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12章 人間模様、恋模様
第512話 攻撃⑧第一の目的
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ダニエルと兄さまが声の届かない距離まで離れると、ブライがわたしに耳打ちした。
「リディア嬢、ロサ殿下がお呼びだ」
やっぱり、そうか。
兄さまを遠ざけたんだ。
一緒にいたら、兄さまにも話すことになっちゃうから。
頷いて、ブライと一緒に歩き出す。
「殿下となんかあったのか?」
「ないよ、話すことがあって、その約束をしてただけ」
「それならいいけどよ」
ロサは今日話さなくてはいけない、女の子たちとの顔合わせをコンプリートしたようだ。それでも、2、3言の子たちも大勢いるので、婚約者がいて、ロサの婚約者候補でもないわたしがこうやって、別室にて話す時間を持ったなんて知れたら、どんな嫉妬の嵐が舞い込むかわからない。だから後からバレたりしないように、気をつけろと言われた。
わたしだって、婚約者候補争奪戦に巻き込まれたくないから、大人しく頷いた。
屋敷の中に入り、ブライがノックをして一室に促される。
「ようこそ、リディア嬢。ブライ、使いのようなことを頼んで悪かったね」
「いえ、とんでもない」
ブライは武人の礼をした。
お茶の用意をしていたメイドさんが、わたしに目を止めた時、微かに笑った気がした。まぁ、嫌な笑いというより、微笑ましいって顔だったけど。
メイドさんが出ていくと、ブライにも外で控えていてくれとロサが願う。
ブライまで人払いしてくれるんだ。
もふさま用のお菓子がお皿にてんこ盛りされていた。
もふさま、さっきも食べたのに、ここでも匂いを嗅いで食べようとしている。
聖獣は太ったりしないのかな。羨ましいね。
「先ほど、派手にやったらしいね?」
もう伝わっている。
「せっかくのお茶会なのに、ごめんね」
「いや、あらかたのことは聞いたが、君は悪くないだろ?」
ロサは甘くもないけど、公平に物事を判断する。
だから、ロサに悪くないと判断してもらえて、いくぶん心が軽くなる。
「頬が少し赤いようだけど、暑いか?」
窓を開けるかと尋ねられた。
わたしは大丈夫と答える。
お酒入りのお菓子のせいだろう。
意識ははっきりしている。
あの日、あの場で問い詰めることなく引いてくれたことに感謝している。
できればこんなお茶会ではなく、どこかでのお茶ぐらいで話をしたかったけれど、〝種まき〟もできたから、お茶会に参加したことは悪くないと思おう。
わたしの言葉だけで、犯罪に加担していないと信じてくれたロサだから、包み隠さず話そうと思った。
「あの時も、ありがとう。わたしを信じてくれて」
あの日、とわたしが言いかけると、まず喉を潤そうと提案された。
ずっと今まで、飲むことも食べることもしてなかったという。
テーブルの上には黒い飲み物の入ったカップと、真っ白のまあるいお皿にちょこんと杏のようなドライフルーツが2個並んでいた。
黒い飲み物はセイン国の人のお土産で琥珀湯というそうだ。
苦いので、蜂蜜や砂糖を溶かし、甘くしていただくらしい。
色と苦いと聞いて、コーヒーか?って思ったけど、独特ないい香りはしない。
飲むと体がポカポカするそうだ。
飲んでみようと思ったけど、メイドさんが出てから少し経つのに、熱々らしく湯気が出ているので、冷めてから飲もうと思う。猫舌だから。
「こちらはアズ。ホッテリヤの特産なんだ」
わたしの様子を見てか、初めて見るかと聞かれた。
頷くと説明してくれる。
「まあ、そうだな。砂糖漬けで食べるのは珍しい。あ、警戒しなくていいよ、鑑定済みだ」
王子が口にするものだからか、鑑定はされているみたいだ。
けれど一応、わたしも鑑定してみた。
琥珀湯:琥珀豆の種子から作った飲み物。苦味が強い。お酒入り。
お酒入りか、飲めないじゃん。それにポカポカするってお酒の効能なんじゃ?
