55 / 106
第十五話 騎士の誓い①
しおりを挟む
「うんん……あと五分……」
意識の覚醒を自覚して、私は条件反射のようにそう呟いた。
と突然、身体に重みがのしかかる。
「ぐぇっ! な、なに!?」
目を開けると、すぐ傍にキュロットの顔があった。どうやら彼女が私の上にダイブしてきたらしい。
キュロットは泣き顔のような表情で言う。
「よかったですわシエザ! わたくし、このままシエザは目覚めないのではと心配で心配で!」
これはいったいどういう状況なのだろうか。私は目を丸くしつつ、ぐるりと辺りを見渡してみた。
キュロットの傍らには、安堵の表情を見せるヒーシスとルフォートの姿があった。見覚えのある場所だなと思いきや、ここは学園の医務室である。
(なんで私、医務室のベッドで寝てんだろ……?)
怪訝に思って記憶を辿っていくと、最後に目にした光景をまざまざと思い出した。
私は慌てて問いかける。
「そうだ、ブラドは!? 無事なの!?」
その問いに答えてくれたのはルフォートだ。ルフォートは無駄にキザな仕草で翡翠色の髪をかきあげ、フッと笑う。
「心配ないさハニー。軽い剣傷を負ってはいたが、魔法薬で傷口はすぐにふさがった。俺たちの静止を振り切って、シエザを背負ってここまで運んだのもあいつだし、ピンピンしてるよ」
「そうなんだ」
ということは、ブラドの背中でぐっすりと眠っていたということか。
ヨダレ垂らさなかったかな……。
そんな思考で気恥ずかしさを紛らわせた私は、小首を傾げて問を重ねた。
「あれ? でもブラドの姿見えないわね。どこにいるの?」
「それがあいつ、なにか忘れ物でもしてたのか、いったん屋敷に帰るって学園を飛び出してさ。けっこう時間がたつから、そろそろ帰ってくるとは思うんだが……」
その時、誰か医務室に入ってくる気配がした。
噂をすれば何とやら。ブラドが戻ってきたのだと直感した私は、そちらへと視線を振り――そこであんぐりと口を開けた。
そこにはブラド・シュターがいた。
気弱で卑屈なブラドではなく、『王立学園の聖女』で攻略対象となっていたメインキャラの一角。髪は燃え上がる炎を連想させるようなツンツン頭で、腰には騎士としての誇りである剣を吊った、精悍な美少年であるブラド・シュターがいた。
驚きに満ちた皆の視線を一身に浴びたブラドは、気後れしたようにたじろいだが、すぐさまその場に踏み止まった。
無言で私の前まで歩を進めると、意を決したように口を開く。
「ぼく……いや、お、俺様がこの剣にかけて誓おう! シエザを二度と危険な目には遭わせない! シエザの身は俺様が必ず守る!」
ブラドはかしずくようにその場で片膝をつくと、腰に吊った剣を水平に掲げ持つ。次いで、鞘から僅かに剣を引き抜き、再びカチャッと澄んだ音を響かせて納剣した。
意識の覚醒を自覚して、私は条件反射のようにそう呟いた。
と突然、身体に重みがのしかかる。
「ぐぇっ! な、なに!?」
目を開けると、すぐ傍にキュロットの顔があった。どうやら彼女が私の上にダイブしてきたらしい。
キュロットは泣き顔のような表情で言う。
「よかったですわシエザ! わたくし、このままシエザは目覚めないのではと心配で心配で!」
これはいったいどういう状況なのだろうか。私は目を丸くしつつ、ぐるりと辺りを見渡してみた。
キュロットの傍らには、安堵の表情を見せるヒーシスとルフォートの姿があった。見覚えのある場所だなと思いきや、ここは学園の医務室である。
(なんで私、医務室のベッドで寝てんだろ……?)
怪訝に思って記憶を辿っていくと、最後に目にした光景をまざまざと思い出した。
私は慌てて問いかける。
「そうだ、ブラドは!? 無事なの!?」
その問いに答えてくれたのはルフォートだ。ルフォートは無駄にキザな仕草で翡翠色の髪をかきあげ、フッと笑う。
「心配ないさハニー。軽い剣傷を負ってはいたが、魔法薬で傷口はすぐにふさがった。俺たちの静止を振り切って、シエザを背負ってここまで運んだのもあいつだし、ピンピンしてるよ」
「そうなんだ」
ということは、ブラドの背中でぐっすりと眠っていたということか。
ヨダレ垂らさなかったかな……。
そんな思考で気恥ずかしさを紛らわせた私は、小首を傾げて問を重ねた。
「あれ? でもブラドの姿見えないわね。どこにいるの?」
「それがあいつ、なにか忘れ物でもしてたのか、いったん屋敷に帰るって学園を飛び出してさ。けっこう時間がたつから、そろそろ帰ってくるとは思うんだが……」
その時、誰か医務室に入ってくる気配がした。
噂をすれば何とやら。ブラドが戻ってきたのだと直感した私は、そちらへと視線を振り――そこであんぐりと口を開けた。
そこにはブラド・シュターがいた。
気弱で卑屈なブラドではなく、『王立学園の聖女』で攻略対象となっていたメインキャラの一角。髪は燃え上がる炎を連想させるようなツンツン頭で、腰には騎士としての誇りである剣を吊った、精悍な美少年であるブラド・シュターがいた。
驚きに満ちた皆の視線を一身に浴びたブラドは、気後れしたようにたじろいだが、すぐさまその場に踏み止まった。
無言で私の前まで歩を進めると、意を決したように口を開く。
「ぼく……いや、お、俺様がこの剣にかけて誓おう! シエザを二度と危険な目には遭わせない! シエザの身は俺様が必ず守る!」
ブラドはかしずくようにその場で片膝をつくと、腰に吊った剣を水平に掲げ持つ。次いで、鞘から僅かに剣を引き抜き、再びカチャッと澄んだ音を響かせて納剣した。
1
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後
有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。
だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。
それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。
王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!?
けれど、そこには……。
※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~
りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。
ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。
我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。
――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」
乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。
「はい、では平民になります」
虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。
私の婚約者は6人目の攻略対象者でした
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。
すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。
そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。
確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。
って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?
ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。
そんなクラウディアが幸せになる話。
※本編完結済※番外編更新中
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる