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13章 いざ尋常に勝負
第527話 狐福⑥メロドラマ中
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「メロディーさまはご存知でしたか?」
「何をでしょう?」
メロディー嬢が警戒したようにジュエル王子に尋ねた。
「そこの婚約者は形だけのもので、ブレド殿下とリディア嬢が恋仲だということを」
「ジュエル殿下、何をおっしゃいますの? ロサさまに失礼でしてよ?」
あ、メロディー嬢には伝えられていないのか。
本当にレアチーズケーキを取りにきただけなんだ。
「メロディーさまはご存知ない。やっぱり〝秘密〟の関係じゃありませんか」
「秘密の関係というのは知られた時に困るもの。私は知られて困ることは何もない」
「ろ、ロサさま、何をおっしゃいますの? それじゃあまるで、ロサさまとリディアさまが恋仲のように聞こえてしまいますわ」
「私が愛する人を見つけていたことを、喜んではくれまいか?」
顔を青くしたメロディー嬢に、ロサは微笑む。
「まぁ、知っていて妹との縁談を勧めたのなら、何をお考えなのか気になりますがね」
ジュエル殿下がトーンを落として言った。
メロディー嬢がミーア王女に縁談を勧めたってこと?
ロサの目が一瞬だけ微かに細くなる。
「そんな! 嘘ですわ! リディアさまはランディラカさまの婚約者です」
クスッと兄さまが笑う。メロディー嬢がムッとしたように兄さまを窺う。
「何がおかしいのです?」
「公爵令嬢が、何を戸惑っているのです? 貴族の婚姻がどんなものか、ご存知でしょうに……」
「リ、リディアさま、嘘ですわよね? リディアさまはランディラカさまと婚約されているんですものね」
髪を乱して、みんなの顔を次々と見ている。少し気の毒だ。
「……メロディーさま、お菓子をお渡ししますわ。第1王子殿下の名代でいらしたのですよね?」
わたしは立ち上がる。
「……第1王子殿下?……」
ジュエル殿下が呟いた。
彼の中では今、いろんな思いが渦巻いていることだろう。
わたしをワーウィッツ王国に招くのが目的だったみたいだ。その先に何かありそうだね。
でも、今日ここで、わたしと第2王子が恋仲だと誤解した。そして第2王子殿下の弱みを手にしたと思い、ロサに何か持ちかけようとした。ところがそれは弱みにはならないとロサに一蹴される。そこにメロディー嬢が登場。メロディー嬢の驚愕により、やはり知られてないことじゃないかと思ったはずだ。
そしてさらに、わたしと第1王子に繋がりがあると思ったことだろう。
「リディアさま、本当のことをおっしゃって! ロサさまとはなんでもないですわよね? ランディラカさまを愛していらっしゃるのでしょう?」
必死の形相なので、居心地が悪い。けれど、冷たくつっぱねる。
「メロディーさまに話す必要がありまして? それはわたしとわたしが愛する方だけが知っていればいいことですわ」
メロディー嬢は放心状態だ。
わたしはベルを手に取って鳴らした。ご用聞きに来たアルノルトにお菓子を持ってこさせ、それをメロディー嬢に渡す。王子殿下によろしくお伝えくださいと追い出した。
「リディア嬢はいくつもの伝手をお持ちなのですね」
ジュエル殿下にすかさず言われた。
どういう振る舞いをするのがベストなのか、なんと言うのがいいのかわからないので、ただ微笑む。
「ブレドさまには、なんともないかもしれませんが、リディア嬢は所詮、伯爵家、令嬢。知られたら多くの婚約者候補から非難されるんじゃありませんか?」
「何が言いたい?」
ロサが鋭く怖い声を出した。
「彼女を婚約者にすればいいのにそうしないというのは、なんらかの理由があるんですね。もともと王妃は別に立てるつもりということ。でしたらそれを我が妹、ミーアにしていただけませんか? 王妃として敬ってくれるのなら、殿下の愛がどこに向かおうと、ミーアは許すでしょう」
な、何言ってんの。お互いまだ子供なのに、なんつー夢のない取り引きを持ちかけてんのよ。
ロサは軽やかに笑った。
「私はリディア以外に意味を見いだせないので、それこそ相手が誰でも構わないが。ご存知でしょう? 決められるのは陛下です。一応、進言はしてみますがね」
「そうですか、陛下が。陛下が王妃にリディア嬢を認めないということなんですね?」
ロサがピクッと反応する。
わたしを引き寄せ、肩を抱く。
な、何?
