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第十四話 ブラド・シュター①
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ブラド・シュターは混乱の極みにあった。
唐突に始まった怨霊騎士とのバトルだが、それはどうやら、自分への試練のために、シエザが意図的に起こしたものらしい。
「どうしてこんなことを! 僕には無理だよ、早く逃げて!」
「それは却下! 大丈夫、ブラドならやれる!」
確信に満ちた台詞の直後、怨霊騎士の剣がシエザの襲いかかった。
シエザは魔法を発動して防ぐが、先ほどは剣を見事に弾き返したアイスシールドが、煌めく氷片と化して砕けた。恐らく、シエザの魔力量が低下しているのだ。
怨霊騎士がそのまま体当りし、シエザの身体を軽々と吹き飛ばした。シエザは岩肌に激突した衝撃にうめき、額からは一筋の血が流れ落ちる。
「シエザ!」
ブラドは牽制のためファイアボルトを放った。火球が怨霊騎士の身体に直撃。しかし魔力を抑えたそれでは怨霊騎士を打ち倒すまでには至らず、むしろ相手を逆撫でしたようで、殺意のこもった眼差しがブラドを射抜く。
「ひっ……!」
思わず腰が引けた。このまま踵を返して逃げ出したい衝動が膨れ上がってくる。
ブラドはシエザの方をちらりと窺った。シエザはいま沸き起こった怯えを見透かすかのように、少しだけ寂しげに目を細めた。
「うん、まあ、それでもいいよ。そもそも私がこの世界にいるのイレギュラーなんだし。面白い走馬灯が見れたくらいの気持ちでいけるからさ。
……ただまあ、ブラドの勇姿が目の前で見られないのが残念だけど」
「僕に何を期待してるの? 初めて合ったときからそうだよ! まるで前から知ってるような口ぶりで、だけど僕には似ても似つかない人物像を重ね合わせて!」
そうだ。シエザは前々から、全幅の信頼をよせていた。
それが少し嬉しくて。
同時にひどく腹立たしかった。
「僕はシエザが思い描いてるような人物じゃない! 勝手に理想を押し付けて、そんなボロボロになって……いい迷惑だよ!」
シエザはどうやら脳振盪を起こしているらしい。ぐらりと上体を崩し、岩肌に背を預ける。
勝機を見て取ったか、怨霊騎士が剣を構え、じりじりとシエザに迫った。
惨劇を阻もうにも、先のファイアボルトでこちらにも警戒が向き、怨霊騎士の半数はブラドを迎え撃つ体勢だ。
そんな絶体絶命のなか、シエザは淡々と言葉を紡いでいく。
「確かにそうかもね。でもさ、仕方ないじゃん。モブとしてのんびり生きていくにしても、キュロットはいい子ちゃんじゃつまんない。ブラドが泣き虫じゃ締まんない。
周りからすれば傍迷惑なエゴかもしれないけど、私にとっては大切なことなんだよ。だってここは乙女ゲーの世界だもん。
メインキャラの一人であるブラド・シュターは、常に格好良くあって欲しい。命をかけるに値するこの願いは――」
そうしてシエザは、この窮地にあって、ニカッと笑った。純粋な、楽しげな笑顔で、こう続けたんだ。
「これは私の、乙女心だから」
心を鷲掴みにされたような感覚があった。初めて押し寄せてくる、何とも言えない情動に、ブラドはひどく戸惑う。
そんな中、強く沸き起こる想い。
(シエザを助けなくちゃ。絶対に死なせちゃ駄目だ)
唐突に始まった怨霊騎士とのバトルだが、それはどうやら、自分への試練のために、シエザが意図的に起こしたものらしい。
「どうしてこんなことを! 僕には無理だよ、早く逃げて!」
「それは却下! 大丈夫、ブラドならやれる!」
確信に満ちた台詞の直後、怨霊騎士の剣がシエザの襲いかかった。
シエザは魔法を発動して防ぐが、先ほどは剣を見事に弾き返したアイスシールドが、煌めく氷片と化して砕けた。恐らく、シエザの魔力量が低下しているのだ。
怨霊騎士がそのまま体当りし、シエザの身体を軽々と吹き飛ばした。シエザは岩肌に激突した衝撃にうめき、額からは一筋の血が流れ落ちる。
「シエザ!」
ブラドは牽制のためファイアボルトを放った。火球が怨霊騎士の身体に直撃。しかし魔力を抑えたそれでは怨霊騎士を打ち倒すまでには至らず、むしろ相手を逆撫でしたようで、殺意のこもった眼差しがブラドを射抜く。
「ひっ……!」
思わず腰が引けた。このまま踵を返して逃げ出したい衝動が膨れ上がってくる。
ブラドはシエザの方をちらりと窺った。シエザはいま沸き起こった怯えを見透かすかのように、少しだけ寂しげに目を細めた。
「うん、まあ、それでもいいよ。そもそも私がこの世界にいるのイレギュラーなんだし。面白い走馬灯が見れたくらいの気持ちでいけるからさ。
……ただまあ、ブラドの勇姿が目の前で見られないのが残念だけど」
「僕に何を期待してるの? 初めて合ったときからそうだよ! まるで前から知ってるような口ぶりで、だけど僕には似ても似つかない人物像を重ね合わせて!」
そうだ。シエザは前々から、全幅の信頼をよせていた。
それが少し嬉しくて。
同時にひどく腹立たしかった。
「僕はシエザが思い描いてるような人物じゃない! 勝手に理想を押し付けて、そんなボロボロになって……いい迷惑だよ!」
シエザはどうやら脳振盪を起こしているらしい。ぐらりと上体を崩し、岩肌に背を預ける。
勝機を見て取ったか、怨霊騎士が剣を構え、じりじりとシエザに迫った。
惨劇を阻もうにも、先のファイアボルトでこちらにも警戒が向き、怨霊騎士の半数はブラドを迎え撃つ体勢だ。
そんな絶体絶命のなか、シエザは淡々と言葉を紡いでいく。
「確かにそうかもね。でもさ、仕方ないじゃん。モブとしてのんびり生きていくにしても、キュロットはいい子ちゃんじゃつまんない。ブラドが泣き虫じゃ締まんない。
周りからすれば傍迷惑なエゴかもしれないけど、私にとっては大切なことなんだよ。だってここは乙女ゲーの世界だもん。
メインキャラの一人であるブラド・シュターは、常に格好良くあって欲しい。命をかけるに値するこの願いは――」
そうしてシエザは、この窮地にあって、ニカッと笑った。純粋な、楽しげな笑顔で、こう続けたんだ。
「これは私の、乙女心だから」
心を鷲掴みにされたような感覚があった。初めて押し寄せてくる、何とも言えない情動に、ブラドはひどく戸惑う。
そんな中、強く沸き起こる想い。
(シエザを助けなくちゃ。絶対に死なせちゃ駄目だ)
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