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15章 あなたとわたし
第610話 秘密の謁見② ヘンテコスキル
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「病み上がりであるそうだが、まずはこうして、生きている令嬢と会うことができて嬉しいぞ。秘密裏に来てもらったのは他でもない。なにゆえかはわからないが、令嬢が亡くなったと頑なに信じている輩がおってな。外国にも噂は届き、主に令嬢を嫁に迎えたいと思っている貴族たちが国に訴え、多くの国から問い合わせが相次いでいる」
そう言って、小さく息を落とす。
言葉通り、嫁にしたいんだけど、療養中としか言わないんだよね、本当?って問い合わせだったら、国も陛下も取り次いだりしないだろう。でもそれは相手が犯罪者だったというと趣は変わってくる。
勝手に縁を結びたがってきて、こちらは断っているのに、しつこく求婚してきた。けれどその相手が罪を犯していた場合、何かしらの繋がりがあると、悪い噂が立ったりする。それを避けるためには、騙されていたとばかりに追求したり、攻撃するしか手立てはない。要するに保身だ。
わたしが死んだとされ、メロディー嬢追放の立役者だったという噂が蔓延している今、事実を詳かにと各国から問い合わせが殺到しているのだろう。
「現在、令嬢にまつわる噂が飛び交っておる。亡くなった以外に、令嬢が罪を侵したとするものだ。耳にしているか? 発言を許す」
「はい、存じております。第一王子殿下の元婚約者であったコーデリア・メロディー嬢の資金の着服、それが彼女を失錯させるために、わたしが仕向けたことだと」
「単刀直入に聞こう。其方は、そう仕向けたのか?」
「いいえ、わたしはそんなことをしておりません」
陛下は顎を触った。
「そなたが亡くなり、死人に口無しとばかりに、この噂が広がっている。療養中でそなたが亡くなっていると噂が出た時、どうして生きていると世間に公表しなかった?」
「それは、わたしが死んだと言い出した者たちを、炙り出すためでございます」
陛下はまたニヤリと笑った。
「炙り出せたのか?」
「……実態は掴めておりません」
「ほう、コーデリア嬢だとは思っていないのか?」
「その答えを本日聞けると思い、参上いたしました」
「それはがっかりさせることになるな。コーデリアの行方は掴めていない」
表に出てこないということは、やっぱりメロディー嬢ではないのかな?
「普通ならコーデリアだと思うところだろう。そう思わぬのはなぜだ?」
「メロディーさまかもしれません。首謀者は誰だかはわかりません。でも噂に紛れて名前が出され、その本人が黒幕と思うのは、早計だと思ったのです」
「黒幕だったら、自分の名前を使うわけがないと?」
「そうとは言い切れません……。ただ……メロディーさまをよく知っているわけではありませんが……メロディーさまが考える計画とは趣が違う気がしたのです」
そうなんだよね。彼女は今まで、いろいろ計略を巡らしてきた。
それはねちっこくまとわりつく感じで、執拗な嫌がらせだと感じた。今回みたいにスパーンと呪って殺しちゃって、全部罪被せちゃって、ほらまあるく収まった!とはストレートすぎて、彼女らしくないと思った。
「それにしても不思議だな。あちらは、どうしてシュタイン嬢が亡くなったと頑なに信じているのか、その心当たりはあるか?」
まあ、そこだよね。
わたしは父さまと顔を見合わせる。
「わたしは少し前まで、本当に伏せっておりました。起き上がることもままならない日もあったのです」
「そうであったか……。では奴らは、それを知っていたということか? どこからか、漏れたと?」
「いいえ。わたしは呪術で呪われました。それゆえに、あちらはわたしが死んだと確信しているのです」
皆さまの目が開かれる。
「呪い?」
ロサが声を上げる。
「母君が光魔法で呪術を浄化したのか?」
「いいえ」