「リディアは身体が弱いし、絶対に聖女になれないと神殿からのお墨付きだ。聖女が現れ、王族との婚姻を望んだら王族はそれに応える習わし。リディアを巻き込みたいくないんだ」
ロサは結婚してもいずれ聖女が現れ結婚することになり、だからそんな騒動に、本命は巻き込みたくないと言ってるの?
ロサはわたしを熱く見て、おでこに口を寄せる。
思わず避けようとして出した手は、ロサに絡めとられる。
ろ、ろ、ろ、ロサ。な、何してんのよー。
王族客人&婚約者の前でイチャイチャしている図なんですけど。
っていうか、いる? このイチャイチャ、いる?
「リディア嬢には、高貴な方たちを惹きつける、何かがあるのでしょうね」
少しイライラを含んだ声音。ロサより年上な気がするけど、ポーカーフェイスは苦手なようだ。
「あなたもその一人だと?」
ロサが鋭く尋ねた。
「そうですねぇ、私は違いますが……私がリディア嬢を国に招待しようと思ったのは、妹のミーアがあなたに感化されたからです。妹は少しわがままなところがありましてね。それがあなたとやりあって、借りてきた猫のようになった。ミーアと仲良くなってくれたなら、そのまま侍女として仕えてくれないかと思ったりしましてね。同時に保護することにもなるからいいかと思ったんです」
「保護?」
ロサが聞き咎めた。
ジュエル王子はニコッといい笑顔。
「こちらの話に、少しは興味がわきました?」
え?
そのジュエル殿下の首元に、短剣を突き付けたのは兄さまだ。
「なんの真似だ?」
「ロサ殿下、どうなさいます?」
兄さまは、すましてロサに尋ねる。
「一国の王子にこんなことをして、ただで済むと思うのか?」
当たり前だけど、ご立腹だよ。ど、どうするの?
ロサはわたしの手を弄びながら言う。
「第1王女さまが婚約を解消されたとか。それによりセイン国と国交が悪化。ワーウィッツの甘味物の1番の取引相手はセイン国。困っているようだね」
ジュエル王子を見るわけではなく、わたしを見続ける。そして気まぐれにわたしの手の甲にチュッとしたりする。
やってることも会話も14歳じゃないよ。オヤジっぽいよ、ロサ。
「それでミーア王女をユオブリアと縁付けたかった。婚約者になるには陛下の許可が必要だが、条件が合えば甘味の取引相手になってもいいですよ?」
ロサはジュエル殿下に微笑んだ。
「何をでしょう?」
メロディー嬢が警戒したようにジュエル王子に尋ねた。
「そこの婚約者は形だけのもので、ブレド殿下とリディア嬢が恋仲だということを」
「ジュエル殿下、何をおっしゃいますの? ロサさまに失礼でしてよ?」
あ、メロディー嬢には伝えられていないのか。
本当にレアチーズケーキを取りにきただけなんだ。
「メロディーさまはご存知ない。やっぱり〝秘密〟の関係じゃありませんか」
「秘密の関係というのは知られた時に困るもの。私は知られて困ることは何もない」
「ろ、ロサさま、何をおっしゃいますの? それじゃあまるで、ロサさまとリディアさまが恋仲のように聞こえてしまいますわ」
「私が愛する人を見つけていたことを、喜んではくれまいか?」
顔を青くしたメロディー嬢に、ロサは微笑む。
「まぁ、知っていて妹との縁談を勧めたのなら、何をお考えなのか気になりますがね」
ジュエル殿下がトーンを落として言った。
メロディー嬢がミーア王女に縁談を勧めたってこと?
