プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
632 / 849
15章 あなたとわたし

第632話 王子殿下の婚約騒動②闖入者

しおりを挟む
「へ、陛下?」

 誰かの間が抜けた声がして。
 ひとりが跪くと、入ってきた全員が見えなくなったから、跪いたのではないかと思う。
 その後に負傷して肩を押さえた、恐らく扉を守っていた騎士が中へと入ってきて、陛下を守ろうとする。

「どういうことだ? 聖堂には誰も入れるなと言ったはずだが」

「申し訳ございません。陛下の命だとお伝えしたのですが、聞く耳を持たず……」

 騎士の報告に、また1度温度が下がった気がする。

「メネズ候、これは余に逆らう叛逆という認識でよいか?」

「め、滅相もございません。私どもは王子殿下の過ちを正しに来たのです!」

 陛下は一層声を低くした。

「余の息子の過ちとは何か、教えてくれるか、メネズ候。余には全くわからないのだが」

 これが魔力を込めた、威圧というやつか。
 体が勝手にブルブルと震える。
 アダムがソックスの背中を撫でながら、わたしの頭も大丈夫だというように撫でた。魔力を乗せたのか? 少しだけ、息がしやすくなる。

「陛下、お話を遮るようですみませんが、婚約者が陛下の、力あるお言葉の余波を受けているようです。彼女を寝所《しんじょ》に送り届けてきても良いでしょうか? お叱りや話はその後で聞きます」

 当初の予定では、今日は極秘の婚約式。発表し騒がれたら、実は婚約者が猫に変化しちゃったから公けにしにくくて、とするはずだった。
 ところが、陛下の規制を掻い潜り、神聖な儀式に殴り込みをかけてきたものたちがいた。アダムは計画を立て直したみたいだ。陛下もそれにすぐ気づいた。

 驚くぐらい優しい、初孫にメロメロになっているおじいちゃんのように、ソックスを覗きこむ。

「悪かった、リディア嬢。いや、余の娘となるリディアよ。大丈夫か?」

 そこからは、悪いけど、翻弄され続ける人たちが、めっちゃ面白かった。
 聞こえてくることから想像するに、どうやら駆けつけた人たちは、第1王子に慶事があるとだけの情報で、それを探り、そして潰すためにやってきたようなのよね。
 場所が聖堂ということから、婚約が考えられ、その相手は誰だ、絶対に潰してやると意気込んで入ってきた。けれど、中に陛下がいらして、動揺する。
 なんとか、苦言を言いにきたんだと繕ったが、殿下は婚約者が怯えていると言い、陛下が彼女を覗き込んだ。
 どう見ても殿下と陛下の指す、彼女=婚約者=娘は猫のようなものに見える。
 真っ白の毛並みの獣に、一国のふたりの王族が驚くほど優しい目を向けている。

 ざわざわしていた。けれど、発言を許されていないため質問はできない。
 何が起こっているんだという動揺が、ダイレクトに伝わってくる。

「もう、式は終わったのだ。寝所で休ませてやれ。お前はその後、しつに来い」

「ありがとうございます、陛下」

「なーご」

「おお、リディアよ、返事をしているのだな。やはり賢い。ゆっくり休むのだぞ」

 陛下がソックスの頭を撫で、わたしに向かってウィンクした。
 面白がってるね。

「へ、陛下」

 誰だか勇気を出して、陛下に呼びかける。
 陛下は振り返る。

「何だ? 発言を許した覚えはないが。娘が怯えるゆえ、お前の首はつながっているのだ。リディアに感謝するが良い」

 陛下、悪ノリしている。

「し、式が終わったとは?」

 ひとりが発言すると、勇気が出たらしい。どんどん声が上がる。

「だ、第1王子さまの婚約式が終わったということでしょうか?」
「議会に通すこともなく?」
「それに……〝リディア〟とは?」
「私には殿下が抱えているのは、猫に見えるのですが!」
「なぜここにシュタイン伯が?」
「なぜ白い獣を婚約者のように扱われて?」
「シュタイン伯、どういうことだ!」

