プラス的 異世界の過ごし方

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13章 いざ尋常に勝負

第518話 ロサの辻褄合わせ(前編)

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 アラ兄とロビ兄は頷き合って、ロビ兄は魔使いさんのものだった魔導書を持ってきた。
 恐らく魔導書にある3つの工程を使った魔具をロビ兄が読み解いて、アラ兄が綿菓子機に必要な工程に書き換えながら作るのだろう。

 わたしが作るとしたら、ぐるぐる回る風を起こす魔具を作ってもらって、そこに真ん中の筒に熱すという機能をプラス、かな。あ、熱をプラスするとなると、ぐるぐる回す風の温度を設定してもらわないとだね、そうじゃないとプラスできない。と考える。

 けど、もしこれができたら、新商品にちょっと良くない?
 子供、絶対喜ぶよね? 雲を食べてるみたいって。
 大人には飲み物に浮かべて上からあったかい飲み物を注ぎ入れ溶かす。パフォーマンス付きの砂糖として売り出すのもありかもね。
 あ、わたあめはすぐ萎んじゃうから、売るのは無理か。
 でもカフェの目玉になるかも。
 誰かが目を輝かせてわたあめに夢中になるところを想像すると、気が昂ってくる。いますぐやってみて、それが実現できるか確かめたくなる。

 顔をあげると、ロサがわたしを見てニヤニヤしていた。

「な、何?」

「何か思いついたんだろう? リディア嬢はそうでなくちゃ」

「ロサ、……ありがとう」

 心からわたしはお礼を言うことができた。
 いつもなんだかんだ、ロサにも助けてもらってる。

「リディア嬢は絆されやすいな。だから兄や婚約者がしっかりしていて、ちょうどいいのだな」

 そんな憎まれ口を叩いた。




「リディア嬢が伏せっている時に、カートライト令嬢から驚くべきことを打ち明けられたんだ」

 わたしはギョッとした。今、ここでそのこと言うの?
 ロビ兄たちも、手を止めてロサを見た。

「彼女は、私に相談してきたんだ。〝にわかに信じるのは難しいだろうけれど、今から言うことが起こったら、あたしの話を信じてもらえませんか〟と」

 ロサは紅茶をひと口、上品に飲んだ。

「聞いてみないと信じるも信じないも何も言えないと言ってみたけれど、アイリス嬢はいつもと様子が違ってとても真剣だった。
 自分のスキルで時々未来視みたいなことができると言った。
 それで、ある劇団の最終公演日に教会の鐘つき塔から、真っ赤な髪の少女が落ちるの映像を見たのだと。
 その少女が落ちて、地面に血だまりができると、羽あるものたちが一斉に飛び立ち空を覆い、地が騒ぎ、遠くの海も荒れ狂うのだと。
 カートライト嬢は、その少女を助けるのを手伝ってくれないかと言ったんだ。少女は術にかかっているようにぼうっとしていたと。
 カートライト嬢に尋ねたんだ。その少女が落ちると、世界が荒れ狂うから少女を助けたいと思うのかと。そうしたら彼女は首を横に振った。まだ自分より小さい女の子に命を落として欲しくないのだと」

 その言葉が気に入って、ロサは協力することにしたそうだ。

 アイリスが未来視で見たのは、赤い髪の女の子が鐘つき塔へと登っていく姿。なぜか下には衛兵たちが大勢いた。幟のようなものが見えて、最終公演とかかれていた。それから子供が落ちたと叫び声がして、振り返ると、赤い髪した女の子が地面に伏せっていて血がじわじわと広がっていったのだと。そして天と地が騒ぎ出した。
 鐘つき塔は王都に3つもある。自分だけでは3つ見張ることは不可能。でもこんな未来があってはいけないと、アイリス嬢は止めたかった。
 ロサはすぐに全ての塔を見張ることはないだろうと思った。
 最終公演の幟が見えたのなら、公演をやっている3区が怪しい。他の塔にも念のため人を行かせたようだが。
 アイリス嬢に、その塔でアイリス嬢が言うようなことが起こったとしたら、未来視の証明となるのに、私に他の何を信じて欲しいのだ?とロサは尋ねた。

 アイリス嬢は口を少し噛みしめてから、拳を握り言った。
 自分は数年後、聖女になると。今までいくつもの自分が聖女になった未来をみたが、その数年後にはユオブリアが攻撃され、瘴気が蔓延して、世界と生き物の7分の6を失ってしまうのだと。
 その話をしている途中に、わたしの名前がちょろっと出てきて。ロサが聞き返し、わたしに相談に乗ってもらっていると聞いたそうだ。
 それで、このこともわたしにまず相談に行ったのだが、風邪で会えなかったんだと、経緯がわかった。

 少女が落ちるのを止めるには自分一人では無理。助っ人がいる。そしてどうせなら、ユオブリアが攻撃されるその出来事が起こる前に、それを止めるために、ロサたちに話す、いい機会なのではと思ったという。
 少女が現れたら、未来視を少しでも信用してくれるだろうから。

「他の塔にも人は送ったものの、3区の教会だと見当がついた。劇団の最終公演もそうだが、……そこで劇団のオーナーと〝赤い魔石〟の取り引きがあると密告があったんだ」

 アラ兄とロビ兄が息を飲んだ。

「赤い魔石って、シンシアダンジョンのですか?」

「赤い魔石に……赤い髪の女の子」

 そういえばウィッグは収納ポケットにしまったよね? 特に意識していないから、クリーンをかけた後にしまったはずだけど、記憶に残ってない。

「まだ全てはわかっていないものの、赤い魔石のことでわかったこともある。少女とは関係なかったようだけど……」

 ロサがわたしを見ている気がする。ちょっと顔をあげにくい。

「赤い髪の少女は、本当にいたんですね?」

「ああ。その劇団の役者と一緒に塔から落ちた」

「落ちた!?」

 ふたりが声を揃える。

「ああ。でも風に助けられて、ふたりは無事だ。……ただ少女はその時から行方不明だ」

 なんて心臓に悪い会話だ。

「でも無事だったのはわかっているんですね?」

 アラ兄が確かめる。

「劇団員が少女を守りながら落ちて気を失う前に、少女がふらふらと歩いていくのを見たそうだ。怖い思いをしたから、その場から逃げて家に帰ったのだろうと思われている。少女についてはよくわかっていない」

 思わずロサを見ると、目が合った。ロサは続ける。

「少女は劇団員と劇団のオーナーと一緒に鐘つき塔に来て登ったんだが、オーナーのいうことには、少女が鐘つき塔を見たいと言ったからだと言っている。
 ひとりで劇を見にきていたそうでね。前日に見にきていて、劇団員が公演後に声をかけたら悩み事があり劇をてんで見ていなかったことがわかった。子供にとって決して安くない料金だ。悩み事があって辛そうなのも気になったし、最終日のチケットを渡して、明日も見にきてくれと言ったそうだ。少女はまたひとりで見にきた。帰りがけに具合が悪くなったみたいで、手洗いに駆け込んだそうだ」

 そんなことまで言わなくていいと思うんだけど!
 それにあれは好きでトイレに篭ったわけでなくて、ロサがいたからなのに! ただ隠れただけなのに!

「具合が悪そうなので表通りまで送ることにした。そうしている間に、運悪くオーナーの赤い魔石を見てしまったらしい」
 
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