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14章 君の味方
第580話 ある意味モテ期②標的
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「婚約者のいなくなったリディア嬢は、今や世界中から嫁にと望まれている。それだけならともかく、手に入らないなら、……いなくなることを望む声も大きい」
テーブルの上の父さまの拳が、ワナワナ震え出す。
「シュタイン伯、勘違いしないでくれ。ガゴチが排除したいと思っているわけではない。ウチの諜報部隊は優秀でね、情報量と正確さで国を守っている。
そこで、きな臭い話を聞いたんだ。
学園祭で噂の君と話して、俺は君を好ましく思った。だから君が狙われている話を聞いて、残念に思ってね」
「狙われている?」
父さまが眉を寄せると、ガインは鷹揚に頷いた。
「シュタインは強いものが多いからそこは心配していないけれど、その集団は呪術師を中心としているらしいよ」
呪術師?
一瞬で目の前が真っ暗になる。
「リディー」
『リディア!』
父さまともふさまの焦ったような声が聞こえたけれど、あとはわからなくなった。
「もふさま?」
領地の町の家の、わたしの部屋だ。
体を起こしながら、もふさまを呼ぶ。
『リディア、大丈夫か?』
「わたし、また意識を飛ばしたのね?」
もふさまが頷いた。
呪術師を中心とした集団に狙われてるですって?
はぁー。全くいろいろやってくれるわね。
ちょっとわたしの人生ハードすぎない?
小さなノックが2回、寝ていたらと思ったんだろう。入ってきたのは父さまだった。
「リディー、大丈夫か?」
「うん、ごめんなさい、心配をかけて」
「いいや」
「ガインさまたちは?」
「客間で休んでいただいているよ」
「どんな条件だった?」
父さまは目を伏せる。
伝えるか迷っていたんだろう。
けれどエリンの未来視で、わたしがガゴチに嫁いでいた説を聞いていた。好きで嫁ぐはずはないから、何かどうしてもそうせざるを得ない何かがあったのではと予想していた。
わたしは意識を飛ばしたけど、ガインは今日きた意味を父さまに伝えたと思った。
「言ってくれた方が、負担にならないわ」
父さまは軽くため息をつく。
「婚約をすれば情報は流すし、守ってくれるそうだよ。居場所も知っていそうだな。そこを武力で叩く気だろう。〝守る〟と断言した」
「父さまはなんて答えたの?」
「……時間をもらった」
「断ってくれてよかったのに」
「……でも、リディー」
父さまの表情に余裕がない。
「とにかく、わたしを潰したい人が外国にもいるってことね」
「ひとまず、そのことは置いておこう。リディー、さっき気を失ったのは〝呪術師〟が衝撃的だったからだろう。でもそれだけとは思えない。近頃眠れてなかったのかい?」
「……眠ってはいるけれど、浅い眠りだったからかな。眠ろうとしても、あまり眠れないの」
「なんで、それを言わなかった?」
みんなから体調についてはちょこちょこと確かめられていた。特にハンナは目を光らせていて、だからご飯は殊更食べたよ。なんでもないという証明するために。
「かっこ悪いでしょ? すぐに精神的に追い込まれてばかりで」
下ろした足をぶらっとさせる。
「リディー、かっこ悪くなんかない。もっと頼ってくれ。辛い時は無理して笑うこともないし、泣いていいんだ」
涙はきっともう出ない。きっと兄さまと一緒にいられないこと以上に、哀しいことなんかないだろうから。
でもそう言っても心配をかけるだけだから、わたしは「そうする」と嘯く。
父さまが出て行った。ここ数日で父さまが老けた気がする。
ただこうなってくると、ガゴチが兄さま排除の一件に関わっていないか、一応確認しておいた方がいいかもしれない。
まさかそこまでして、わたしを嫁にと欲っしているとは思わないけど。
ペネロペを唆したのはメロディー嬢ではないかと思っている。
兄さまと前バイエルン侯が似ていると思った人はいるかもしれないが、まだ学生の兄さまだ。確かでもないのに、陥れたりしても利点はない。
現にキリアン伯とバイエルン侯は痛い目をみただけだ。よほど確信していないと、リスクの高いことだ。
言い出しっぺはそれなりに兄さまが、クラウスさまだと確信したメロディー嬢だと思える。
ペネロペとメロディー嬢は繋がっていたけれど、メロディー嬢とバイエルン侯が繋がっていたってことはあるだろうか?
