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第二十六話 婚約者①
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ミリシアの神聖魔法の恩恵で草花が咲き乱れるようになったバックガーデン。その生け垣に身を潜める私とキュロットは、とある人物の様子をうかがっていた。
花壇の縁に腰かけ、薔薇の花びらを一枚一枚摘み取りながら、「来る、来ない、来る、来ない……」と花びら占いをしているヒーシスである。
キュロットは抱いたであろう疑問をそのまま口にする。
「あの、ヒーシス殿下はあそこで何をしていますの? 誰かを待っている様子ですけれど」
「ヒーシスは手紙でここに呼び出されたの。でもその手紙は悪戯というか、単にヒーシスをここに来させるためのものだから、差出人は名乗り出ないわ」
「まあ! それなら早くお教えしてあげませんと」
足を踏み出しかけるキュロットを私は慌てて制した。
怪訝な顔で見返してくるキュロットに、教え諭すように告げる。
「駄目よキュロット。手紙を受け取ったのは朝早くなの。ぼっちのヒーシスはきっと、新しい友達ができるかもと胸踊らせて、来もしない待ち人をこうして何時間も待ってるわけ。
単なる悪戯だと知ったら、きっとショックを受けるわ」
「えっ……?」
キュロットはヒーシスのことをまじまじと見やった。不憫に思う気持ちもあるだろうが、その思いを押しのけるようにしてぽつりと呟かれた言葉は、恐らく不意に沸き起こった彼女の本音。
「そんな方がわたくしの婚約者……?」
あマズイ!
王太子殿下に相応しい女性になるためにこれまで色々と我慢してきたのに、何か現実見えてきたっぽい!
自我が芽生えつつある人工知能みたいな感想をポロッと洩らしだした!
まあ確かに、少し残念なところもあるヒーシスだが、王太子だしイケメンだ。キュロットにレアアイテムの『虹の香水』をプレゼントしていたし、彼女のことを大事に思っているのは間違いない。
二人がこのまま何事もなく結ばれれば破滅フラグだって回避できることだし、ここは押しの一手だ。
「と、とにかく! ヒーシスを気落ちさせないためにも、誰かが手紙の差出人のフリをして会ってあげないと。
そういうのに適した人材って、やっぱり婚約者のキュロットだと思うわけ」
私のその台詞を聞いて、キュロットはなぜだかショックを受けた様子で瞳を翳らせた。
キュロットは消え入りそうな声で問いかけてくる。
「それではこのためにバックガーデンにわたくしを連れてきたんですの?」
「うん、そうだけど。まだきっとヒーシス待ってるだろうなって思ったから」
「そうですのね。わたくしの気持ちを汲んでくれて、二人きりの時間を作ってくださったのだとばかり思っておりましたわ」
「?」
キュロットの気持ちとはいったい何のことだろうか。
気にはなったが、今はキュロットとヒーシスの仲を深めるのが先決だ。なにせミリシアはゲームの進行具合など無視して、攻略キャラに次々とアプローチしているのだから。のんびりしていたらいつの間にか破滅フラグが立ってた、なんて状況にもなりかねない。
「何か話があるなら後で聞くから。まずは婚約者としてヒーシスを喜ばせてあげて」
「……そうですわね。わかりましたわ」
キュロットはそう言うと生け垣から離れ、何だか重い足取りでヒーシスの方へと歩を進めていった。
花壇の縁に腰かけ、薔薇の花びらを一枚一枚摘み取りながら、「来る、来ない、来る、来ない……」と花びら占いをしているヒーシスである。
キュロットは抱いたであろう疑問をそのまま口にする。
「あの、ヒーシス殿下はあそこで何をしていますの? 誰かを待っている様子ですけれど」
「ヒーシスは手紙でここに呼び出されたの。でもその手紙は悪戯というか、単にヒーシスをここに来させるためのものだから、差出人は名乗り出ないわ」
「まあ! それなら早くお教えしてあげませんと」
足を踏み出しかけるキュロットを私は慌てて制した。
怪訝な顔で見返してくるキュロットに、教え諭すように告げる。
「駄目よキュロット。手紙を受け取ったのは朝早くなの。ぼっちのヒーシスはきっと、新しい友達ができるかもと胸踊らせて、来もしない待ち人をこうして何時間も待ってるわけ。
単なる悪戯だと知ったら、きっとショックを受けるわ」
「えっ……?」
キュロットはヒーシスのことをまじまじと見やった。不憫に思う気持ちもあるだろうが、その思いを押しのけるようにしてぽつりと呟かれた言葉は、恐らく不意に沸き起こった彼女の本音。
「そんな方がわたくしの婚約者……?」
あマズイ!
王太子殿下に相応しい女性になるためにこれまで色々と我慢してきたのに、何か現実見えてきたっぽい!
自我が芽生えつつある人工知能みたいな感想をポロッと洩らしだした!
まあ確かに、少し残念なところもあるヒーシスだが、王太子だしイケメンだ。キュロットにレアアイテムの『虹の香水』をプレゼントしていたし、彼女のことを大事に思っているのは間違いない。
二人がこのまま何事もなく結ばれれば破滅フラグだって回避できることだし、ここは押しの一手だ。
「と、とにかく! ヒーシスを気落ちさせないためにも、誰かが手紙の差出人のフリをして会ってあげないと。
そういうのに適した人材って、やっぱり婚約者のキュロットだと思うわけ」
私のその台詞を聞いて、キュロットはなぜだかショックを受けた様子で瞳を翳らせた。
キュロットは消え入りそうな声で問いかけてくる。
「それではこのためにバックガーデンにわたくしを連れてきたんですの?」
「うん、そうだけど。まだきっとヒーシス待ってるだろうなって思ったから」
「そうですのね。わたくしの気持ちを汲んでくれて、二人きりの時間を作ってくださったのだとばかり思っておりましたわ」
「?」
キュロットの気持ちとはいったい何のことだろうか。
気にはなったが、今はキュロットとヒーシスの仲を深めるのが先決だ。なにせミリシアはゲームの進行具合など無視して、攻略キャラに次々とアプローチしているのだから。のんびりしていたらいつの間にか破滅フラグが立ってた、なんて状況にもなりかねない。
「何か話があるなら後で聞くから。まずは婚約者としてヒーシスを喜ばせてあげて」
「……そうですわね。わかりましたわ」
キュロットはそう言うと生け垣から離れ、何だか重い足取りでヒーシスの方へと歩を進めていった。
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