 ひとりが父さまに突っかかる。

「(父さま!)きゅー」

 もふさまが父さまの前に出て、牙を見せると、詰め寄ろうとした人が驚いて尻餅をついた。

「(もふさま、ありがと)ぴっぴ、ぴー」

「なーご」

「後から知らせるつもりだったのに、せっかちだな」

 わたしに向けるのとは全く違う鋭い目で、ため息を落とす。
 ため息なのに、それが当たった人は怪我しそうな尖ったため息だよ。
 みんな固まっているし。

「シュタイン伯、どういうことだ。リディアとはご息女と同じ名。まさか!」

「いかにも。殿下に抱えていただいているのは、私の娘です」

 嘘は言ってないね。

「だ、誰か、鑑定ができるものは?」

 一瞬のうちに騒がしくなり、なんとその中に鑑定できる人がいた。

「シュタイン伯、嘘ではないか、確かめさせてもらうぞ?」

 父さまは陛下とアダムをチラッと見ながら焦っている。

「無粋な真似はおやめください、こんな聖なる場で!」

 あ、父さまに鑑定されても、多分大丈夫って伝えてないや。

「鑑定」

 父さまの止める声に被せるように、ひとりがソックスに向かって手を伸ばすパフォーマンスをし、目の前の何かを読むように視線が動き、驚愕した。

「ね、猫。リディア・シュタインの変化した姿、と出ます」

 ざわざわが強まり。
 父さまは複雑な表情をしている。

「獣憑きか……」

 おお、リアルに言われた。

「……ゴットよ、行きなさい」

 アダムは陛下と父さまに礼をして歩き出す。
 父さま、大丈夫かな? 陛下に強いこと言えないからって、そのしわ寄せが全部父さまにいくのでは?

『リディアよ、我は領主を守ろう。お前に害を成すものがいるなら知っておきたいしな。お前はあの結界から出るではないぞ』

 もふさまが小さい声で言った。

「なーご」

 それに返事をするかのようにソックスが鳴き声を上げる。
 もふさまはアダムを先導して道を開けさせた。
 そしてわたしたちを扉から出すと、自分は身を翻して戻って行った。
 もふさま、父さまをお願いします!
 心の中で祈った時、また光が乱舞した。

「な、何だ?」

「光が!」

「神の祝福だ!」

 誰かが心酔したような声を出す。
 この光はみんなに見えているようだ。
 アダムは光を一瞥したけれど、大して心を動かされなかったように歩き出した。
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

私はモブのはず

シュミー
恋愛
 私はよくある乙女ゲーのモブに転生をした。   けど  モブなのに公爵家。そしてチート。さらには家族は美丈夫で、自慢じゃないけど、私もその内に入る。  モブじゃなかったっけ?しかも私のいる公爵家はちょっと特殊ときている。もう一度言おう。  私はモブじゃなかったっけ?  R-15は保険です。  ちょっと逆ハー気味かもしれない?の、かな?見る人によっては変わると思う。 注意:作者も注意しておりますが、誤字脱字が限りなく多い作品となっております。

デッドエンド済み負け犬令嬢、隣国で冒険者にジョブチェンジします

古森真朝
ファンタジー
 乙女ゲームなのに、大河ドラマも真っ青の重厚シナリオが話題の『エトワール・クロニクル』(通称エトクロ)。友人から勧められてあっさりハマった『わたし』は、気の毒すぎるライバル令嬢が救われるエンディングを探して延々とやり込みを続けていた……が、なぜか気が付いたらキャラクター本人に憑依トリップしてしまう。  しかも時間軸は、ライバルが婚約破棄&追放&死亡というエンディングを迎えた後。馬車ごと崖から落ちたところを、たまたま通りがかった冒険者たちに助けられたらしい。家なし、資金なし、ついでに得意だったはずの魔法はほぼすべて使用不可能。そんな状況を見かねた若手冒険者チームのリーダー・ショウに勧められ、ひとまず名前をイブマリーと改めて近くの町まで行ってみることになる。  しかしそんな中、道すがらに出くわしたモンスターとの戦闘にて、唯一残っていた生得魔法【ギフト】が思いがけない万能っぷりを発揮。ついでに神話級のレア幻獣になつかれたり、解けないはずの呪いを解いてしまったりと珍道中を続ける中、追放されてきた実家の方から何やら陰謀の気配が漂ってきて――  「もうわたし、理不尽はコリゴリだから! 楽しい余生のジャマするんなら、覚悟してもらいましょうか!!」  長すぎる余生、というか異世界ライフを、自由に楽しく過ごせるか。元・負け犬令嬢第二の人生の幕が、いま切って落とされた! ※エブリスタ様、カクヨム様、小説になろう様で並行連載中です。皆様の応援のおかげで第一部を書き切り、第二部に突入いたしました!  引き続き楽しんでいただけるように努力してまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします!

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

処理中です...