正しい悪役令嬢の育て方

犬野派閥

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第二十六話 婚約者⑤

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(どこいったのよあいつ。ゲームのミリシアならとりあえず図書館に向かいそうなとこだけど……)

 まずはそちらに向かってみよう。そう思って足を踏み出したその時だ。

「シエザ、お待ちになって!」

 バックガーデンの方からキュロットが追いかけてきた。ヒーシスも一緒だろうかと見やったが、キュロットの後に続く人影はない。手紙でとことん待たされた挙げ句、またぼっちに逆戻りしたらしい。何とも不憫な王子である。

 お嬢様走りでようやく私のもとにやってきたキュロットは、手で胸元を押さえながら呼吸を整えていく。
 魔力や魔法操作は群を抜いているが、お嬢様だけあって体力は平均以下。今後は貴族のスポーツでもやって体力作りかなと考えつつ、私はキュロットに問いかける。

「どうしたの? ヒーシスとの庭園デートは?」

 私のその言葉を受けて、キュロットはなぜか悲しげに眉を曇らせた。

「どうしてそんなことをおっしゃいますの? わたくし、ヒーシス殿下との庭園デートを望むようなことを口にしまして?」

「いやまあ、言ってはないけど。でもさ、キュロットとヒーシスは婚約者なんだし、もっと二人きりの時間を持ったほうがいいでしょう?」

「シエザ、いったいどうしたんですの? これまではわたくしと殿下の間柄に関して、何か特別な配慮をしたことなんてなかったでしょう。
 それなのに、どうして急にわたくしと殿下の仲を取り持つようなことばかりなさるの?」

 うっ。さすがにその辺のことは気付かれていたか。
 まあ、あれだけ露骨に動いていたら当然か。とはいえ、ここがゲーム世界であり、ヒーシスと破局すれば悲惨な未来が待ち受けているなんてこと話せるはずもない。
 何より今は、ミリシアの動向が気掛かりだ。

「それにはちょっと事情があって。ええと、その話はまた今度でいい? ミリシアを追っかけないと」

 そのまま踵を返そうとするが、キュロットに手首を掴まれる。
 ハッとなるほどの力のこもった、強い意思を感じさせる行為だった。

「ちょっ、キュロット?」

「事情があるなら今すぐ話してくださいまし」

「いや、それは……」

「さっきミリシアさんと、ゲームがどうとか話されていましたわよね? もしかして、わたくしとヒーシス殿下の仲をゲーム感覚で茶化していますの?」

「そんなつもりは――」

 ない、と果たして言い切れるだろうか。
 私はここがゲーム世界だと知っている。ヒロインが誰と結ばれればどういった未来が待っているかをプレイ画面で見ている。

 キュロットが破滅ルートから免れるように、ヒーシスとの親密度を上げさせようとした私だが、それはつまるところゲームをプレイしているのと同様の感覚ではないのか。

 このキャラにはこの選択肢を選ばせよう。
 このルートに入らせよう。
 そうやって、プレイヤー視点でキャラクターの人生を弄んでいるとは言えないか。

 私の沈黙を肯定と受け取ったのだろう。キュロットの顔がサッと青ざめ、今にも泣き出しそうな表情になる。
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