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第十話 遊び道具
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いつもならすぐさま玄関に向かうが、まだじいちゃんからよがり刷毛の使い方を習っていない。
どうしようかと迷っていると、なかなかやって来ない俺を不安に感じたのか、父ちゃんが部屋に入ってきた。
「何だ蓮くん。いるなら返事くらいしなさい。ほら、帰る準備を……」
そこまで言ったところで、父ちゃんは俺が手にしている刷毛に気付いて目を丸くする。
いったい何に使うものなのかと、疑問を抱いているのだろう。そう考えた俺は、父ちゃんによがり刷毛のことを教えてあげようと口を開く。
しかし、俺が言葉を発するよりも先に、父ちゃんは眼鏡を正しながら、口元を緩めて言う。
「うわ、懐かしいなぁ。これってお義父さんが使ってたよがり刷毛ですよね」
「ああ、そうじゃ。よく覚えておったの」
「そりゃあ覚えてますよ。撮影のとき、お義父さんがこれの使い方を女優さんにレクチャーしたら、みんな驚くほど上達してましたから。
さすが監督だって、僕らも感心しきりでしたよ」
二人はいったい何の話をしているのだろうか。
俺がもの問いげな視線を送っていると、それに気付いた父ちゃんが、こう説明してくれる。
「蓮くんはまだ子供だから、よくわからない話だろうけどね。父さんは昔、おじいちゃんの撮ったAVに、M男として出演していたんだよ」
「子供だから何のこと言ってるのかさっぱりわかんないや!」
「それでいいんだよ。大人になって意味がわかった時に、父さんを汚物を見るような目で見てくれたならそれでいい。期待しているよ」
父ちゃんはさらに意味のわからないことを言ったあと、じいちゃんに問いかける。
「ところで、どうして蓮くんがよがり刷毛を手にしているんです?」
「いや、何か面白い遊び道具がないかとせがまれてな。これで友達とくすぐり合って遊べばいいのではと持たせてみたんじゃ。
蓮や、せっかくだし、少し父ちゃんをくすぐってみてはどうかな?」
「うん、やるやる!」
父ちゃんはやれやれといった感じに肩をすくめ、両腕を大きく広げた。
「仕方ないな、一回だけだぞ?」
「よーし。くすぐった過ぎて立っていられないようにしてやるぞ!」
「ふふっ、果たしてできるかな? 父さんは昔、『欲しがりメガネ』の異名を持つM男だったんだ。
ちょっとやそっとの責めでは……」
「それ!」
「あふん的確」
さわっとひと撫でしただけで、父ちゃんが膝から崩れ落ちた。
そのあまりの不甲斐なさに、俺は眉間に皺を寄せる。
「ちょっと父ちゃん、真面目にやってよ!」
「い、いや、こんなはずじゃあ……」
すると一連の様子を黙って眺めていたじいちゃんが、得心がいったように大きく頷いた。
「……やはりの。亀甲縛りの手際のよさを見て、もしやよがり刷毛もと思ったが。
蓮や、父ちゃんの弱い部分をどうやって見破ったんじゃ?」
「そんなこと聞かれても、よくわかんないよ。ただ……」
俺はそこでいったん言葉を切ると、自分が目にしたものを正直に話す。
「よがり刷毛を手にしたとき、父ちゃんの肌に光る線みたいなものが見えた気がしたんだ。
そこを刷毛で優しくなぞっただけだよ」
その台詞を聞いた父ちゃんが、ガバッと勢いよく顔を上げた。
「何だって!? 蓮くんには『ウイークポイント・ロード』が見えているというのかい!?」
「ういーく……なに?」
「ウイークポイント・ロードだよ! 触れられると弱い部分、巷では性感帯とも言うんだ!