最初はキリアン伯に従っているのかと思ったけど、あれはバイエルン候の方が役者が上だ。そういう体裁をとっていただけで、バイエルン侯が主体だ。
でも、キリアンでもバイエルンでも、そことメロディー嬢が繋がっていたとは思えないんだよなー。
だけど、パーティーに乗り込んできたふたり。その後に馬車襲撃や、嫌がらせをしてきた人や噂など、時期は合っている。ってことはそれを仕込んだ人がいる? それがペネロペやメロディー嬢かもしれないけど。15歳の女の子に従う? キリアン伯もバイエルン侯もよく知らないけど、15歳の女の子がやってきて、会う? 話を聞く? 信じる? 確たる証拠はないのに。
そう思うと、……彼らを駒のように扱った人だかなんだかがいるような気がしてくる。示唆した人が。
そしてそれがもしガゴチだとしたら、かなり手強そうだ。
どうしたら、ガゴチが真の敵かどうかわかるだろう?
『どうするつもりだ?』
「どうしようかね?」
わたしはもう一度、ベッドにゴロンと寝転がった。
「結婚も婚約もする気はないけど、ガゴチがどれくらいの敵なのか見定めておきたいのはあるなー」
たとえ今、友好的であっても、国が違うのだから敵対することはあるだろう。
でもその〝敵対〟度はユオブリアを潰したいぐらいなのか。
エレイブ大陸でなんやかんやとありはするけど、今は国の拡張も考えてなくて、本当にわたしの情報が聞こえてきて関わってきただけなのか。
どういうつもりであったとしても、ガゴチと関わりたいと思わない。ガインがやったことではないけど、聖女候補を誘拐した件に、エレイブ大陸で聖域を作ろうとしたことに加担したとは思っているから。
聖女が選べる地を作ろうとすることは悪くないと思うけど、それを誘拐して、実行犯に全てを教えずってところが、底が見えて嫌だ。
かの国は根っこにそういう心がある。根っこっていうのはそうそう変わるものではない。だから、根っこの部分でダメだと思うものには、その上の木の部分や咲かす花がどんなに美しかろうが、いつかまた根っこに驚かされて嫌だなと思うことがある、絶対に。だからわたしは関わりたくない。
ただ、せっかく出向いてくれているチャンスでもある。
情報を集めておくか。
わたしはガインをお茶に誘ってみることにした。
テーブルの上の父さまの拳が、ワナワナ震え出す。
「シュタイン伯、勘違いしないでくれ。ガゴチが排除したいと思っているわけではない。ウチの諜報部隊は優秀でね、情報量と正確さで国を守っている。
そこで、きな臭い話を聞いたんだ。
学園祭で噂の君と話して、俺は君を好ましく思った。だから君が狙われている話を聞いて、残念に思ってね」
「狙われている?」
父さまが眉を寄せると、ガインは鷹揚に頷いた。
「シュタインは強いものが多いからそこは心配していないけれど、その集団は呪術師を中心としているらしいよ」
呪術師?
一瞬で目の前が真っ暗になる。
「リディー」
『リディア!』
父さまともふさまの焦ったような声が聞こえたけれど、あとはわからなくなった。
「もふさま?」
領地の町の家の、わたしの部屋だ。
体を起こしながら、もふさまを呼ぶ。
『リディア、大丈夫か?』
「わたし、また意識を飛ばしたのね?」
もふさまが頷いた。
呪術師を中心とした集団に狙われてるですって?
はぁー。全くいろいろやってくれるわね。
ちょっとわたしの人生ハードすぎない?
