プラス的 異世界の過ごし方

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17章 わたしに何ができたかな?

第808話 笑うことを忘れた少女⑦頬擦り

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「お前ら、待ちやがれ!」

 わたしは振り返って水玉をお見舞いした。
 壁に当たり、割れた水玉は、ピンポン球からとは思えない量の水を流した。
 え、こんな蓄えられるの? 玉は普通、魔力を使って操作されるので、わたしは現物の玉を見たことしかなく、どんなものなのかよくわかってなかった。だから壁に投げたんだけど。
 でも、これ、すっごい量。
 ドバーっと音をたて、水が吹き出している。そして水は下に流れていく。

「お、お前、これ最大の……」

 看守が呟く。

「おい、逃げるぞ」

 え?

「崩壊する」

 看守たちが言い合い、マジ勢いでわたしたちを追い越し、上へと走っていった。わたしたちが追いつけない速さだ。

「ど、どういうこと?」

「本当にまずい展開ってことじゃないかな?」

 エダが控えめに言った。

「とにかく外に!」

 ジンがまとめてわたしたちは走り出した。
 マトンが景気良く転ぶ。
 え? み、水がこんなところまで。嘘、下を埋め尽くしたってこと?

『乗れ!』

 え?
 頭に声が響いた気がした。
 もふもふ?
 真っ白のもふもふが大きくなっていて、森の色の瞳で、わたしを見ていた。

「みんな、もふもふに乗って!」

 わたしが乗り込み、ミミも後ろに乗った。エダとジンがマトンをもふもふに乗っけ、自分たちも乗り込んだ。
 もふもふが駆け出す。狭い穴の通路を上へ上へと走っていく。
 明るい! 
 もふもふは外へと飛び出した。

 看守たちが勢揃いしていた。
 武器を持っている看守もいたけれど、もふもふはその人の壁を飛び越える。

「「「うわーーーーーー」」」

 と叫んだのは、もふもふに乗っていたわたしたちだ。
 もふもふはそのまますごい勢いで山に駆け込んだ。
 反対の森方向の道から幌馬車がやってくるのが見えた。奴隷商人か?
 もふもふが足を止めたと思ったら、そこは馬が休んでいる川のところだった。
 もふもふが足を折って低くなってくれたので、わたしたちはふらつきながら、地へと降りた。

「もふもふ、ありがとう!」

 わたしは近寄って、もふもふの首根っこにギュッとした。
 やっぱり日向の匂いがする。安心する匂い。
 もふもふはわたしの顔を舐めた。
 さっきはもふもふと通じ合えたのか、声が聞こえたような気がした。

「もっと遠くに行こう」

 ジンの提案にわたしたちは頷く。
 馬には乗るのは諦め、馬を引いて山道を歩いた。
 追ってくるかもしれないと思って何度も振り返ったけれど、山は静かだった。

 薄暗くなってきて、どうしようと思っていると、もふもふが山道をそれ、こっちにこいというように鳴いた。
 ついていくと、洞窟の入り口のように穴があいているところがあった。
 奥まで入る勇気はないけれど、入り口のところなら風も遮れるからありがたい。
 ここで休むことにしようとわたしたちは決める。
 追手がきたら消さないとだけど、焚き火をたいた。

 小さなお鍋で水を沸かす。
 お腹が鳴った。
 もふもふがわたしたちの前に何かを落とした。
 え? 葉っぱに包まれたもので、人の手で包まれたものっぽい。

「くれるの?」

 もふもふは頷く。
 包みを開いてみると。

「お肉だ」

 わたしが呟くと、みんな身を乗り出した。

「分厚い!」

「こんなのみたことない」

 最下層のわたしたちの食事はいつも固いパンのかけらだった。
 たまにチーズとか干し肉がつく。
 それとお湯に野菜の端が浮かんだスープだ。
 食事も階層によって違うから、それで上を目指させるために、そんなことをしているらしかった。魔力のないわたしたちは永遠に最下層だったろうけどね。

 お肉の真ん中に串を刺してそれを薪に掲げた。
 串は枝をナイフで削ったもの。マトンに作ってもらった。
 鍋が入ってたからと荷物の中を探すと、ちゃんと塩が入っていた。
 至れり尽せり。パンもちょっとだけとなったが分配する。肉汁が垂れてきたところで塩を振った。

 もふもふには塩を振ってないやつを葉っぱの上に置いたのだが、塩をかけていいと言うような素振りをしたので、ちょっとだけかけた。

 わたしたちも肉にかぶりついた。
 おおおおお、おいしい。
 肉って、おいしいな。なんか力が湧いてくる気がする。
 噛み締めながら、ちょっと炙ったパンを口の中に放り込む。
 一緒に食べるとさらにおいしい。

 夜はミミと一緒にもふもふに抱きついて眠った。
 追手は来なかった。
 追手ではなかったみたいだけど、人がきた時はもふもふが教えてくれたので、わたしたちは道をそれて草木の間にしゃがんだ。そこで息を潜めてじっとして、人が通り過ぎるのを待った。

 もふもふの持っているリュックが不思議だ。時々話し声が聞こえたり、動いたりするように見えた。
 じっともふもふをみると、もふもふは目を逸らす。

「中、見せてくれない?」

 ある夜、もふもふに言ってみると、もふもふは伏せをした。
 リュックに手を伸ばしても唸ったりしない。
 とば口を開けてみると、中には小さなぬいぐるみが5つも入っていた。

 か、可愛い! 可愛いすぎる!
 ツルツルの生地の真っ青な怪獣みたいなドラゴン。
 水色に近い青のペンギン。ざらっとした手触り。
 それからアリクイのぬいぐるみが3つも!
 ひとつだけ少し大きい。黒い部分が大きいのだけさらに濃い。
 短めの毛だけれど、これもまたこれで手触りがいい。

 わたしは全部一通り撫でてから、こっそりあたりを窺った。
 よし、誰もみてない。
 頬擦りしちゃう。
 可愛い、可愛い、可愛い、可愛い!
 なんて可愛いぬいぐるみたちなんだ。
 そしてこれをいつも持っているもふもふも、壮絶に可愛い!
 手触りも最高!
 グリグリとぬいぐるみのお腹に顔に顔を擦りつける。
 なんだろう、癒される……。

 あ、まただ。なんで涙が出るんだろう?
 わたしはその夜、もふもふから借りたぬいぐるみたちを抱き込んで眠ったようだ。もふもふとぬいぐるみにまみれて起きた、久しぶりにいい目覚めだった。というか久しぶりにちゃんと寝た感があった。
 もふもふにありがとうを言って、みんなをリュックの中に入れて返した。
 でも、なんで、もふもふはぬいぐるみを持っているんだろう?

 途中で見えた通り、山から降りて2時間ぐらいのところに街があった。子供5人が連れ立っては目立つかもしれない。もしアリの巣から連絡が入っていて捕らえられるのも困る。それで、わたしとエダが偵察に行くことにした。
 馬はジンたちに任せた。もふもふはわたしについてきた。
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