518 / 911
13章 いざ尋常に勝負
第518話 ロサの辻褄合わせ(前編)
しおりを挟む
アラ兄とロビ兄は頷き合って、ロビ兄は魔使いさんのものだった魔導書を持ってきた。
恐らく魔導書にある3つの工程を使った魔具をロビ兄が読み解いて、アラ兄が綿菓子機に必要な工程に書き換えながら作るのだろう。
わたしが作るとしたら、ぐるぐる回る風を起こす魔具を作ってもらって、そこに真ん中の筒に熱すという機能をプラス、かな。あ、熱をプラスするとなると、ぐるぐる回す風の温度を設定してもらわないとだね、そうじゃないとプラスできない。と考える。
けど、もしこれができたら、新商品にちょっと良くない?
子供、絶対喜ぶよね? 雲を食べてるみたいって。
大人には飲み物に浮かべて上からあったかい飲み物を注ぎ入れ溶かす。パフォーマンス付きの砂糖として売り出すのもありかもね。
あ、わたあめはすぐ萎んじゃうから、売るのは無理か。
でもカフェの目玉になるかも。
誰かが目を輝かせてわたあめに夢中になるところを想像すると、気が昂ってくる。いますぐやってみて、それが実現できるか確かめたくなる。
顔をあげると、ロサがわたしを見てニヤニヤしていた。
「な、何?」
「何か思いついたんだろう? リディア嬢はそうでなくちゃ」
「ロサ、……ありがとう」
心からわたしはお礼を言うことができた。
いつもなんだかんだ、ロサにも助けてもらってる。
「リディア嬢は絆されやすいな。だから兄や婚約者がしっかりしていて、ちょうどいいのだな」
そんな憎まれ口を叩いた。
「リディア嬢が伏せっている時に、カートライト令嬢から驚くべきことを打ち明けられたんだ」
わたしはギョッとした。今、ここでそのこと言うの?
ロビ兄たちも、手を止めてロサを見た。
「彼女は、私に相談してきたんだ。〝にわかに信じるのは難しいだろうけれど、今から言うことが起こったら、あたしの話を信じてもらえませんか〟と」
ロサは紅茶をひと口、上品に飲んだ。
「聞いてみないと信じるも信じないも何も言えないと言ってみたけれど、アイリス嬢はいつもと様子が違ってとても真剣だった。
自分のスキルで時々未来視みたいなことができると言った。
それで、ある劇団の最終公演日に教会の鐘つき塔から、真っ赤な髪の少女が落ちるの映像を見たのだと。
その少女が落ちて、地面に血だまりができると、羽あるものたちが一斉に飛び立ち空を覆い、地が騒ぎ、遠くの海も荒れ狂うのだと。
カートライト嬢は、その少女を助けるのを手伝ってくれないかと言ったんだ。少女は術にかかっているようにぼうっとしていたと。
カートライト嬢に尋ねたんだ。その少女が落ちると、世界が荒れ狂うから少女を助けたいと思うのかと。そうしたら彼女は首を横に振った。まだ自分より小さい女の子に命を落として欲しくないのだと」
その言葉が気に入って、ロサは協力することにしたそうだ。
アイリスが未来視で見たのは、赤い髪の女の子が鐘つき塔へと登っていく姿。なぜか下には衛兵たちが大勢いた。幟のようなものが見えて、最終公演とかかれていた。それから子供が落ちたと叫び声がして、振り返ると、赤い髪した女の子が地面に伏せっていて血がじわじわと広がっていったのだと。そして天と地が騒ぎ出した。
鐘つき塔は王都に3つもある。自分だけでは3つ見張ることは不可能。でもこんな未来があってはいけないと、アイリス嬢は止めたかった。
ロサはすぐに全ての塔を見張ることはないだろうと思った。
最終公演の幟が見えたのなら、公演をやっている3区が怪しい。他の塔にも念のため人を行かせたようだが。