ロサの目が一瞬だけ微かに細くなる。
「そんな! 嘘ですわ! リディアさまはランディラカさまの婚約者です」
クスッと兄さまが笑う。メロディー嬢がムッとしたように兄さまを窺う。
「何がおかしいのです?」
「公爵令嬢が、何を戸惑っているのです? 貴族の婚姻がどんなものか、ご存知でしょうに……」
「リ、リディアさま、嘘ですわよね? リディアさまはランディラカさまと婚約されているんですものね」
髪を乱して、みんなの顔を次々と見ている。少し気の毒だ。
「……メロディーさま、お菓子をお渡ししますわ。第1王子殿下の名代でいらしたのですよね?」
わたしは立ち上がる。
「……第1王子殿下?……」
ジュエル殿下が呟いた。
彼の中では今、いろんな思いが渦巻いていることだろう。
わたしをワーウィッツ王国に招くのが目的だったみたいだ。その先に何かありそうだね。
でも、今日ここで、わたしと第2王子が恋仲だと誤解した。そして第2王子殿下の弱みを手にしたと思い、ロサに何か持ちかけようとした。ところがそれは弱みにはならないとロサに一蹴される。そこにメロディー嬢が登場。メロディー嬢の驚愕により、やはり知られてないことじゃないかと思ったはずだ。
そしてさらに、わたしと第1王子に繋がりがあると思ったことだろう。
「リディアさま、本当のことをおっしゃって! ロサさまとはなんでもないですわよね? ランディラカさまを愛していらっしゃるのでしょう?」
必死の形相なので、居心地が悪い。けれど、冷たくつっぱねる。
「メロディーさまに話す必要がありまして? それはわたしとわたしが愛する方だけが知っていればいいことですわ」
メロディー嬢は放心状態だ。
わたしはベルを手に取って鳴らした。ご用聞きに来たアルノルトにお菓子を持ってこさせ、それをメロディー嬢に渡す。王子殿下によろしくお伝えくださいと追い出した。
「リディア嬢はいくつもの伝手をお持ちなのですね」
ジュエル殿下にすかさず言われた。
どういう振る舞いをするのがベストなのか、なんと言うのがいいのかわからないので、ただ微笑む。
「ブレドさまには、なんともないかもしれませんが、リディア嬢は所詮、伯爵家、令嬢。知られたら多くの婚約者候補から非難されるんじゃありませんか?」
「何が言いたい?」
ロサが鋭く怖い声を出した。
「彼女を婚約者にすればいいのにそうしないというのは、なんらかの理由があるんですね。もともと王妃は別に立てるつもりということ。でしたらそれを我が妹、ミーアにしていただけませんか? 王妃として敬ってくれるのなら、殿下の愛がどこに向かおうと、ミーアは許すでしょう」
な、何言ってんの。お互いまだ子供なのに、なんつー夢のない取り引きを持ちかけてんのよ。
ロサは軽やかに笑った。
「私はリディア以外に意味を見いだせないので、それこそ相手が誰でも構わないが。ご存知でしょう? 決められるのは陛下です。一応、進言はしてみますがね」
「そうですか、陛下が。陛下が王妃にリディア嬢を認めないということなんですね?」
ロサがピクッと反応する。
わたしを引き寄せ、肩を抱く。
な、何?
「リディアは身体が弱いし、絶対に聖女になれないと神殿からのお墨付きだ。聖女が現れ、王族との婚姻を望んだら王族はそれに応える習わし。リディアを巻き込みたいくないんだ」
ロサは結婚してもいずれ聖女が現れ結婚することになり、だからそんな騒動に、本命は巻き込みたくないと言ってるの?
ロサはわたしを熱く見て、おでこに口を寄せる。
思わず避けようとして出した手は、ロサに絡めとられる。
ろ、ろ、ろ、ロサ。な、何してんのよー。
王族客人&婚約者の前でイチャイチャしている図なんですけど。
っていうか、いる? このイチャイチャ、いる?
「リディア嬢には、高貴な方たちを惹きつける、何かがあるのでしょうね」
少しイライラを含んだ声音。ロサより年上な気がするけど、ポーカーフェイスは苦手なようだ。
「あなたもその一人だと?」
ロサが鋭く尋ねた。
「そうですねぇ、私は違いますが……私がリディア嬢を国に招待しようと思ったのは、妹のミーアがあなたに感化されたからです。妹は少しわがままなところがありましてね。それがあなたとやりあって、借りてきた猫のようになった。ミーアと仲良くなってくれたなら、そのまま侍女として仕えてくれないかと思ったりしましてね。同時に保護することにもなるからいいかと思ったんです」
「保護?」
ロサが聞き咎めた。
ジュエル王子はニコッといい笑顔。
「こちらの話に、少しは興味がわきました?」
え?
そのジュエル殿下の首元に、短剣を突き付けたのは兄さまだ。
「なんの真似だ?」
「ロサ殿下、どうなさいます?」
兄さまは、すましてロサに尋ねる。
「一国の王子にこんなことをして、ただで済むと思うのか?」
当たり前だけど、ご立腹だよ。ど、どうするの?
ロサはわたしの手を弄びながら言う。
「第1王女さまが婚約を解消されたとか。それによりセイン国と国交が悪化。ワーウィッツの甘味物の1番の取引相手はセイン国。困っているようだね」
ジュエル王子を見るわけではなく、わたしを見続ける。そして気まぐれにわたしの手の甲にチュッとしたりする。
やってることも会話も14歳じゃないよ。オヤジっぽいよ、ロサ。
「それでミーア王女をユオブリアと縁付けたかった。婚約者になるには陛下の許可が必要だが、条件が合えば甘味の取引相手になってもいいですよ?」
ロサはジュエル殿下に微笑んだ。
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