正しい悪役令嬢の育て方

犬野派閥

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第六話 シエザさーん!?③

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「ムチでございます」
「いやまあ、そうみたいだけど。何でこんなもん持ってるの?」

 今度はオロンがきょとんとした表情を見せる番だった。
 オロンは訝しげに眉をひそめて答える。

「お嬢様が“フルーツは私が欲してるタイミングで持ってくるように。もしそんな気分じゃない時に出した場合、ムチ打ち百回の刑に処すわ”と仰られていたので用意していたのですが……」
「とんでもねぇなシエザ嬢! ムチ打ちなんかしないから、そんなもん早くしまって!」
「…………」
「何でちょっと残念そうな目で私を見んの!?」

 コイツの目付き気に入らねぇな!
 クビにしよっかな!?

 そんなことを本気で検討しつつ、私は二人を押しやりながら言う。

「ああもう、ちょっと考え事したいから一人にして! 部屋から出てって!」

 アルエとオロンを部屋から放り出した私は、ドレッサーの前で頭を抱え込むようにして座った。脳裏を駆け巡るのは、可能性と呼ぶにはあまりにも存在感のある、確信にも似た推察。
 私は心のなかで叫ぶ。

(朱に交われば赤くなる――の『朱』って、たぶん私だ! 王立学園に入学して、悪役令嬢や王太子にとんでもない影響与えちゃうのシエザだ!!)

 それぐらい、私が転生したシエザはヤベェ奴だということがわかった。少なくとも、お嬢様お坊ちゃまの通う王立学園に入るべき一般的な令嬢とはかけ離れている。

 私はドレッサーの三面鏡に映るシエザの姿を見やった。冷静沈着でいつも無表情なはずのクールガールは、ゲームでは見せたことのない困惑しきった顔で見つめ返してくる。

「何がモブよ。シエザぁ、あんたとんでもない奴なんじゃない……」

 想定外の事態に深刻なため息をつきそうになるが、私はその衝動をぐっと堪えた。
 不条理なことは社畜だった私にとって日常茶飯事。この状況を何とかプラスに変えていかなくては。
 ヨシッと気合を入れた私は、現状を整理する。

(シエザが破天荒なのはわかったけど、私は転生者なんだし。別にシエザらしい振る舞いとかしなくていいわよね)

 となると、シエザの影響を受けるであろうキュロットたちは今の性格で落ち着くことになるが、よくよく考えればそれも悪くないかもしれない。

「違和感はあるけど、要は慣れよね。私は人生イージーモードでのんびり暮らせればいいわけだし」

 そのために必要なことを、指折り数えて確認していく。

「ええと、まずは最大の権力者、ヒーシス王子とのパイプ作りだけど……これは大丈夫そうかな。バックガーデンでのやりとりは好印象のはず」

 なんたって、ヒロインとの出会いのシーンを丸パクリして対応したのだ。ヒロイン相手ならフラグが立つくらいだし、異性の良き友人なんていう好ポジにつけるかもしれない。

「できればあんなオネエキャラじゃない方がいいんだけど。まあ、下手に関わって面倒なことになったら困るし。このまま良好な関係を築いていくということで」
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