熟練の刷毛使いでも、ひと目で見抜ける者は稀だというのに、蓮くんには見えていたんだね!?」
「う、うん。たぶん……」
父ちゃんは驚愕の表情を浮かべると、じいちゃんへと目をやった。
じいちゃんは深呼吸でもするように、フウゥと息を吐いた。そして、どこか遠い目をして、こう言うのだった。
「あまり安易な言葉は使いたくないんじゃが。この子は紛れもなく天才じゃ。
いつの日か、SM業界に新風を吹き込む存在となるやもしれんな……」
どうしようかと迷っていると、なかなかやって来ない俺を不安に感じたのか、父ちゃんが部屋に入ってきた。
「何だ蓮くん。いるなら返事くらいしなさい。ほら、帰る準備を……」
そこまで言ったところで、父ちゃんは俺が手にしている刷毛に気付いて目を丸くする。
いったい何に使うものなのかと、疑問を抱いているのだろう。そう考えた俺は、父ちゃんによがり刷毛のことを教えてあげようと口を開く。
しかし、俺が言葉を発するよりも先に、父ちゃんは眼鏡を正しながら、口元を緩めて言う。
「うわ、懐かしいなぁ。これってお義父さんが使ってたよがり刷毛ですよね」
「ああ、そうじゃ。よく覚えておったの」
「そりゃあ覚えてますよ。撮影のとき、お義父さんがこれの使い方を女優さんにレクチャーしたら、みんな驚くほど上達してましたから。
さすが監督だって、僕らも感心しきりでしたよ」
二人はいったい何の話をしているのだろうか。
俺がもの問いげな視線を送っていると、それに気付いた父ちゃんが、こう説明してくれる。
「蓮くんはまだ子供だから、よくわからない話だろうけどね。父さんは昔、おじいちゃんの撮ったAVに、M男として出演していたんだよ」
「子供だから何のこと言ってるのかさっぱりわかんないや!」
「それでいいんだよ。大人になって意味がわかった時に、父さんを汚物を見るような目で見てくれたならそれでいい。期待しているよ」
父ちゃんはさらに意味のわからないことを言ったあと、じいちゃんに問いかける。
「ところで、どうして蓮くんがよがり刷毛を手にしているんです?」
「いや、何か面白い遊び道具がないかとせがまれてな。これで友達とくすぐり合って遊べばいいのではと持たせてみたんじゃ。
蓮や、せっかくだし、少し父ちゃんをくすぐってみてはどうかな?」
「うん、やるやる!」
父ちゃんはやれやれといった感じに肩をすくめ、両腕を大きく広げた。
「仕方ないな、一回だけだぞ?」
「よーし。くすぐった過ぎて立っていられないようにしてやるぞ!」
「ふふっ、果たしてできるかな? 父さんは昔、『欲しがりメガネ』の異名を持つM男だったんだ。
ちょっとやそっとの責めでは……」
「それ!」
「あふん的確」
さわっとひと撫でしただけで、父ちゃんが膝から崩れ落ちた。
そのあまりの不甲斐なさに、俺は眉間に皺を寄せる。
「ちょっと父ちゃん、真面目にやってよ!」
「い、いや、こんなはずじゃあ……」
すると一連の様子を黙って眺めていたじいちゃんが、得心がいったように大きく頷いた。
「……やはりの。亀甲縛りの手際のよさを見て、もしやよがり刷毛もと思ったが。
蓮や、父ちゃんの弱い部分をどうやって見破ったんじゃ?」
「そんなこと聞かれても、よくわかんないよ。ただ……」
俺はそこでいったん言葉を切ると、自分が目にしたものを正直に話す。
「よがり刷毛を手にしたとき、父ちゃんの肌に光る線みたいなものが見えた気がしたんだ。
そこを刷毛で優しくなぞっただけだよ」
その台詞を聞いた父ちゃんが、ガバッと勢いよく顔を上げた。
「何だって!? 蓮くんには『ウイークポイント・ロード』が見えているというのかい!?」
「ういーく……なに?」
「ウイークポイント・ロードだよ! 触れられると弱い部分、巷では性感帯とも言うんだ!
熟練の刷毛使いでも、ひと目で見抜ける者は稀だというのに、蓮くんには見えていたんだね!?」
「う、うん。たぶん……」
父ちゃんは驚愕の表情を浮かべると、じいちゃんへと目をやった。
じいちゃんは深呼吸でもするように、フウゥと息を吐いた。そして、どこか遠い目をして、こう言うのだった。
「あまり安易な言葉は使いたくないんじゃが。この子は紛れもなく天才じゃ。
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