小さなノックが2回、寝ていたらと思ったんだろう。入ってきたのは父さまだった。
「リディー、大丈夫か?」
「うん、ごめんなさい、心配をかけて」
「いいや」
「ガインさまたちは?」
「客間で休んでいただいているよ」
「どんな条件だった?」
父さまは目を伏せる。
伝えるか迷っていたんだろう。
けれどエリンの未来視で、わたしがガゴチに嫁いでいた説を聞いていた。好きで嫁ぐはずはないから、何かどうしてもそうせざるを得ない何かがあったのではと予想していた。
わたしは意識を飛ばしたけど、ガインは今日きた意味を父さまに伝えたと思った。
「言ってくれた方が、負担にならないわ」
父さまは軽くため息をつく。
「婚約をすれば情報は流すし、守ってくれるそうだよ。居場所も知っていそうだな。そこを武力で叩く気だろう。〝守る〟と断言した」
「父さまはなんて答えたの?」
「……時間をもらった」
「断ってくれてよかったのに」
「……でも、リディー」
父さまの表情に余裕がない。
「とにかく、わたしを潰したい人が外国にもいるってことね」
「ひとまず、そのことは置いておこう。リディー、さっき気を失ったのは〝呪術師〟が衝撃的だったからだろう。でもそれだけとは思えない。近頃眠れてなかったのかい?」
「……眠ってはいるけれど、浅い眠りだったからかな。眠ろうとしても、あまり眠れないの」
「なんで、それを言わなかった?」
みんなから体調についてはちょこちょこと確かめられていた。特にハンナは目を光らせていて、だからご飯は殊更食べたよ。なんでもないという証明するために。
「かっこ悪いでしょ? すぐに精神的に追い込まれてばかりで」
下ろした足をぶらっとさせる。
「リディー、かっこ悪くなんかない。もっと頼ってくれ。辛い時は無理して笑うこともないし、泣いていいんだ」
涙はきっともう出ない。きっと兄さまと一緒にいられないこと以上に、哀しいことなんかないだろうから。
でもそう言っても心配をかけるだけだから、わたしは「そうする」と嘯く。
父さまが出て行った。ここ数日で父さまが老けた気がする。
ただこうなってくると、ガゴチが兄さま排除の一件に関わっていないか、一応確認しておいた方がいいかもしれない。
まさかそこまでして、わたしを嫁にと欲っしているとは思わないけど。
ペネロペを唆したのはメロディー嬢ではないかと思っている。
兄さまと前バイエルン侯が似ていると思った人はいるかもしれないが、まだ学生の兄さまだ。確かでもないのに、陥れたりしても利点はない。
現にキリアン伯とバイエルン侯は痛い目をみただけだ。よほど確信していないと、リスクの高いことだ。
言い出しっぺはそれなりに兄さまが、クラウスさまだと確信したメロディー嬢だと思える。
ペネロペとメロディー嬢は繋がっていたけれど、メロディー嬢とバイエルン侯が繋がっていたってことはあるだろうか?
最初はキリアン伯に従っているのかと思ったけど、あれはバイエルン候の方が役者が上だ。そういう体裁をとっていただけで、バイエルン侯が主体だ。
でも、キリアンでもバイエルンでも、そことメロディー嬢が繋がっていたとは思えないんだよなー。
だけど、パーティーに乗り込んできたふたり。その後に馬車襲撃や、嫌がらせをしてきた人や噂など、時期は合っている。ってことはそれを仕込んだ人がいる? それがペネロペやメロディー嬢かもしれないけど。15歳の女の子に従う? キリアン伯もバイエルン侯もよく知らないけど、15歳の女の子がやってきて、会う? 話を聞く? 信じる? 確たる証拠はないのに。
そう思うと、……彼らを駒のように扱った人だかなんだかがいるような気がしてくる。示唆した人が。
そしてそれがもしガゴチだとしたら、かなり手強そうだ。
どうしたら、ガゴチが真の敵かどうかわかるだろう?
『どうするつもりだ?』
「どうしようかね?」
わたしはもう一度、ベッドにゴロンと寝転がった。
「結婚も婚約もする気はないけど、ガゴチがどれくらいの敵なのか見定めておきたいのはあるなー」
たとえ今、友好的であっても、国が違うのだから敵対することはあるだろう。
でもその〝敵対〟度はユオブリアを潰したいぐらいなのか。
エレイブ大陸でなんやかんやとありはするけど、今は国の拡張も考えてなくて、本当にわたしの情報が聞こえてきて関わってきただけなのか。
どういうつもりであったとしても、ガゴチと関わりたいと思わない。ガインがやったことではないけど、聖女候補を誘拐した件に、エレイブ大陸で聖域を作ろうとしたことに加担したとは思っているから。
聖女が選べる地を作ろうとすることは悪くないと思うけど、それを誘拐して、実行犯に全てを教えずってところが、底が見えて嫌だ。
かの国は根っこにそういう心がある。根っこっていうのはそうそう変わるものではない。だから、根っこの部分でダメだと思うものには、その上の木の部分や咲かす花がどんなに美しかろうが、いつかまた根っこに驚かされて嫌だなと思うことがある、絶対に。だからわたしは関わりたくない。
ただ、せっかく出向いてくれているチャンスでもある。
情報を集めておくか。
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