻り貴妃は皇帝陛下に溺愛されます
狂気
しおりを挟む
翌日、褥から起き上がれぬ私を撫でる陛下も紫琴宮に向かおうとなさらなかった。
「奕晨…?執務は良いのですか?」
昼過ぎになっても側から離れない皇帝陛下に不安を覚えた私が声をかける。
陛下は一糸纏わぬ朝姿を晒している。このように惰容であっても竜姿は美しい。指の先まで満ちた玉貌は少しも損なわれてはいない。
「政をここで行うのも悪くないと思っている」
「いやです!」
思わず即答してしまった。私の肌に残る口づけの痕跡を陛下は艶めかしく指先で辿りながら、諦めがたいように続ける。
「今まででも沢山おるではないか、書類は宦官に運ばせ、お前の側で済ませば良い」
「そんな馬鹿な…」
「それとも離れたいのか。夜が過ぎたら解放されたいと?」
秋眉に端麗な顔が崩れる。何がそんなに奕晨を駆り立てるのだろうか。陛下の冷たい手が薄衣の中に侵入し、触れられた箇所から漣のように官能が広がる。
「奕晨…あなた少しおかしいわ」
陛下の湿った唇が私の肌に新たな花を咲かせる。まとわりついてくる舌が甘い。
「おかしくもなるだろう、なあ何回抱かれた?」
そんなの数え切れないぐらい奕世には抱かれた。だが答えることはできない。
「孕んだままのお前を何度抱いた?」
「数えてないわ。覚えてもいたくないことを何故思い出させようとするの?」
「つまり数えきれぬほどだな?」
推し黙る私に奕晨は唾液を流しこむように舌で歯列を開いてくる。
「媚びろ」
私は丁寧にその濡れた舌に自分のざらつく舌を絡める。喉を鳴らし、溜まってゆく唾液を飲み込んだ。
「誰よりも沢山抱きたい。そなたの身体が見知らぬ反応をするたびに、あの男がそれを仕込んだかと思うと気が狂いそうになる」
奕晨の指が私に触れるたびに困惑と恍惚が同時に襲ってくる。そんなことを言われても、今更真っ新な絹になど戻れない。奕晨の怒りと嫉妬に触れて、心がざわつく。気持ちが落ち着くまで待ってほしいのに、身体だけ興奮させられて、回路が切れたように嬌声をあげつづける自分がいる。
感極まって涙が出てしまう。それでも奕晨は許してくれない。猛禽が獲物を弄ぶかのように、好きに蹂躙される。こんな昼間の明るい陽射しの中で、隠すことも許されないまま。
「片時もそなたを離したくない」
事を終えても、奕晨は私から離れようとしなかった。
「月華宮からそなたが拐われたことを忘れられるはずかない。執務はここで行う」
私は朝よりも疲労が蓄積した身体を起こす。気を害されても言わねばならない。
「なんと暗愚で蒙昧な皇帝なのですか。後宮に入り浸ったら宦官の傀儡と噂されます。後世にどう伝えられるか」
「なんと言われても気にならぬ。そなたを再び失うより遥かにいい」
陛下の意志は固い。
「それでは、こうしましょう。本日から私を連れて紫琴宮に向かわれてください。必要なものは文官の衣装くらいですわ」
「奕晨…?執務は良いのですか?」
昼過ぎになっても側から離れない皇帝陛下に不安を覚えた私が声をかける。
陛下は一糸纏わぬ朝姿を晒している。このように惰容であっても竜姿は美しい。指の先まで満ちた玉貌は少しも損なわれてはいない。
「政をここで行うのも悪くないと思っている」
「いやです!」
思わず即答してしまった。私の肌に残る口づけの痕跡を陛下は艶めかしく指先で辿りながら、諦めがたいように続ける。
「今まででも沢山おるではないか、書類は宦官に運ばせ、お前の側で済ませば良い」
「そんな馬鹿な…」
「それとも離れたいのか。夜が過ぎたら解放されたいと?」
秋眉に端麗な顔が崩れる。何がそんなに奕晨を駆り立てるのだろうか。陛下の冷たい手が薄衣の中に侵入し、触れられた箇所から漣のように官能が広がる。
「奕晨…あなた少しおかしいわ」
陛下の湿った唇が私の肌に新たな花を咲かせる。まとわりついてくる舌が甘い。
「おかしくもなるだろう、なあ何回抱かれた?」
そんなの数え切れないぐらい奕世には抱かれた。だが答えることはできない。
「孕んだままのお前を何度抱いた?」
「数えてないわ。覚えてもいたくないことを何故思い出させようとするの?」
「つまり数えきれぬほどだな?」
推し黙る私に奕晨は唾液を流しこむように舌で歯列を開いてくる。
「媚びろ」
私は丁寧にその濡れた舌に自分のざらつく舌を絡める。喉を鳴らし、溜まってゆく唾液を飲み込んだ。
「誰よりも沢山抱きたい。そなたの身体が見知らぬ反応をするたびに、あの男がそれを仕込んだかと思うと気が狂いそうになる」
奕晨の指が私に触れるたびに困惑と恍惚が同時に襲ってくる。そんなことを言われても、今更真っ新な絹になど戻れない。奕晨の怒りと嫉妬に触れて、心がざわつく。気持ちが落ち着くまで待ってほしいのに、身体だけ興奮させられて、回路が切れたように嬌声をあげつづける自分がいる。
感極まって涙が出てしまう。それでも奕晨は許してくれない。猛禽が獲物を弄ぶかのように、好きに蹂躙される。こんな昼間の明るい陽射しの中で、隠すことも許されないまま。
「片時もそなたを離したくない」
事を終えても、奕晨は私から離れようとしなかった。
「月華宮からそなたが拐われたことを忘れられるはずかない。執務はここで行う」
私は朝よりも疲労が蓄積した身体を起こす。気を害されても言わねばならない。
「なんと暗愚で蒙昧な皇帝なのですか。後宮に入り浸ったら宦官の傀儡と噂されます。後世にどう伝えられるか」
「なんと言われても気にならぬ。そなたを再び失うより遥かにいい」
陛下の意志は固い。
「それでは、こうしましょう。本日から私を連れて紫琴宮に向かわれてください。必要なものは文官の衣装くらいですわ」
1
お気に入りに追加
182
あなたにおすすめの小説
皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜
菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。
まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。
なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに!
