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第九章 出戻り貴妃は皇帝陛下に溺愛されます

狂気

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翌日、褥から起き上がれぬ私を撫でる陛下も紫琴宮ズーチンゴンに向かおうとなさらなかった。

奕晨イーチェン…?執務は良いのですか?」
昼過ぎになっても側から離れない皇帝陛下に不安を覚えた私が声をかける。

陛下は一糸纏わぬ朝姿を晒している。このように惰容であっても竜姿は美しい。指の先まで満ちた玉貌は少しも損なわれてはいない。

まつりごとをここで行うのも悪くないと思っている」
「いやです!」
思わず即答してしまった。私の肌に残る口づけの痕跡を陛下は艶めかしく指先で辿りながら、諦めがたいように続ける。
「今まででも沢山おるではないか、書類は宦官に運ばせ、お前の側で済ませば良い」
「そんな馬鹿な…」
「それとも離れたいのか。夜が過ぎたら解放されたいと?」
秋眉に端麗な顔が崩れる。何がそんなに奕晨イーチェンを駆り立てるのだろうか。陛下の冷たい手が薄衣の中に侵入し、触れられた箇所から漣のように官能が広がる。

奕晨イーチェン…あなた少しおかしいわ」
陛下の湿った唇が私の肌に新たな花を咲かせる。まとわりついてくる舌が甘い。
「おかしくもなるだろう、なあ何回抱かれた?」
そんなの数え切れないぐらい奕世イースには抱かれた。だが答えることはできない。
「孕んだままのお前を何度抱いた?」
「数えてないわ。覚えてもいたくないことを何故思い出させようとするの?」
「つまり数えきれぬほどだな?」
推し黙る私に奕晨イーチェンは唾液を流しこむように舌で歯列を開いてくる。

「媚びろ」

私は丁寧にその濡れた舌に自分のざらつく舌を絡める。喉を鳴らし、溜まってゆく唾液を飲み込んだ。

「誰よりも沢山抱きたい。そなたの身体が見知らぬ反応をするたびに、あの男がそれを仕込んだかと思うと気が狂いそうになる」
奕晨イーチェンの指が私に触れるたびに困惑と恍惚が同時に襲ってくる。そんなことを言われても、今更真っ新な絹になど戻れない。奕晨イーチェンの怒りと嫉妬に触れて、心がざわつく。気持ちが落ち着くまで待ってほしいのに、身体だけ興奮させられて、回路が切れたように嬌声をあげつづける自分がいる。

感極まって涙が出てしまう。それでも奕晨イーチェンは許してくれない。猛禽が獲物を弄ぶかのように、好きに蹂躙される。こんな昼間の明るい陽射しの中で、隠すことも許されないまま。

「片時もそなたを離したくない」
事を終えても、奕晨イーチェンは私から離れようとしなかった。
「月華宮からそなたが拐われたことを忘れられるはずかない。執務はここで行う」
私は朝よりも疲労が蓄積した身体を起こす。気を害されても言わねばならない。

「なんと暗愚で蒙昧な皇帝なのですか。後宮に入り浸ったら宦官の傀儡と噂されます。後世にどう伝えられるか」
「なんと言われても気にならぬ。そなたを再び失うより遥かにいい」

陛下の意志は固い。

「それでは、こうしましょう。本日から私を連れて紫琴宮ズーチンゴンに向かわれてください。必要なものは文官の衣装くらいですわ」
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