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17章 わたしに何ができたかな?
第822話 笑うことを忘れた少女㉑やっと笑った
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狩りから帰ってきた3人に、狐たちからもらったんだと言えば、「よかったね」と返ってきた。
え? 驚いてない?
なんで驚かないの?
「狐、知り合い?」
わたしが3人に尋ねると、彼らは景気良く笑った。
わたしがむくれていることに気づいたロサが、謝ってきた。
「ごめんごめん。狐の知り合いはいないよ」
「じゃあ、動物が贈り物をくれるのは、普通のことなの? だから誰も驚かないの??」
「動物が贈り物をするのは一般的ではないと思うけど、君は動物に好かれるから、そういうことがあっても不自然ではないと思ったんだ」
アダムが柔らかく笑う。
「わたしが動物に好かれる?」
ガーシもそう言ってた。
「君のもふもふも、いつも君に贈り物をしているだろ?」
アダムに言われる。
そういえば、もふもふにはいつもいっぱいもらってるな。
わたしはもふもふを見た。
「いつもありがとね」
と言えば、こちらをチラッと見たけど、あくびをして顎までペタッと地面につけた。
「わたしよく思いだせないんだけど、犬ってこんなに凄いっけ?」
ジンたちも〝犬ってすげー〟って言ってたから、そういうもんだったっけ?って思っていたけど、やっぱり何かが違う気がする。
「……凄いって?」
「犬って大きくなれたり、小さくなれたりする動物だっけ?」
3人が固まって、一瞬静けさが降り立った。
「……それは」
アダムが口を開いたかと思ったら吹いた。
速攻でロサとフランツがアダムを軽く叩く。
「ご、ごめん」
と謝りながら、アダムは笑い出した。それを見て、ロサもフランツも笑うのを堪えている顔だ。
アダムが笑いながら、わたしを見る。
「だって、他でもない君が、真面目な顔でそんなこというから……、ダメだ、おかしすぎる」
どこがツボに入ったのかわからないけど、アダムは笑いがとまらないようだ。
「アダムのことは気にしないで、トスカ。その、犬っていうのは……」
説明しようとしてくれたロサが、今度は吹き出す。
「ごめん。君が至極真面目に言ってるのはわかっているのだけど、真面目にすっとぼけているように見えて……」
なによ。おかしい、とか。すっとぼけている、とか。
記憶があやふやなんだもの、仕方ないじゃない。
「ガーシ!」
わたしは焚き火のところにいるガーシを呼んだ。
「どした、トスカ?」
「みんなが真面目な顔がおかしいとか、すっとぼけてとか言う。この中でガーシが一番大人でしょ? みんなを叱って」
「俺がですかっ?」
自分を指さし、驚いた声をあげるガーシ。
「待って。私は何も言ってないよ」
無罪を主張するフランツ。
「止めなかったから同罪」
わたしは冷たく言い放った。
「ガーシはわたしの護衛、味方でしょ?」
「……だそうですので、制裁をくだしますね」
ガーシは礼儀正しく頭を下げる。
「ちょ、ちょっと待て。制裁っていって、そのあげた手、何? もしかして叩くつもり?」
「トスカの願いなので」
ガーシは胸の前で両手を合わせ、拝むようなポーズをした。
「フォンタナ家は戦士の一族だ。支えるのは主君のみ。権力は関係ないから」
フランツがロサたちに説明している。
ガーシは、「では」と手を振り上げた。
「待て、お前本気だろう?」
ロサが止めながら言って、アダムもガーシから逃げ出す。
「トスカ、今ガーシは君の言うことを最優先にしているから。ほら、やめさせて……」
「うるさい!」
「うるさい?」
わたしがフランツに声を荒げると、彼はダメージを受けたように3歩よろよろと後ろに下がって、顔を青ざめさせている。
「リ、リディーが私に向かってうるさいなんて……嘘だ、幻聴だ……」
耳を塞ぐようにして、なんかわけのわからないことを、もそもそ言っている。
そんなフランツの肩に腕を回すロサ。
「フランツは小煩いからな。今までは立場上、言えなかっただけで、ずっとそう思ってたんじゃないか?」
反対側からアダムも肩を組み、フランツに耳打ちする。
「初対面の現在の君をどう思うか、よくわかることになりそうだねぇー」
ロサとアダムはいたずらっ子みたいな顔で、楽しそうにフランツに絡んでいっている。
その3人の頭を、ガーシがリズムカルにゴン、ゴン、ゴンと叩いていった。
3人は頭を押さえている。いい音がしたし、けっこう痛かったようだ。
「トスカ、これでいいか?」
「うん、ありがとう!」
3人は思い切りため息をついた。その様子が一連のコントみたいだったので、わたしはなんだかおかしくなって笑ってしまった。視線を感じて顔を上げると、今度は揃って口を開けていた。
「笑った」
え?
