プラス的 異世界の過ごし方

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15章 あなたとわたし

第710話 役目を終えた君⑥見えてなかった思い

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 わたしの口数が減ったからか、兄さまが言った。

「……勘違いさせてしまったかな? 私はシュタイン家で過ごしてきて、とても幸せだったよ。今、バイエルン家の当主となり、……思いの外しっくりくる暮らしで、血筋ってあるんだなって、ある意味感動した、それだけのこと」

 そうは言ってくれるけど……。
 わたしは兄さまのことが好きなくせに、彼のことを全然知らないと思えた。……それって好きって言えるのかな?
 それからも馬車の中でずっと話していたと思うけど、記憶が曖昧だ。

 わたし、今回の件が落ち着いたら、兄さまにプロポーズするつもりだった。
 前々バイエルン侯の冤罪だったと認められ、兄さまが罰せられることが無くなったのはよかったけれど。兄さまはバイエルン当主となり、ウチから出ていって、会える機会もなくなってしまった。
 わたしは学生だし。兄さまは成人している。婚約者という接点が無くなったことで、会うのが難しい。

 せっかく今日こうして会えたのに。わたしの知ってる兄さまは、ウチに溶け込もうとしていた兄さまということを知り、愕然としている。
 そんなこともわかっていなかったわたしは、好きという資格がない気がした。

 馬車が止まり、ふたりで降りる。わたしのバックにはぬいぐるみの、もふさま&もふもふ軍団が入っているけどね。
 わたしはベールのついている帽子をかぶらされた。
 そっか、数奇な運命もだけど、それ以上にかっこいい若きバイエルン侯爵は今や時の人。わたしはもう婚約者じゃないし、ふたりでいたことが知られるとまた面倒だもんね。
 目の前にある幟には〝ジェインズ・ホーキンス劇団〟とある。

「ジェインズ・ホーキンス劇団?」

 芝居って、ホーキンスさんのところの劇なの?
 驚くと、兄さまが納得した声を出した。

「ああ、クラスの子がジェインズのファンなんだっけ?」

「……うん、そう」

 ホーキンスさんの演じるところをまた観られるんだ!
 兄さまのエスコートで会場内に入っていく。
 個室な上、舞台が正面から見られるいい席だった。
 帽子をとってもいいと言われて、わたしは帽子をとった。
 劇場は満員。ざわざわしていた会場も、幕があがれば静かになった。

 ホーキンスさんだ。舞台の中央には、若いひと組の男女が向かい合わせに立っていた。その男性がホーキンスさんだった。貴族のように高級感あふれる装い。仲睦まじさが伝わってくる。とても優しく女性を見つめ、エスコートして正面に向き直る。

「リディー、やっと僕だけの君とすることができた」

 ヒロインはリディーというようだ。とろけるような優しいいい声で、わたしが呼ばれたような気がして、ドキンとしてしまう。

「はい、フランさま。やっとあなたの元へ嫁ぐことができました」

 あまりにびっくりして、声をあげそうになった。
 隣の兄さまと顔を合わせる。
 ヒロインの名前がわたしと似ているだけではなく、主人公の名前も兄さまと似ている。

 それは紛れもないラブ・ストーリーだった。

 冤罪で家が取り潰しになってしまった主人公は、名前を変えて生きながらえた。ある屋敷で働いていたが、頭の良さを見込まれて養子となる。そしてある令嬢と恋に落ちた。

 大人のホーキンスさんが少年役って無理が……と最初は思ったけれど、仕草が、言い回しが、脇役の人たちの子供に対する接し方も完璧で、あそこにいるのは少年なんだと信じられた。演技がうまいと年齢を選ばないんだね。

 婚約までこぎつけた時、あいつは取り潰された家の息子じゃないかと話が持ち上がる。証拠はないと突っぱねるが、その攻撃はいつしか婚約者の令嬢に向かった。酷い誹謗中傷が続き、令嬢は寝込んでしまう。

 主人公は見舞いに行き、寝ている令嬢に懺悔する。僕のせいで君を苦しめた、と。相手が僕でなければ、僕の大好きな笑顔でいられたのに。傷つけてごめん。それでも一緒にいたくて、ここまで引っ張ってしまった。そして君をより傷つけた。だからここで君を解放する。君を好きになってごめん。そう手の甲に口づけして、彼は令嬢の元から去った。婚約を破棄して、そして養子縁組も解いた。

 1年後、令嬢の家は大変なことになっていた。婚約者のことで一躍有名になった彼女と彼女の家は狙われた。彼女の家の所有しているある商品の権利がお金を生み出すものだったので、彼女の家ごと陥れ、丸ごと自分のものにしてしまえというものが現れた。彼女は恋愛から距離を置こうとしていたので、男性には見向きもしない。そこで悪人は商人という触れ込みで、コニーという、令嬢の友達に近づいた。コニーに愛を囁き虜にした。そしてリディーの家のあの商品がなければ、自分は商人として認められ、そしてあなたにプロポーズできるのにと言い募る。言葉巧みに誘導され、コニーはリディーにより深く接近した。リディーを慰めるふりをし、優しい言葉をかけ、彼女の家の中のことを把握する。印鑑のある場所まで聞き出した。
 悪人がニンマリしたその時、リディーの家に盗賊が入り、印鑑や重要な手続きな時に必要なものが盗まれてしまう。
 それは近くで隠れながら見守っていた主人公が、彼女の家の危機に先手を打って、悪人にいいようにされないように隠したのだけど……。

 辛い過去を感じさせないコミカルなやり取りの少年時代。ふたりの絆と、また本当の笑顔を見れてほっこりし。恋に落ちていくさまは魅了された。
 そんなふたりに訪れる危機。館内はすすり泣く声が響いた。そして息をつく暇がないほどの怒涛の展開で、ヒロインを助けながら、自分の家の冤罪もはらす主人公。そうして数々の困難を乗り越えた2人は、オープニングへとリンクした。
 やっとふたりの愛が、ここに結ばれる。

 会場は大きな拍手が鳴り止まない。わたしも拍手し続けた。
 とっても魅力的な主人公たちに、引き込まれる観劇だった。
 カーテンコールも終わり、皆余韻に浸りながら、感想を一緒に見にきた誰かと囁き合う。
 素敵だった。ふたりが結ばれてよかった。コニーはもっと厳しく罰せられるべきだわ。
 ねぇ、この話って、前に広まったあの劇の、悪者にされていた彼女がヒロインみたいな話ね、と……。

 そうなのだ。名前が似たものを使われているところもだけど、所々、現実のわたしたちとリンクしている。
 わたしが悪女として登場した前の劇が、悪女と悪女の思い人からの視点で映せば、180度いいと悪いがひっくり返った。
 ホーキンスさんがわたしを信じているような劇を作ってくれたことが、わたしは嬉しかった。
 実際、ホーキンスさんはわたしがリディア・シュタインと知ってるわけじゃないから、偶然なんだろうけど。
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