わたしは呪術の浄化に対しての誤解を解こうと思った。光の使い手に、呪いの欠片を残してほしくないから。
「シュタイン領の町外れの家は、魔使いの家でした。家族しか入れない部屋があり、そこには書籍が数多くあります。魔力本なども存在します」
魔法士長さまたちが、身を乗り出した。
「それにより知ったことですが、呪術は呪術でしか浄化はできないそうです」
「なんだと?」
「光魔法で呪術を浄化すると、光の使い手に呪術の残滓が残るそうです。だから魔の規制される300年より前は、光の使い手は呪術も習ったそうです。呪術の解呪を学んでないと命をすり減らすだけだから」
みんなうっすらと口を開けている。
「わたしは幼い頃、隷属の呪符を使われました。身体の中に元々瘴気が少なかったからでしょうか、わたしの中に未だその呪符の残滓が小さくあるそうです」
みんな息を飲む。
「それによって、よくないものを引き寄せることがあると、教えてもらいました。わたしはその残滓をどうにかできないかと、家の書物を読み漁りました。そして、呪術は呪術師によってしか浄化できないことを知りました。知ってから、わたしは違法なことを知っておりますが、呪術師を探しています」
陛下を見上げれば、苦いものを噛んだような顔をしている。
「そんな最中に、今回のことは突然起こりました。わたしは呪術をかけられました。……わたしのスキルが発動し、わたしは死を免れました」
「スキルで呪術を回避!」
神官長さまは驚きながらも、称えるような声音だった。
「呪術師は媒体となるものを介して、呪術を施します。呪術が成功したかどうか、その媒体の状態で見極めるようです。成就すれば媒体が壊れます。媒体を壊したか壊されたかで、呪った人か、呪われた人か、どちらかの命が消えます。わたしは呪術を回避しましたが、恐らくその媒体は壊れ、呪った人も死んでいない、だから成功したと思える状態なのだと思います」
皆さま、重たく頷いた。
「わたしのスキルはヘンテコ……少し特殊なようでして。呪詛回避が発動し、変化《へんげ》の尻尾切りが施行されたのです」
「……そんなスキルは聞いたことがないな。特殊だから令嬢が名付けたのか?」
少し話疲れたのを感じていると、父さまが変わりに説明してくれた。
そう言って、小さく息を落とす。
言葉通り、嫁にしたいんだけど、療養中としか言わないんだよね、本当?って問い合わせだったら、国も陛下も取り次いだりしないだろう。でもそれは相手が犯罪者だったというと趣は変わってくる。
勝手に縁を結びたがってきて、こちらは断っているのに、しつこく求婚してきた。けれどその相手が罪を犯していた場合、何かしらの繋がりがあると、悪い噂が立ったりする。それを避けるためには、騙されていたとばかりに追求したり、攻撃するしか手立てはない。要するに保身だ。
わたしが死んだとされ、メロディー嬢追放の立役者だったという噂が蔓延している今、事実を詳かにと各国から問い合わせが殺到しているのだろう。
「現在、令嬢にまつわる噂が飛び交っておる。亡くなった以外に、令嬢が罪を侵したとするものだ。耳にしているか? 発言を許す」
「はい、存じております。第一王子殿下の元婚約者であったコーデリア・メロディー嬢の資金の着服、それが彼女を失錯させるために、わたしが仕向けたことだと」
「単刀直入に聞こう。其方は、そう仕向けたのか?」
「いいえ、わたしはそんなことをしておりません」
陛下は顎を触った。
「そなたが亡くなり、死人に口無しとばかりに、この噂が広がっている。療養中でそなたが亡くなっていると噂が出た時、どうして生きていると世間に公表しなかった?」
「それは、わたしが死んだと言い出した者たちを、炙り出すためでございます」
陛下はまたニヤリと笑った。
「炙り出せたのか?」
「……実態は掴めておりません」
「ほう、コーデリア嬢だとは思っていないのか?」
「その答えを本日聞けると思い、参上いたしました」
「それはがっかりさせることになるな。コーデリアの行方は掴めていない」
表に出てこないということは、やっぱりメロディー嬢ではないのかな?