ええ?
3人は顔を見合わせて笑い出した。ガーシもだ。
今度は何がおかしいの?? わたしが笑ったのがおかしいの?
すっごい嬉しそうに笑っている。
目の端に溜まった涙を拭って言った。
「やっと、笑ったね、トスカ」
フランツに言われる。
やっと?
「気づいてなかった? 他の子たちはわりとすぐに笑顔を見せてくれたけど、君は笑うことまで忘れてしまっていた」
アダムに言われる。
「君の笑い顔、可愛いからもっと笑って」
なっ。王子さまのような顔をして、ロサに微笑まれる。
顔がカーッと熱くなる。赤くなっている気がする。
「照れているのも、可愛いね」
今度はアダムだ。
フランツが口を開きかけたので、わたしは止めた。
「フランツは何も言わないで!」
「え、な、なんで?」
「今度はそうやって可愛いとか言って、からかうつもりでしょ。その手にはのらないんだから」
「……トスカ、誤解があると思う。私は本心しか言わない。それに可愛いと言うのは、からかっているんじゃなくて事実なだけだ」
なっ。
「トスカが可愛いのは事実だな!」
ガーシまで便乗してる。
わたしはその後、盛大に機嫌を損ねた。
みんなして、からかって!
それからわたしたちの間で〝可愛い〟は禁句となった。
ちなみに、もふもふは変わった犬みたいで、そのことは人には言わない方がいいとアドバイスをもらった。
え? 驚いてない?
なんで驚かないの?
「狐、知り合い?」
わたしが3人に尋ねると、彼らは景気良く笑った。
わたしがむくれていることに気づいたロサが、謝ってきた。
「ごめんごめん。狐の知り合いはいないよ」
「じゃあ、動物が贈り物をくれるのは、普通のことなの? だから誰も驚かないの??」
「動物が贈り物をするのは一般的ではないと思うけど、君は動物に好かれるから、そういうことがあっても不自然ではないと思ったんだ」
アダムが柔らかく笑う。
「わたしが動物に好かれる?」
ガーシもそう言ってた。
「君のもふもふも、いつも君に贈り物をしているだろ?」
アダムに言われる。
そういえば、もふもふにはいつもいっぱいもらってるな。
わたしはもふもふを見た。
「いつもありがとね」
と言えば、こちらをチラッと見たけど、あくびをして顎までペタッと地面につけた。
「わたしよく思いだせないんだけど、犬ってこんなに凄いっけ?」
ジンたちも〝犬ってすげー〟って言ってたから、そういうもんだったっけ?って思っていたけど、やっぱり何かが違う気がする。
「……凄いって?」
「犬って大きくなれたり、小さくなれたりする動物だっけ?」
3人が固まって、一瞬静けさが降り立った。
「……それは」
アダムが口を開いたかと思ったら吹いた。
速攻でロサとフランツがアダムを軽く叩く。
「ご、ごめん」
と謝りながら、アダムは笑い出した。それを見て、ロサもフランツも笑うのを堪えている顔だ。
アダムが笑いながら、わたしを見る。
「だって、他でもない君が、真面目な顔でそんなこというから……、ダメだ、おかしすぎる」
どこがツボに入ったのかわからないけど、アダムは笑いがとまらないようだ。
「アダムのことは気にしないで、トスカ。その、犬っていうのは……」
説明しようとしてくれたロサが、今度は吹き出す。
「ごめん。君が至極真面目に言ってるのはわかっているのだけど、真面目にすっとぼけているように見えて……」
なによ。おかしい、とか。すっとぼけている、とか。
記憶があやふやなんだもの、仕方ないじゃない。
「ガーシ!」
わたしは焚き火のところにいるガーシを呼んだ。
「どした、トスカ?」
