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第八話 やっぱ縦ロールでしょ⑥
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「こいつはオレも負けてられないな」
ルフォートがタクトでも振るように指で空中に螺旋を描く。すると小さな旋風が発生し、ぼたん雪と蛍火を巻き込んだ。
それらが混ざり合い、水蒸気の竜巻が出来上がると、ゆっくりとキュロットの近くに移動。彼女の金髪を一房絡め取る。
キュロットの髪が水蒸気の渦に沿って、くるくるとカールされていった。ものの数分で綺麗な縦ロールが一房出来上がる。
私は弾んだ声を上げた。
「やった! ほら、うまくいったでしょ!」
「う、うん。すごく集中力がいるけど、これなら何とかなりそうだね」
「オレのセットの技量も褒めてくれよ? 他の奴じゃこうはいかないぜ」
「もちろんよ、ありがとう! よーし、それじゃこのまま残りも……」
そこまで口にしたところで私ははたと気付いた。恐らく、ブラドとルフォートも、私と同じことに思い至ったのだろう。今しがたの高揚はどこへやら、ぴしりと表情を強張らせる。
誰もがそのことを直視したくない、触れたくないといった空気を醸し出していたが、このまま目を背けていても仕方ない。私は意を決して口にした。
「それじゃこのまま残りもやっちゃおうか。こ、小一時間もあればできるんじゃないかな?」
てへっ。
といった感じに、愛嬌のある笑みで伝えたが、そんなもので誤魔化せるほど甘くはなかった。
ルフォートはサッと顔を青ざめさせる。
「この緻密な魔法操作、小一時間もぶっ続けでやるのか!? サリバン家に伝わるどの魔法修行よりもきついぞ!?」
「し、仕方ないでしょ! レディーの身だしなみには時間と労力が掛かるものなのよ! こんなもの、ブラック企業勤めに比べたら楽なもんよ! いいから続けるわよ!」
「ま、また何かわからないこと言ってるしぃ……」
ブラドの涙声を聞き流し、私は氷魔法でさらなる結晶を生み出していった。それにつられる形で、ブラドとルフォートも魔法を継続させる。
私たちの鬼気迫るチャレンジに、周りに集まっているクラスメイトたちが色めき立って声を上げる。
「おいマジかよ、そんなことできるのか?」
「私まだ魔法操作も覚束ないのに。すごい、頑張って!」
「俺はできる方に昼食賭けるぞ!」
「乗った! 途中で音を上げるに食券三枚!」
外野が無責任に騒々しいが、ここまで注目されるとなると、俄然やる気が出るというものだ。
ブラック企業ではどんな仕事を手がけようとも、熱烈な応援も熱視線も浴びない日々だったのだから。
額にじわりと浮かんでくる汗を拭いつつ、さらなる集中に入ろうとした時だ。くぐもったような、低い声が教室に響き渡った。
「いったい何の騒ぎだ? もう授業時間になっている、皆はやく席につきなさい」
クラスメイトがびくっと身をすくめ、そそくさと自分たちの席に戻っていく。
人垣が割れた先に見えたのは、教壇へと歩を進める、黒いローブに見を包んだ男性教師だった。
肩口まで伸びた黒髪に、落ち窪んだ眼。胡散臭い魔術師といった印象の、陰気そうな人物である。
その姿に見覚えのある私は、小さく呟いた。
「げっ。ネッバス先生じゃん……」
ネッバスは『王立学園の聖女』にも登場するキャラだ。
根っからの貴族主義であり、平民でありながら王立学園に通うことになったヒロインに対して、答えられそうにない難問をわざと出したり、教師の立場を利用して雑用を命じたりと、何とも陰険な嫌がらせをする人物である。
ネッバスは未だ自分の席に戻らず、キュロットの傍で団子状態になっている私たちにふと気付くと、不愉快そうに眉をひそめた。
ルフォートがタクトでも振るように指で空中に螺旋を描く。すると小さな旋風が発生し、ぼたん雪と蛍火を巻き込んだ。
それらが混ざり合い、水蒸気の竜巻が出来上がると、ゆっくりとキュロットの近くに移動。彼女の金髪を一房絡め取る。
キュロットの髪が水蒸気の渦に沿って、くるくるとカールされていった。ものの数分で綺麗な縦ロールが一房出来上がる。
私は弾んだ声を上げた。
「やった! ほら、うまくいったでしょ!」
「う、うん。すごく集中力がいるけど、これなら何とかなりそうだね」
「オレのセットの技量も褒めてくれよ? 他の奴じゃこうはいかないぜ」
「もちろんよ、ありがとう! よーし、それじゃこのまま残りも……」
そこまで口にしたところで私ははたと気付いた。恐らく、ブラドとルフォートも、私と同じことに思い至ったのだろう。今しがたの高揚はどこへやら、ぴしりと表情を強張らせる。
誰もがそのことを直視したくない、触れたくないといった空気を醸し出していたが、このまま目を背けていても仕方ない。私は意を決して口にした。
「それじゃこのまま残りもやっちゃおうか。こ、小一時間もあればできるんじゃないかな?」
てへっ。
といった感じに、愛嬌のある笑みで伝えたが、そんなもので誤魔化せるほど甘くはなかった。
ルフォートはサッと顔を青ざめさせる。
「この緻密な魔法操作、小一時間もぶっ続けでやるのか!? サリバン家に伝わるどの魔法修行よりもきついぞ!?」
「し、仕方ないでしょ! レディーの身だしなみには時間と労力が掛かるものなのよ! こんなもの、ブラック企業勤めに比べたら楽なもんよ! いいから続けるわよ!」
「ま、また何かわからないこと言ってるしぃ……」
ブラドの涙声を聞き流し、私は氷魔法でさらなる結晶を生み出していった。それにつられる形で、ブラドとルフォートも魔法を継続させる。
私たちの鬼気迫るチャレンジに、周りに集まっているクラスメイトたちが色めき立って声を上げる。
「おいマジかよ、そんなことできるのか?」
「私まだ魔法操作も覚束ないのに。すごい、頑張って!」
「俺はできる方に昼食賭けるぞ!」
「乗った! 途中で音を上げるに食券三枚!」
外野が無責任に騒々しいが、ここまで注目されるとなると、俄然やる気が出るというものだ。
ブラック企業ではどんな仕事を手がけようとも、熱烈な応援も熱視線も浴びない日々だったのだから。
額にじわりと浮かんでくる汗を拭いつつ、さらなる集中に入ろうとした時だ。くぐもったような、低い声が教室に響き渡った。
「いったい何の騒ぎだ? もう授業時間になっている、皆はやく席につきなさい」
クラスメイトがびくっと身をすくめ、そそくさと自分たちの席に戻っていく。
人垣が割れた先に見えたのは、教壇へと歩を進める、黒いローブに見を包んだ男性教師だった。
肩口まで伸びた黒髪に、落ち窪んだ眼。胡散臭い魔術師といった印象の、陰気そうな人物である。
その姿に見覚えのある私は、小さく呟いた。
「げっ。ネッバス先生じゃん……」
ネッバスは『王立学園の聖女』にも登場するキャラだ。
根っからの貴族主義であり、平民でありながら王立学園に通うことになったヒロインに対して、答えられそうにない難問をわざと出したり、教師の立場を利用して雑用を命じたりと、何とも陰険な嫌がらせをする人物である。
ネッバスは未だ自分の席に戻らず、キュロットの傍で団子状態になっている私たちにふと気付くと、不愉快そうに眉をひそめた。
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