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第十八話 それは早すぎる
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じいちゃんが何を言わんとしているのかさっぱりだ。仕方ないので、俺はとにかく本題に入る。
「そういうわけでさ。唯奈ちゃんが変な声を上げるから、先生に叱られちゃって。同じようなことが起きないよう、何とかできないかなって」
「だったらよがり刷毛のスキルを使わなければよいじゃろう。それが唯奈ちゃんのためにもなる」
「ええー。嫌だよ、せっかく調子出てきたんだから。
あっ、そうだ! じいちゃん、声を抑えるような道具持ってない? そこの押し入れ、よくわからないものが色々と入ってたし、何かあるでしょ。ええとぉ……」
「ああ、コラ! 勝手に覗くんじゃない! 止めるんじゃ!」
じいちゃんの制止を振り切って押し入れの中をゴソゴソと探った俺は、ある物を手にして小首をかしげる。
それは不可解な形状をしていた。まず目につくのは、ゴルフボールによく似た、プラスチック製の球体だ。中身は空で、表面にいくつも穴が空いている。
そのボールの両端にはベルトがつけられており、どこかに固定できる構造となっている。
「じいちゃん、これは何に使うものなの?」
「おお、懐かしいの。これは『ボールギャグ』といってな。ボールを口に噛ませることで……」
すらすらと説明を述べていたじいちゃんが、何かに気付いたようにハッと言葉を途切らせた。
じいちゃんは目を泳がせながら思案顔を見せると、額に浮かんだ汗を拭って言う。
「おっと、勘違いしておった。これはそう、単なるマッサージ器具じゃわい。
こうしてボールを凝っているところに押し付けての。おおぉ、気持ちいいのぅ」
じいちゃんは肩にボールを押し当て、凝りをほぐすようにグリグリと力を込めている。
「なぁんだ。単なるマッサージ器具かぁ」
「そうじゃよ。それ以外になんの使い道もないガラクタじゃ。フォッフォッフォッ」
「……それはどうかな?」
俺の静かな呟きに、ボールをグリグリしていたじいちゃんの手がぴたりと止まる。
じいちゃんは汗をつぅっと垂らしながら、緊張した声音で問いかけてきた。
「れ、蓮や。それはいったいどういう……」
「おーい、蓮くーん。父さん迎えに来たぞー」
不意にそう声がして、父ちゃんが俺たちのいる和室に姿を現した。
瞬間、俺はじいちゃんの手からボールギャグをサッと奪い取った。そして俺の名前を呼ぼうと大きく口を開ける父ちゃんに、ボールを押し込むようにして咥えさせると、ベルトで固定する。
「蓮く、もごぉっ!?」
父ちゃんは何が起こったのか把握できず、必死になって声を発しているふうだが、もごもごとくぐもった声が漏れるのみだ。
俺はその様子に満足して頷いた。
「やっぱりね。じいちゃん、これはいいよ。素晴らしい。マッサージ器具としてではなく、こうして使えば、口を塞ぐことができるんだ……」
じいちゃんが俺の言葉を聞き、よろりと一歩後ずさる。
「な、何ということじゃ。マッサージ器具と信じてなお、その使用法に辿り着くというのか……!?」
「じいちゃん、これは借りてくね。これなら唯奈ちゃんも、きっと静かにできると思うから。
父ちゃんお待たせ。さ、帰ろう」
「もごご。もごうご」
父ちゃんはボールギャグを咥え慣れているのか、すぐさま何の違和感も覚えなくなったらしく、俺の手をとって一緒に歩き出す。
愕然となったまま、ただ俺の背中を見送っていたじいちゃんが、ハッとなって声を発した。それはなぜか、俺のクラスメイトの身を案じるような、こんな叫びだった。
「……ゆ、唯奈ちゃぁぁぁぁん!!」
「そういうわけでさ。唯奈ちゃんが変な声を上げるから、先生に叱られちゃって。同じようなことが起きないよう、何とかできないかなって」
「だったらよがり刷毛のスキルを使わなければよいじゃろう。それが唯奈ちゃんのためにもなる」
「ええー。嫌だよ、せっかく調子出てきたんだから。
あっ、そうだ! じいちゃん、声を抑えるような道具持ってない? そこの押し入れ、よくわからないものが色々と入ってたし、何かあるでしょ。ええとぉ……」
「ああ、コラ! 勝手に覗くんじゃない! 止めるんじゃ!」
じいちゃんの制止を振り切って押し入れの中をゴソゴソと探った俺は、ある物を手にして小首をかしげる。
それは不可解な形状をしていた。まず目につくのは、ゴルフボールによく似た、プラスチック製の球体だ。中身は空で、表面にいくつも穴が空いている。
そのボールの両端にはベルトがつけられており、どこかに固定できる構造となっている。
「じいちゃん、これは何に使うものなの?」
「おお、懐かしいの。これは『ボールギャグ』といってな。ボールを口に噛ませることで……」
すらすらと説明を述べていたじいちゃんが、何かに気付いたようにハッと言葉を途切らせた。
じいちゃんは目を泳がせながら思案顔を見せると、額に浮かんだ汗を拭って言う。
「おっと、勘違いしておった。これはそう、単なるマッサージ器具じゃわい。
こうしてボールを凝っているところに押し付けての。おおぉ、気持ちいいのぅ」
じいちゃんは肩にボールを押し当て、凝りをほぐすようにグリグリと力を込めている。
「なぁんだ。単なるマッサージ器具かぁ」
「そうじゃよ。それ以外になんの使い道もないガラクタじゃ。フォッフォッフォッ」
「……それはどうかな?」
俺の静かな呟きに、ボールをグリグリしていたじいちゃんの手がぴたりと止まる。
じいちゃんは汗をつぅっと垂らしながら、緊張した声音で問いかけてきた。
「れ、蓮や。それはいったいどういう……」
「おーい、蓮くーん。父さん迎えに来たぞー」
不意にそう声がして、父ちゃんが俺たちのいる和室に姿を現した。
瞬間、俺はじいちゃんの手からボールギャグをサッと奪い取った。そして俺の名前を呼ぼうと大きく口を開ける父ちゃんに、ボールを押し込むようにして咥えさせると、ベルトで固定する。
「蓮く、もごぉっ!?」
父ちゃんは何が起こったのか把握できず、必死になって声を発しているふうだが、もごもごとくぐもった声が漏れるのみだ。
俺はその様子に満足して頷いた。
「やっぱりね。じいちゃん、これはいいよ。素晴らしい。マッサージ器具としてではなく、こうして使えば、口を塞ぐことができるんだ……」
じいちゃんが俺の言葉を聞き、よろりと一歩後ずさる。
「な、何ということじゃ。マッサージ器具と信じてなお、その使用法に辿り着くというのか……!?」
「じいちゃん、これは借りてくね。これなら唯奈ちゃんも、きっと静かにできると思うから。
父ちゃんお待たせ。さ、帰ろう」
「もごご。もごうご」
父ちゃんはボールギャグを咥え慣れているのか、すぐさま何の違和感も覚えなくなったらしく、俺の手をとって一緒に歩き出す。
愕然となったまま、ただ俺の背中を見送っていたじいちゃんが、ハッとなって声を発した。それはなぜか、俺のクラスメイトの身を案じるような、こんな叫びだった。
「……ゆ、唯奈ちゃぁぁぁぁん!!」
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