上 下
4 / 48
1章⭐︎プロローグ⭐︎

最初の観光地

しおりを挟む
-side エリク-



「んんー。ふあーあ。よく寝たー。」


 大きな伸びをすると同時に彼は目覚める。
 ここが魔境へ向かう道で、魔物に狙われているという状況でも爆睡できるという事実がエリクの持ち味である豪胆さを表している。
 おそらく、彼は恐怖を感じにくいサイコパス性が強い人間なのだろう。

 
 昨日、公爵家を出てから1日が経ち、もうすぐ魔境への一本道に着く。
 魔鏡へは「デビルロード」と呼ばれる、1日2回干潮時になると海の中から現れる砂の道が唯一渡る方法だ。
 そして、渡ったが最後。帰ってきた者はいないというこの道をエリクはこれから渡る。


「エリク様。我々とはここでお別れでございます。本当に。本当に何もできなくて、申し訳ございません。」


 護衛の男は悔しそうに顔を歪めてそう言った。この男もエリクが広めた解熱剤によって本来死ぬはずだった妹が助かっている。
 他の護衛たちもそれぞれエリクに恩義を感じていて、それ故にこの護衛に自ら志願したのである。


「いえいえ、大丈夫です。あなた方の立場もわかっておりますから。かしこまりました。」


 護衛たちは涙ながらにエリクを見送る。
 中身はこれだが、意外に人望があるのがエリクと言う少年である。


「はっ。今誰かに褒められた気がする!」


 そして、気のせいのしょーもないことに対して、この状況で純粋に反応できるのもエリクという少年だ。


「まあ、気のせいか。にしても歩いている最中暇だし、ちょうどいいから、デゾートアイランドについて調べるか!!
 [検索]“デゾートアイランド 観光地”」


 そう、エリクにとって今回が初めての異世界観光であった。
 もっとも。魔鏡への追放を異世界観光だというふうに置き換えるぶっ飛んだ思考を持っている彼にとってはだが。


 そもそも、公爵家の嫡男というのは外に出られる機会があまりない。
 せいぜい、魔物と戦う訓練をするときか、パーティなどで王城や他の貴族のところへ行く時だけである。


 この世界には、一応王立学校はあるが義務教育の概念もないため、貴族の場合、国に報告書を出していれば、家庭教師を呼んで教育するだけで良い。
 学校を利用するのは王族やお金のない貴族だ。
 王族は学校が王立学園という体裁をとっているため、通うことが暗黙の了解である。
 そして、お金に余裕のない貴族は家庭教師を呼ぶことができないため、学校に通うのが普通である。
 ドーソン公爵家の場合、両方とも当てはまらないで、学校で外に出ることもなかった。
 だから、前世の記憶が4歳の時、戻ってからというもの彼は外出したくて仕方がなかったようだ。


 ちなみに平民の場合、特にエリクが8歳の時さまざまな肥料を広めるまでは学校に通わせるどころか、日々の生活を過ごすことだけで必死だった。
 平民の食料事情を解決したエリクは庶民にも人気なのであった。


「うーむ。デゾートアイランドの観光地はやはりというか。
 デビルロードしか出てこないか。」


 そう、[検索]スキルはなぜか知らないことに対しては“明確にイメージを持っていない限り”出てこないのだ。
 これは知識神ルノウが、「まあ、そっちの方が面白いでしょ!全部教えてもつまらないしねえ」と、傍迷惑な仕様を付け加えたからである。
 実際その通りなのだが、こういう危機的な状況の時、何も役に立たないスキルであった。


 なお、あの神つかえねーな。と思うとなぜか、「うるうるうる。キャピキャピ」という謎の擬音語を思い出したので考えないようにしている。


「うーん。じゃあ、[鑑定]」


 [鑑定]スキルは知りたい情報をイメージすれば、情報が出てくるスキルだ。
 今彼はデゾートアイランドの面積について知りたいとイメージした。


 鑑定結果:378,000 km²


「なっ!!日本と全く同じじゃねえか!!
 あれ、小さい島じゃなかったの!?
 ……いや、よく見ると島の後方にまだ島があるような?想像以上に巨大な島なのか。」


 おそらく、幾つもの島が連なってできているに違いない。彼はそう推測した。


「[検索]デゾートアイランド 天候」


 検索結果:データ不足なため不明


「ふーむ?やはり出てこないか。」


 他にも、文明や文化、生物や食性などを調べるが何一つ出てこない。


「うーん。やっぱり、これまでいたマスク王国には大昔の人が書いた英雄伝みたいなのしかなかったし、資料不足でイメージできなかったかも。」


 なんでも、その本によると英雄はエンシェントドラゴンに会い、戦いの末最後は死んでしまったという。
 ただ、本当に彼がデゾートアイランドで1人の時に死んでしまっていたのなら、英雄伝に彼のことが残っているはずがないとみんなが思っていた。
 だがまあ、英雄伝なんてそんなもんだと思って誰も突っ込まなかったのだ。
 今回のことで嘘だという確信性が増したのかもしれない。


 とりあえずの手元の情報からそんな事を予想しているうちに2時間が経過し、魔境デゾートアイランドに無事到着することができた。
 今世のエリクという人間にとっては初めてマスク王国外の土地に踏み入れた。
 前世の彼にとっては、初めての異世界旅行だ。緊張すると同時に好奇心が疼いた。



 
 ♢  ♢  ♢  ♢  ♢




 といっても、別になんの変哲もない普通の島だった。
 しばらく探索しているが、凶悪な魔物どころか、とても美しい花が川の側で咲いていてのどかで平和な場所だった。


 あまりの拍子抜け度に思わず気が緩んだ瞬間、強烈な殺気がエリクを襲った。


 ……っぅ。


 図太いエリクでなければ、確実に気絶させていたであろう威圧感。
 逆にいうと、エリクは少し痛いなあくらいで済んできた。


「ほう。なかなか手応えがあって、面白そうじゃのう」


 見ると、銀色の山が動いてきた。
 --否。山のように見えただけで、銀色の鱗が美しい巨大なドラゴンがこちらに向かっていた。




-----------------------------
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

転生キッズの魔物研究所〜ほのぼの家族に溢れんばかりの愛情を受けスローライフを送っていたら規格外の子どもに育っていました〜

西園寺若葉
ファンタジー
高校生の涼太は交通事故で死んでしまったところを優しい神様達に助けられて、異世界に転生させて貰える事になった。 辺境伯家の末っ子のアクシアに転生した彼は色々な人に愛されながら、そこに住む色々な魔物や植物に興味を抱き、研究する気ままな生活を送る事になる。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

前世ポイントッ! ~転生して楽しく異世界生活~

霜月雹花
ファンタジー
 17歳の夏、俺は強盗を捕まえようとして死んだ――そして、俺は神様と名乗った爺さんと話をしていた。話を聞けばどうやら強盗を捕まえた事で未来を改変し、転生に必要な【善行ポイント】と言う物が人より多く貰えて異世界に転生出来るらしい。多く貰った【善行ポイント】で転生時の能力も選び放題、莫大なポイントを使いチート化した俺は異世界で生きていく。 なろうでも掲載しています。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

処理中です...