正しい悪役令嬢の育て方

犬野派閥

文字の大きさ
上 下
85 / 106

第二十三話 ヒロイン襲来①

しおりを挟む
 とうとうこの時が来た。

「……この度はご高配を賜り」

 少し舌足らずな甘い声が教室に響く。

「平民の出ながら、この由緒正しき王立学園への転入が許されました」

 ふわりとしたピンク色の髪に、全てを包み込むような優しい眼差し。

「至らぬ点は多々ございますが」

 学園に通うにあたって急遽叩き込まれたのだろう。たどたどしい一礼をして。

「ミリシア・ノアと申します。よろしくお願いいたします」

 メインヒロインが、学園にやってきた。



 まずは深呼吸。
 落ち着け、私。冷静になれ。
 これからの行動いかんによっては、キュロットが破滅の道を進むことになるかもしれないのだ。それだけはなんとしても避けなければ。

 私はヨシッと気合を入れると、朝のホームルームが終わるやいなや教室を飛び出した。
 『王立学園の聖女』では、ミリシアは自己紹介が済んだあと、クラスメイトたちの質問攻めにあう。ミリシアが神聖魔法の使い手であるという噂が既に知れ渡っており、好奇の目に晒されるわけだ。

 その状況に面食らったミリシアは、隙を見てクラスメイトの輪から脱出。学園内を散策するうちに、何かに導かれるようにしてバックガーデンへと至る。
 そこでヒーシスと運命的な出会いを果たすのだ。

(ミリシアがヒーシスと結ばれるルートに入った場合、キュロットが嫉妬に狂って暗躍して、結果的に処刑されちゃうのよね。それは阻止しないと)

 人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られて何とやらと言うが、ヒーシスにはキュロットという婚約者がいるのだ。略奪愛の方が道理を外れているわけだし、悪いがここは全力で阻止させてもらう。

(そして私は、平穏な学園生活を送るのよ!)

 目的地であるバックガーデンへと辿り着いた私は、我が目を疑い立ち尽くした。植物が育たず、寂れ果てていたはずの花壇に、色とりどりの薔薇が咲き乱れているのだ。

「どうして!? こうなるのって、ミリシアがヒーシスと出会うイベントの時でしょ!?」

 嫌な予感に苛まれつつ、私はバックガーデンの奥へと歩を進めた。すると噴水の傍に、ひとり佇むヒーシスの姿がある。

 ヒーシスも私のことに気付いたらしい。ぱっと瞳を輝かせると、弾んだ声で言う。

「おおっ! やはり手紙の主はシエザだったのか!」

 手紙とは何のことだろうか。
 いや、今はそんなこと気にしていられない。私はヒーシスの問いは放置したまま、勢い込んで訊ねた。

「ねえヒーシス、この薔薇いったいどうしたの? もしかしてここでミリシアと会った?」

「噂の聖女だな。確かに今朝ここで会ったが」

「今朝? 朝のホームルームが始まる前ってこと?」

「いかにも」

 なんてことだ。ゲームとは時間が多少前後している。
 私が朝の日課であるキュロットの縦ロールを巻いているうちに、ミリシアはヒーシスとの出会いを済ませてしまったらしい。
 私は額に手をやって唸る。

「あぁ、迂闊だった。ゲームとは色々と違っている部分があるんだし、そういった可能性も考慮しとくべきだったわ」

「どうしたんだシエザ。いったい何の話をしている?」

「ううん、なんでもない。こっちの話よ。ところで、ヒーシスはどうしてそんな時間にバックガーデンへ?」

「その様子だと差出人は君ではないのだな」

 残念そうにそう呟き、ヒーシスは便箋を取り出した。さっき口にしていた手紙であるらしい。

「学園に着いたときには既に私の机の中に入れられていた。大事な話があるから今すぐバックガーデンに来て欲しいと」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後

有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。 乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。 だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。 それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。 王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!? けれど、そこには……。 ※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

私の婚約者は6人目の攻略対象者でした

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。 すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。 そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。 確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。 って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?  ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。 そんなクラウディアが幸せになる話。 ※本編完結済※番外編更新中

悪役令嬢予定でしたが、無言でいたら、ヒロインがいつの間にか居なくなっていました

toyjoy11
恋愛
題名通りの内容。 一応、TSですが、主人公は元から性的思考がありませんので、問題無いと思います。 主人公、リース・マグノイア公爵令嬢は前世から寡黙な人物だった。その為、初っぱなの王子との喧嘩イベントをスルー。たった、それだけしか彼女はしていないのだが、自他共に関連する乙女ゲームや18禁ゲームのフラグがボキボキ折れまくった話。 完結済。ハッピーエンドです。 8/2からは閑話を書けたときに追加します。 ランクインさせて頂き、本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ お読み頂き本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ 応援、アドバイス、感想、お気に入り、しおり登録等とても有り難いです。 12/9の9時の投稿で一応完結と致します。 更新、お待たせして申し訳ありません。後は、落ち着いたら投稿します。 ありがとうございました!

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

転生悪役令嬢の前途多難な没落計画

一花八華
恋愛
斬首、幽閉、没落endの悪役令嬢に転生しましたわ。 私、ヴィクトリア・アクヤック。金髪ドリルの碧眼美少女ですの。 攻略対象とヒロインには、関わりませんわ。恋愛でも逆ハーでもお好きになさって? 私は、執事攻略に勤しみますわ!! っといいつつもなんだかんだでガッツリ攻略対象とヒロインに囲まれ、持ち前の暴走と妄想と、斜め上を行き過ぎるネジ曲がった思考回路で突き進む猪突猛進型ドリル系主人公の(読者様からの)突っ込み待ち(ラブ)コメディです。 ※全話に挿絵が入る予定です。作者絵が苦手な方は、ご注意ください。ファンアートいただけると、泣いて喜びます。掲載させて下さい。お願いします。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

処理中です...