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第一話 百鬼夜行って組合制なんだ……。

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 水ヨーヨーを握り込む。
 マーブル模様をソフトボールの縫い目に見立て、人さし指を軽く添わせた。リリースする際にはスピンをかけ、中指と薬指の間から抜けるように放つ。

 ゴムの反発力によって、水ヨーヨーは入江風花の手元にすぐさま戻った。風船の中の水がチャポンと小気味のいい音を立てるが、風花は浮かない顔で、続けてボンボンと水ヨーヨーを放っていく。

 その様子に呆れたのだろう。隣からハァとため息が聞こえた。

「まだあの一球気にしてんの? 失投しないピッチャーなんていないんだし、さっさと切り替えなさいよ」
「だってぇ。あの場面でシンカー決まってたら絶対勝ってたよ?」
「それを言うならまだ練習中のシンカー投げんな。カーブでいいでしょ、相手タイミング合ってなかったんだから」
「でも飛鳥ちゃんサイン出したじゃない」
「風花がシンカーのサイン出すまで首振り続けたんでしょーが! ほんっとああいうとこ頑固だよね」
「ごめーん。でも結局サイン出してくれる飛鳥ちゃん好き」

 風花のその台詞に、安達飛鳥が苦虫を噛み潰したような顔を浮かべ、「うっさい」と呟く。

 今日は近隣にある高校が集い、女子ソフトボール部の対抗戦が行われたのだが、結果は惜しくも一回戦敗退。
 反省会を兼ねたミーティングを済ませたあと、敗戦の傷を癒やすという名目で、神社の秋祭りに繰り出している。

 時刻は六時を回ったばかりだが、浅秋の空には夕闇の気配が色濃く漂っていた。軒を連ねる屋台にも明かりが灯り、定番メニューともいえる焼きそばソースの香りや、行き交う人々の笑顔が、お祭りならではの賑わいに花を添える。
 風花は一つ頷いて言った。

「でも飛鳥ちゃんの言う通りだね。せっかくのお祭りなんだし楽しまなきゃ」
「そういうこと。あ、たこ焼き売ってる。風花も食べるでしょ」

 飛鳥が答えも待たずに屋台へと足を向けるが、タイミングが悪かったらしい。つい先ほどやけにガタイのいい大男が大量に購入し、作り置きが一パック残っているのみということだった。
 新しいのを焼くにも、少し待ち時間がいる様子だ。

「じゃあ飛鳥ちゃんが食べなよ。お腹減ってるって言ってたし」
「それは風花も同じでしょ。大してかかんないだろうし、焼けるの待てばいいじゃない。あたしらバッテリー組んでる相棒なんだから、片方だけ我慢とかはナシ」
「飛鳥ちゃん……」

 そこで終わっておけば美談になるというのに、飛鳥は黒縁メガネをキラリと光らせて付け加える。

「……それとも、あたしだけカロリーを取れと? 肥え太れと?」
「飛鳥ちゃん……っ!」

 わかりました待ちます。食べます。
 そんなわけでたこ焼き待ちとなった風花は、手慰みに再び水ヨーヨーをボンボンさせる。
 たこ焼きの準備に心奪われているのか、今度は飛鳥も何も言わなかった。

 そうして祭りの雰囲気を味わっていた、まさにその時だ。

 チリリィーィィン。

 鈴だろうか。不意に澄んだ音色が風花の耳に届く。
 祭りに鈴の音がするというのは別に珍しいことでも何でもないが、音色が周囲の喧騒から遊離しているように、やけにハッキリと響いてきたことに風花は違和感を覚えた。

 チリリィーィィン。

 まただ。
 風花は辺りを見渡すが、鈴の音に気を取られて足を止める人は見受けられない。

「ねえ飛鳥ちゃん、いま鈴の音が……」

 そう訊ねようとするが、飛鳥はよほどお腹が空いているのだろう。鉄板に注がれるたこ焼きの生地を食い入るように見つめるのみで、鈴の音どころか風花の声も届いていない様子だ。
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