「普通ならコーデリアだと思うところだろう。そう思わぬのはなぜだ?」
「メロディーさまかもしれません。首謀者は誰だかはわかりません。でも噂に紛れて名前が出され、その本人が黒幕と思うのは、早計だと思ったのです」
「黒幕だったら、自分の名前を使うわけがないと?」
「そうとは言い切れません……。ただ……メロディーさまをよく知っているわけではありませんが……メロディーさまが考える計画とは趣が違う気がしたのです」
そうなんだよね。彼女は今まで、いろいろ計略を巡らしてきた。
それはねちっこくまとわりつく感じで、執拗な嫌がらせだと感じた。今回みたいにスパーンと呪って殺しちゃって、全部罪被せちゃって、ほらまあるく収まった!とはストレートすぎて、彼女らしくないと思った。
「それにしても不思議だな。あちらは、どうしてシュタイン嬢が亡くなったと頑なに信じているのか、その心当たりはあるか?」
まあ、そこだよね。
わたしは父さまと顔を見合わせる。
「わたしは少し前まで、本当に伏せっておりました。起き上がることもままならない日もあったのです」
「そうであったか……。では奴らは、それを知っていたということか? どこからか、漏れたと?」
「いいえ。わたしは呪術で呪われました。それゆえに、あちらはわたしが死んだと確信しているのです」
皆さまの目が開かれる。
「呪い?」
ロサが声を上げる。
「母君が光魔法で呪術を浄化したのか?」
「いいえ」
わたしは呪術の浄化に対しての誤解を解こうと思った。光の使い手に、呪いの欠片を残してほしくないから。
「シュタイン領の町外れの家は、魔使いの家でした。家族しか入れない部屋があり、そこには書籍が数多くあります。魔力本なども存在します」
魔法士長さまたちが、身を乗り出した。
「それにより知ったことですが、呪術は呪術でしか浄化はできないそうです」
「なんだと?」
「光魔法で呪術を浄化すると、光の使い手に呪術の残滓が残るそうです。だから魔の規制される300年より前は、光の使い手は呪術も習ったそうです。呪術の解呪を学んでないと命をすり減らすだけだから」
みんなうっすらと口を開けている。
「わたしは幼い頃、隷属の呪符を使われました。身体の中に元々瘴気が少なかったからでしょうか、わたしの中に未だその呪符の残滓が小さくあるそうです」
みんな息を飲む。
「それによって、よくないものを引き寄せることがあると、教えてもらいました。わたしはその残滓をどうにかできないかと、家の書物を読み漁りました。そして、呪術は呪術師によってしか浄化できないことを知りました。知ってから、わたしは違法なことを知っておりますが、呪術師を探しています」
陛下を見上げれば、苦いものを噛んだような顔をしている。
「そんな最中に、今回のことは突然起こりました。わたしは呪術をかけられました。……わたしのスキルが発動し、わたしは死を免れました」
「スキルで呪術を回避!」
神官長さまは驚きながらも、称えるような声音だった。
「呪術師は媒体となるものを介して、呪術を施します。呪術が成功したかどうか、その媒体の状態で見極めるようです。成就すれば媒体が壊れます。媒体を壊したか壊されたかで、呪った人か、呪われた人か、どちらかの命が消えます。わたしは呪術を回避しましたが、恐らくその媒体は壊れ、呪った人も死んでいない、だから成功したと思える状態なのだと思います」
皆さま、重たく頷いた。
「わたしのスキルはヘンテコ……少し特殊なようでして。呪詛回避が発動し、変化《へんげ》の尻尾切りが施行されたのです」
「……そんなスキルは聞いたことがないな。特殊だから令嬢が名付けたのか?」
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