アイリス嬢に、その塔でアイリス嬢が言うようなことが起こったとしたら、未来視の証明となるのに、私に他の何を信じて欲しいのだ?とロサは尋ねた。
アイリス嬢は口を少し噛みしめてから、拳を握り言った。
自分は数年後、聖女になると。今までいくつもの自分が聖女になった未来をみたが、その数年後にはユオブリアが攻撃され、瘴気が蔓延して、世界と生き物の7分の6を失ってしまうのだと。
その話をしている途中に、わたしの名前がちょろっと出てきて。ロサが聞き返し、わたしに相談に乗ってもらっていると聞いたそうだ。
それで、このこともわたしにまず相談に行ったのだが、風邪で会えなかったんだと、経緯がわかった。
少女が落ちるのを止めるには自分一人では無理。助っ人がいる。そしてどうせなら、ユオブリアが攻撃されるその出来事が起こる前に、それを止めるために、ロサたちに話す、いい機会なのではと思ったという。
少女が現れたら、未来視を少しでも信用してくれるだろうから。
「他の塔にも人は送ったものの、3区の教会だと見当がついた。劇団の最終公演もそうだが、……そこで劇団のオーナーと〝赤い魔石〟の取り引きがあると密告があったんだ」
アラ兄とロビ兄が息を飲んだ。
「赤い魔石って、シンシアダンジョンのですか?」
「赤い魔石に……赤い髪の女の子」
そういえばウィッグは収納ポケットにしまったよね? 特に意識していないから、クリーンをかけた後にしまったはずだけど、記憶に残ってない。
「まだ全てはわかっていないものの、赤い魔石のことでわかったこともある。少女とは関係なかったようだけど……」
ロサがわたしを見ている気がする。ちょっと顔をあげにくい。
「赤い髪の少女は、本当にいたんですね?」
「ああ。その劇団の役者と一緒に塔から落ちた」
「落ちた!?」
ふたりが声を揃える。
「ああ。でも風に助けられて、ふたりは無事だ。……ただ少女はその時から行方不明だ」
なんて心臓に悪い会話だ。
「でも無事だったのはわかっているんですね?」
アラ兄が確かめる。
「劇団員が少女を守りながら落ちて気を失う前に、少女がふらふらと歩いていくのを見たそうだ。怖い思いをしたから、その場から逃げて家に帰ったのだろうと思われている。少女についてはよくわかっていない」
思わずロサを見ると、目が合った。ロサは続ける。
「少女は劇団員と劇団のオーナーと一緒に鐘つき塔に来て登ったんだが、オーナーのいうことには、少女が鐘つき塔を見たいと言ったからだと言っている。
ひとりで劇を見にきていたそうでね。前日に見にきていて、劇団員が公演後に声をかけたら悩み事があり劇をてんで見ていなかったことがわかった。子供にとって決して安くない料金だ。悩み事があって辛そうなのも気になったし、最終日のチケットを渡して、明日も見にきてくれと言ったそうだ。少女はまたひとりで見にきた。帰りがけに具合が悪くなったみたいで、手洗いに駆け込んだそうだ」
そんなことまで言わなくていいと思うんだけど!
それにあれは好きでトイレに篭ったわけでなくて、ロサがいたからなのに! ただ隠れただけなのに!
「具合が悪そうなので表通りまで送ることにした。そうしている間に、運悪くオーナーの赤い魔石を見てしまったらしい」
恐らく魔導書にある3つの工程を使った魔具をロビ兄が読み解いて、アラ兄が綿菓子機に必要な工程に書き換えながら作るのだろう。
わたしが作るとしたら、ぐるぐる回る風を起こす魔具を作ってもらって、そこに真ん中の筒に熱すという機能をプラス、かな。あ、熱をプラスするとなると、ぐるぐる回す風の温度を設定してもらわないとだね、そうじゃないとプラスできない。と考える。
けど、もしこれができたら、新商品にちょっと良くない?
子供、絶対喜ぶよね? 雲を食べてるみたいって。
大人には飲み物に浮かべて上からあったかい飲み物を注ぎ入れ溶かす。パフォーマンス付きの砂糖として売り出すのもありかもね。
あ、わたあめはすぐ萎んじゃうから、売るのは無理か。
でもカフェの目玉になるかも。
誰かが目を輝かせてわたあめに夢中になるところを想像すると、気が昂ってくる。いますぐやってみて、それが実現できるか確かめたくなる。
顔をあげると、ロサがわたしを見てニヤニヤしていた。
「な、何?」
「何か思いついたんだろう? リディア嬢はそうでなくちゃ」
「ロサ、……ありがとう」
心からわたしはお礼を言うことができた。
いつもなんだかんだ、ロサにも助けてもらってる。
「リディア嬢は絆されやすいな。だから兄や婚約者がしっかりしていて、ちょうどいいのだな」
そんな憎まれ口を叩いた。
「リディア嬢が伏せっている時に、カートライト令嬢から驚くべきことを打ち明けられたんだ」
わたしはギョッとした。今、ここでそのこと言うの?
ロビ兄たちも、手を止めてロサを見た。
「彼女は、私に相談してきたんだ。〝にわかに信じるのは難しいだろうけれど、今から言うことが起こったら、あたしの話を信じてもらえませんか〟と」
ロサは紅茶をひと口、上品に飲んだ。
「聞いてみないと信じるも信じないも何も言えないと言ってみたけれど、アイリス嬢はいつもと様子が違ってとても真剣だった。
自分のスキルで時々未来視みたいなことができると言った。
それで、ある劇団の最終公演日に教会の鐘つき塔から、真っ赤な髪の少女が落ちるの映像を見たのだと。
その少女が落ちて、地面に血だまりができると、羽あるものたちが一斉に飛び立ち空を覆い、地が騒ぎ、遠くの海も荒れ狂うのだと。
カートライト嬢は、その少女を助けるのを手伝ってくれないかと言ったんだ。少女は術にかかっているようにぼうっとしていたと。
カートライト嬢に尋ねたんだ。その少女が落ちると、世界が荒れ狂うから少女を助けたいと思うのかと。そうしたら彼女は首を横に振った。まだ自分より小さい女の子に命を落として欲しくないのだと」
その言葉が気に入って、ロサは協力することにしたそうだ。
アイリスが未来視で見たのは、赤い髪の女の子が鐘つき塔へと登っていく姿。なぜか下には衛兵たちが大勢いた。幟のようなものが見えて、最終公演とかかれていた。それから子供が落ちたと叫び声がして、振り返ると、赤い髪した女の子が地面に伏せっていて血がじわじわと広がっていったのだと。そして天と地が騒ぎ出した。
鐘つき塔は王都に3つもある。自分だけでは3つ見張ることは不可能。でもこんな未来があってはいけないと、アイリス嬢は止めたかった。
ロサはすぐに全ての塔を見張ることはないだろうと思った。
最終公演の幟が見えたのなら、公演をやっている3区が怪しい。他の塔にも念のため人を行かせたようだが。
アイリス嬢に、その塔でアイリス嬢が言うようなことが起こったとしたら、未来視の証明となるのに、私に他の何を信じて欲しいのだ?とロサは尋ねた。
アイリス嬢は口を少し噛みしめてから、拳を握り言った。
自分は数年後、聖女になると。今までいくつもの自分が聖女になった未来をみたが、その数年後にはユオブリアが攻撃され、瘴気が蔓延して、世界と生き物の7分の6を失ってしまうのだと。
その話をしている途中に、わたしの名前がちょろっと出てきて。ロサが聞き返し、わたしに相談に乗ってもらっていると聞いたそうだ。
それで、このこともわたしにまず相談に行ったのだが、風邪で会えなかったんだと、経緯がわかった。
少女が落ちるのを止めるには自分一人では無理。助っ人がいる。そしてどうせなら、ユオブリアが攻撃されるその出来事が起こる前に、それを止めるために、ロサたちに話す、いい機会なのではと思ったという。
少女が現れたら、未来視を少しでも信用してくれるだろうから。
「他の塔にも人は送ったものの、3区の教会だと見当がついた。劇団の最終公演もそうだが、……そこで劇団のオーナーと〝赤い魔石〟の取り引きがあると密告があったんだ」
アラ兄とロビ兄が息を飲んだ。
「赤い魔石って、シンシアダンジョンのですか?」
「赤い魔石に……赤い髪の女の子」
そういえばウィッグは収納ポケットにしまったよね? 特に意識していないから、クリーンをかけた後にしまったはずだけど、記憶に残ってない。
「まだ全てはわかっていないものの、赤い魔石のことでわかったこともある。少女とは関係なかったようだけど……」
ロサがわたしを見ている気がする。ちょっと顔をあげにくい。
「赤い髪の少女は、本当にいたんですね?」
「ああ。その劇団の役者と一緒に塔から落ちた」
「落ちた!?」
ふたりが声を揃える。
「ああ。でも風に助けられて、ふたりは無事だ。……ただ少女はその時から行方不明だ」
なんて心臓に悪い会話だ。
「でも無事だったのはわかっているんですね?」
アラ兄が確かめる。
「劇団員が少女を守りながら落ちて気を失う前に、少女がふらふらと歩いていくのを見たそうだ。怖い思いをしたから、その場から逃げて家に帰ったのだろうと思われている。少女についてはよくわかっていない」
思わずロサを見ると、目が合った。ロサは続ける。
「少女は劇団員と劇団のオーナーと一緒に鐘つき塔に来て登ったんだが、オーナーのいうことには、少女が鐘つき塔を見たいと言ったからだと言っている。
ひとりで劇を見にきていたそうでね。前日に見にきていて、劇団員が公演後に声をかけたら悩み事があり劇をてんで見ていなかったことがわかった。子供にとって決して安くない料金だ。悩み事があって辛そうなのも気になったし、最終日のチケットを渡して、明日も見にきてくれと言ったそうだ。少女はまたひとりで見にきた。帰りがけに具合が悪くなったみたいで、手洗いに駆け込んだそうだ」
そんなことまで言わなくていいと思うんだけど!
それにあれは好きでトイレに篭ったわけでなくて、ロサがいたからなのに! ただ隠れただけなのに!
「具合が悪そうなので表通りまで送ることにした。そうしている間に、運悪くオーナーの赤い魔石を見てしまったらしい」
81
お気に入りに追加
1,325
あなたにおすすめの小説

転生した愛し子は幸せを知る
ひつ
ファンタジー
【連載再開】
長らくお待たせしました!休載状態でしたが今月より復帰できそうです(手術後でまだリハビリ中のため不定期になります)。これからもどうぞ宜しくお願いします(^^)
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
宮月 華(みやつき はな) は死んだ。華は死に間際に「誰でもいいから私を愛して欲しかったな…」と願った。
次の瞬間、華は白い空間に!!すると、目の前に男の人(?)が現れ、「新たな世界で愛される幸せを知って欲しい!」と新たな名を貰い、過保護な神(パパ)にスキルやアイテムを貰って旅立つことに!
転生した女の子が周りから愛され、幸せになるお話です。
結構ご都合主義です。作者は語彙力ないです。
第13回ファンタジー大賞 176位
第14回ファンタジー大賞 76位
第15回ファンタジー大賞 70位
ありがとうございます(●´ω`●)
伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
異世界に来たようですが何も分かりません ~【買い物履歴】スキルでぼちぼち生活しています~
ぱつきんすきー
ファンタジー
突然「神」により異世界転移させられたワタシ
以前の記憶と知識をなくし、右も左も分からないワタシ
唯一の武器【買い物履歴】スキルを利用して異世界でぼちぼち生活
かつてオッサンだった少女による、異世界生活のおはなし

家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。


オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる