上 下
23 / 46
第十話 遊び道具

2

しおりを挟む
 いつもならすぐさま玄関に向かうが、まだじいちゃんからよがり刷毛の使い方を習っていない。
 どうしようかと迷っていると、なかなかやって来ない俺を不安に感じたのか、父ちゃんが部屋に入ってきた。

「何だ蓮くん。いるなら返事くらいしなさい。ほら、帰る準備を……」

 そこまで言ったところで、父ちゃんは俺が手にしている刷毛に気付いて目を丸くする。
 いったい何に使うものなのかと、疑問を抱いているのだろう。そう考えた俺は、父ちゃんによがり刷毛のことを教えてあげようと口を開く。

 しかし、俺が言葉を発するよりも先に、父ちゃんは眼鏡を正しながら、口元を緩めて言う。

「うわ、懐かしいなぁ。これってお義父さんが使ってたよがり刷毛ですよね」
「ああ、そうじゃ。よく覚えておったの」
「そりゃあ覚えてますよ。撮影のとき、お義父さんがこれの使い方を女優さんにレクチャーしたら、みんな驚くほど上達してましたから。
 さすが監督だって、僕らも感心しきりでしたよ」

 二人はいったい何の話をしているのだろうか。
 俺がもの問いげな視線を送っていると、それに気付いた父ちゃんが、こう説明してくれる。

「蓮くんはまだ子供だから、よくわからない話だろうけどね。父さんは昔、おじいちゃんの撮ったAVに、M男として出演していたんだよ」
「子供だから何のこと言ってるのかさっぱりわかんないや!」
「それでいいんだよ。大人になって意味がわかった時に、父さんを汚物を見るような目で見てくれたならそれでいい。期待しているよ」

 父ちゃんはさらに意味のわからないことを言ったあと、じいちゃんに問いかける。

「ところで、どうして蓮くんがよがり刷毛を手にしているんです?」
「いや、何か面白い遊び道具がないかとせがまれてな。これで友達とくすぐり合って遊べばいいのではと持たせてみたんじゃ。
 蓮や、せっかくだし、少し父ちゃんをくすぐってみてはどうかな?」
「うん、やるやる!」

 父ちゃんはやれやれといった感じに肩をすくめ、両腕を大きく広げた。

「仕方ないな、一回だけだぞ?」
「よーし。くすぐった過ぎて立っていられないようにしてやるぞ!」
「ふふっ、果たしてできるかな? 父さんは昔、『欲しがりメガネ』の異名を持つM男だったんだ。
 ちょっとやそっとの責めでは……」
「それ!」
「あふん的確」

 さわっとひと撫でしただけで、父ちゃんが膝から崩れ落ちた。
 そのあまりの不甲斐なさに、俺は眉間に皺を寄せる。

「ちょっと父ちゃん、真面目にやってよ!」
「い、いや、こんなはずじゃあ……」

 すると一連の様子を黙って眺めていたじいちゃんが、得心がいったように大きく頷いた。

「……やはりの。亀甲縛りの手際のよさを見て、もしやよがり刷毛もと思ったが。
 蓮や、父ちゃんの弱い部分をどうやって見破ったんじゃ?」
「そんなこと聞かれても、よくわかんないよ。ただ……」

 俺はそこでいったん言葉を切ると、自分が目にしたものを正直に話す。

「よがり刷毛を手にしたとき、父ちゃんの肌に光る線みたいなものが見えた気がしたんだ。
 そこを刷毛で優しくなぞっただけだよ」

 その台詞を聞いた父ちゃんが、ガバッと勢いよく顔を上げた。

「何だって!? 蓮くんには『ウイークポイント・ロード』が見えているというのかい!?」
「ういーく……なに?」
「ウイークポイント・ロードだよ! 触れられると弱い部分、巷では性感帯とも言うんだ!
 熟練の刷毛使いでも、ひと目で見抜ける者は稀だというのに、蓮くんには見えていたんだね!?」
「う、うん。たぶん……」

 父ちゃんは驚愕の表情を浮かべると、じいちゃんへと目をやった。
 じいちゃんは深呼吸でもするように、フウゥと息を吐いた。そして、どこか遠い目をして、こう言うのだった。

「あまり安易な言葉は使いたくないんじゃが。この子は紛れもなく天才じゃ。
 いつの日か、SM業界に新風を吹き込む存在となるやもしれんな……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

【R18】通学路ですれ違うお姉さんに僕は食べられてしまった

ねんごろ
恋愛
小学4年生の頃。 僕は通学路で毎朝すれ違うお姉さんに… 食べられてしまったんだ……

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る

電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。 女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。 「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」 純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。 「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...