この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。
京都式神様のおでん屋さん
西門 檀
キャラ文芸
旧題:京都式神様のおでん屋さん ~巡るご縁の物語~
ここは京都——
空が留紺色に染まりきった頃、路地奥の店に暖簾がかけられて、ポッと提灯が灯る。
『おでん料理 結(むすび)』
イケメン2体(?)と看板猫がお出迎えします。
今夜の『予約席』にはどんなお客様が来られるのか。乞うご期待。
平安時代の陰陽師・安倍晴明が生前、未来を案じ2体の思業式神(木陰と日向)をこの世に残した。転生した白猫姿の安倍晴明が式神たちと令和にお送りする、心温まるストーリー。
※2022年12月24日より連載スタート 毎日仕事と両立しながら更新中!
大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。
だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。
蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。
実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。
後宮の不憫妃 転生したら皇帝に“猫”可愛がりされてます
枢 呂紅
キャラ文芸
旧題:後宮の不憫妃、猫に転生したら初恋のひとに溺愛されました
★第16回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました!応援いただきありがとうございます★
後宮で虐げられ、命を奪われた不遇の妃・翠花。彼女は六年後、猫として再び後宮に生まれた。
幼馴染で前世の仇である皇帝・飛龍に拾われ翠花は絶望する。だけど飛龍は「お前を見ていると翠花を思い出す」「翠花は俺の初恋だった」と猫の翠花を溺愛。翠花の死の裏に隠された陰謀と、実は一途だった飛龍とのすれ違ってしまった初恋の行く先は……?
一度はバッドエンドを迎えた両片想いな幼馴染がハッピーエンドを取り戻すまでの物語。
本日、訳あり軍人の彼と結婚します~ド貧乏な軍人伯爵さまと結婚したら、何故か甘く愛されています~
扇 レンナ
キャラ文芸
政略結婚でド貧乏な伯爵家、桐ケ谷《きりがや》家の当主である律哉《りつや》の元に嫁ぐことになった真白《ましろ》は大きな事業を展開している商家の四女。片方はお金を得るため。もう片方は華族という地位を得るため。ありきたりな政略結婚。だから、真白は律哉の邪魔にならない程度に存在していようと思った。どうせ愛されないのだから――と思っていたのに。どうしてか、律哉が真白を見る目には、徐々に甘さがこもっていく。
(雇う余裕はないので)使用人はゼロ。(時間がないので)邸宅は埃まみれ。
そんな場所で始まる新婚生活。苦労人の伯爵さま(軍人)と不遇な娘の政略結婚から始まるとろける和風ラブ。
▼掲載先→エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう
※エブリスタさんにて先行公開しております。ある程度ストックはあります。
下っ端妃は逃げ出したい
都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー
庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。
そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。
しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
冥府の花嫁
七夜かなた
キャラ文芸
杷佳(わか)は、鬼子として虐げられていた。それは彼女が赤い髪を持ち、体に痣があるからだ。彼女の母親は室生家当主の娘として生まれたが、二十歳の時に神隠しにあい、一年後発見された時には行方不明の間の記憶を失くし、身籠っていた。それが杷佳だった。そして彼女は杷佳を生んですぐに亡くなった。祖父が生きている間は可愛がられていたが、祖父が亡くなり叔父が当主になったときから、彼女は納屋に押し込められ、使用人扱いされている。
そんな時、彼女に北辰家当主の息子との縁談が持ち上がった。
自分を嫌っている叔父が、良い縁談を持ってくるとは思わなかったが、従うしかなく、破格の結納金で彼女は北辰家に嫁いだ。
しかし婚姻相手の柊椰(とうや)には、ある秘密があった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる