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第七章 天涯海角

白日

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銀蓮インリェンの部屋は離れた角部屋になった。王になっても奕世イース浩特拉尔ハオトラルの屋敷で過ごすつもりらしかった。私は侍女や召使などは断ったから、見事に銀蓮インリェンだけが屋敷に増えただけだ。

ヤオ王朝の国取りをするのは本気らしく、まず攻め入るならば浩特拉尔ハオトラルから出兵するのは間違いない。奕世イースは私にばかり構ってはいられず、数日出かけることも増えた。凛々しい騎乗姿は相変わらずかっこよかったし、私に対しては優しいままだったが、正直怖いという気持ちは消えなかった。

銀蓮インリェンは話す機会が増えた。奕世イースの留守中は2人で過ごす。仲良くならないわけがない。ただ、お互い聞いてはいけないことを聞かないように、遠慮があったのは確かだ。私たちは全く関係ない話で気を紛らわせていた。護衛は厳しく、私たちは逃げ出せるような環境にはなかった。

最初にポツリと本音を漏らしたのは銀蓮インリェンだった。
「私のせいで、ごめんなさい」
屋敷に連れ帰った時より、幾分か血色も良くなり、銀蓮インリェンは体力も戻っているように見える。

「謝らないで。あなたのせいじゃないわ、私が奕世イースについてきてしまったからよ」
私の言葉に、銀蓮インリェンは堰を切ったように泣き出した。抱きついてくる銀蓮インリェンの背中を撫でる。

「私の代わりに…今は…あなたが犠牲になってる…本当にごめんなさい…奕晨イーチェンの元に…あなただけでも…無事帰してあげたい…」
「私は好きで奕世イースといるから大丈夫よ」
そう答えても銀蓮インリェンは、小龍と引き離され、龔鴑ゴンヌの王に陵辱をうけた自分と私を重ねて、私が彼女を慰めるために嘘をついていると思ったらしかった。

銀蓮インリェンは私の手を掴んだ。涙を湛えた双眼が私をまっすぐに見る。

「あなたが攫われたということは、後宮から銀蓮インリェンが攫われたということ。奕晨イーチェンの官軍はすぐ動かせないかもしれない。だけど、私が攫われたならお祖父様が蔡北から私兵を出すはずよ、必ず助けが来るわ」

確かに道理が通っている。雲貴妃ユングイフェイは捨て置けるが、銀蓮インリェンを捨て置けるわけがない。でもそんな希望があるのに、なぜ銀蓮インリェンはこんなにも絶望に満ちた眼で泣くのか、私には理解できなかった。
「でも、私もう小龍シャオロンの元にはきっと戻れないわ…」
「大丈夫よ、また駆け落ちすればいいじゃない。陛下も手伝ってくださるわ」
慰める私に、銀蓮インリェンは首を振った。

「誰も私をもう助けに来なくていい。小龍シャオロンはきっと私を罵るわ…」
「そんなわけないわ、後宮に来た時銀蓮インリェンの名を呼んでいたもの」
しかし銀蓮インリェンは力無く首を振り、消え入りそうな掠れ声で答えた。

「だって…私、月のものが来ないの…」

事態は深刻だった。小龍シャオロンが父親な可能性だってあるが、泣き崩れている銀蓮インリェンに詳しくは聞けない。月のものが遅れたりすることは充分にありえることだけど、その不安を取り去る方法なんて思いつかなかった。

先王の子だとしたら、奕世イースが縊らないわけない。銀蓮インリェンの心と身体を救うには、私は何が出来るだろうと考えようとした時、私の背中に嫌な汗が流れた気がした。

私も、月のものが来ていない。

私にしがみついて泣く銀蓮インリェンに、何も声がかけられない。

気のせいかもしれない。でも、気のせいでなかったとしたら?奕晨イーチェンの子かもしれないし、奕世イースの子かもしれない。確かめる術なんてなかった。

私は言葉を持たぬまま、銀蓮インリェンを抱きしめていた。

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