「みんなが真面目な顔がおかしいとか、すっとぼけてとか言う。この中でガーシが一番大人でしょ? みんなを叱って」
「俺がですかっ?」
自分を指さし、驚いた声をあげるガーシ。
「待って。私は何も言ってないよ」
無罪を主張するフランツ。
「止めなかったから同罪」
わたしは冷たく言い放った。
「ガーシはわたしの護衛、味方でしょ?」
「……だそうですので、制裁をくだしますね」
ガーシは礼儀正しく頭を下げる。
「ちょ、ちょっと待て。制裁っていって、そのあげた手、何? もしかして叩くつもり?」
「トスカの願いなので」
ガーシは胸の前で両手を合わせ、拝むようなポーズをした。
「フォンタナ家は戦士の一族だ。支えるのは主君のみ。権力は関係ないから」
フランツがロサたちに説明している。
ガーシは、「では」と手を振り上げた。
「待て、お前本気だろう?」
ロサが止めながら言って、アダムもガーシから逃げ出す。
「トスカ、今ガーシは君の言うことを最優先にしているから。ほら、やめさせて……」
「うるさい!」
「うるさい?」
わたしがフランツに声を荒げると、彼はダメージを受けたように3歩よろよろと後ろに下がって、顔を青ざめさせている。
「リ、リディーが私に向かってうるさいなんて……嘘だ、幻聴だ……」
耳を塞ぐようにして、なんかわけのわからないことを、もそもそ言っている。
そんなフランツの肩に腕を回すロサ。
「フランツは小煩いからな。今までは立場上、言えなかっただけで、ずっとそう思ってたんじゃないか?」
反対側からアダムも肩を組み、フランツに耳打ちする。
「初対面の現在の君をどう思うか、よくわかることになりそうだねぇー」
ロサとアダムはいたずらっ子みたいな顔で、楽しそうにフランツに絡んでいっている。
その3人の頭を、ガーシがリズムカルにゴン、ゴン、ゴンと叩いていった。
3人は頭を押さえている。いい音がしたし、けっこう痛かったようだ。
「トスカ、これでいいか?」
「うん、ありがとう!」
3人は思い切りため息をついた。その様子が一連のコントみたいだったので、わたしはなんだかおかしくなって笑ってしまった。視線を感じて顔を上げると、今度は揃って口を開けていた。
「笑った」
え?
ええ?
3人は顔を見合わせて笑い出した。ガーシもだ。
今度は何がおかしいの?? わたしが笑ったのがおかしいの?
すっごい嬉しそうに笑っている。
目の端に溜まった涙を拭って言った。
「やっと、笑ったね、トスカ」
フランツに言われる。
やっと?
「気づいてなかった? 他の子たちはわりとすぐに笑顔を見せてくれたけど、君は笑うことまで忘れてしまっていた」
アダムに言われる。
「君の笑い顔、可愛いからもっと笑って」
なっ。王子さまのような顔をして、ロサに微笑まれる。
顔がカーッと熱くなる。赤くなっている気がする。
「照れているのも、可愛いね」
今度はアダムだ。
フランツが口を開きかけたので、わたしは止めた。
「フランツは何も言わないで!」
「え、な、なんで?」
「今度はそうやって可愛いとか言って、からかうつもりでしょ。その手にはのらないんだから」
「……トスカ、誤解があると思う。私は本心しか言わない。それに可愛いと言うのは、からかっているんじゃなくて事実なだけだ」
なっ。
「トスカが可愛いのは事実だな!」
ガーシまで便乗してる。
わたしはその後、盛大に機嫌を損ねた。
みんなして、からかって!
それからわたしたちの間で〝可愛い〟は禁句となった。
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