アズ:ホッテリヤ特産の果実。砂糖を目一杯まぶし、ある程度乾燥させたもの。
「普通はどうやっていただくの?」
砂糖漬けで食べるのは珍しいというからには、他の食べ方がメジャーなんだろう。
ロサはアズを手で摘み、口の中に入れた。
わたしも手づかみして、口の中に放り込んだ。
酸味とジャリジャリした砂糖が口の中で混じり合う。
奥歯にくる甘さだ。
「携帯食に使われる。果実をたっぷりお酒に浸してから乾燥させるんだ。カラっカラになるまでね。そうしないと危険だから」
「危険?」
「お酒を含んだアズはお腹の中に入ると膨らむんだ、腹持ちがいい。それで調子に乗ってアズと一緒にお酒を口にするものがいるんだが、お腹が膨張して亡くなった人もいるくらいで……」
と、カップを持ち上げたので、わたしはストップをかけた。
「ダメ、それお酒入ってる」
ロサはカップに鼻を近づけ、お酒の匂いがしなかったのか、首を傾げた。
「……そのお酒の量って、ちょっとなら大丈夫よね?」
ロサはわたしのカップに目を走らせ、飲んでないなというほっとした顔をしたが、ハッと顔をあげる。
「なぜ酒が入っていると? ……え、まさか、君! 酒入りの菓子を食べたのか?」
わたしは恐る恐る頷いた。
ロサが立ち上がって走ってきて、わたしを立ち上がらせる。
「リディア嬢、アズを吐き出せ!」
すごい剣幕だ。
吐き出せって、そんなこと言ったって……。
もう噛んで飲み込み、とっくに口の中にはない。
「失礼する」
ロサが冷静に言って、わたしを抱き込んだと思ったら、ドレスの背中のホックを外し始めた。母さまが苦労してはめた、恐ろしいまでの数の背中のホックを。
「え?」
ガバッとドレスが脱がされ、風に晒され寒くなる。上半身は下着のシュミーズ姿だ。
ウエストを締めていたふっといベルトの結び目が解かれ、息苦しいのが薄まる。
ロサは、わたしのお腹に片腕を通し前屈みにした。
もう片方の手で器用に自身の上着を脱いで、わたしの首下から上着を置くようにした。
もふさまがうろうろしているのが見える。
けど、本当にロサは素早かった。
そしてもう一度、わたしに謝る。
「リディア嬢、ごめん」
ロサの指が口の中に入ってきて、奥に……。
わたしはもちろんリバースだ。
ロサの上着にぶちまけた。
といっても、ウエストが締められそうなのは予想していたので、食事はセーブしてきた。そして今日もそう食べたわけではないので、そこまで吐き出したわけではないけれど、いや、却って少ないからか胃液ばかりが出て、喉やら何やらすごく痛い。
体が出そうとしているものを出す時は、吐き出したあと楽になるけど、無理やりは非常に体に負担がかかる。
っていうか、何この状況!
痛いし、汚いし、最悪!
「ブライ! ブライ!」
ロサが大きい声でドアの外で控えているブライを呼んだ。
ブライが慌てて入ってくる。
「医師を連れて来い、胃洗浄だ」
「! わかった」
ブライの声がして、もふさまも外にかけていく。
その後も地獄だった。いや、その後が地獄だった。
ゲストハウスにお医者さまもいたんだろう。
もふさまがお医者さまとブライを上に乗せ、驚くべき早さで帰ってきた。
お医者さんにいろいろ説明されたけど、朦朧としていた。
どうも胃洗浄をどうやってやるかと器具の説明をしてくれたようだ。
お医者さまのスキルで麻酔みたいのをかけてくれたんだと思うけど。
恐ろしかった。異物が入ってくる痛みはなかったけど、圧迫感はずっとあった。
口からホースみたいのを突っ込まれて、水を流し込まれる。
胃が水で膨らんだ後は、リバースだ。逆流。
とにかくめちゃくちゃ苦しかった。痛みはそう感じないけど、とにかく苦しかった。
「リディア嬢、ロサ殿下がお呼びだ」
やっぱり、そうか。
兄さまを遠ざけたんだ。
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頷いて、ブライと一緒に歩き出す。
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「ないよ、話すことがあって、その約束をしてただけ」
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ロサは今日話さなくてはいけない、女の子たちとの顔合わせをコンプリートしたようだ。それでも、2、3言の子たちも大勢いるので、婚約者がいて、ロサの婚約者候補でもないわたしがこうやって、別室にて話す時間を持ったなんて知れたら、どんな嫉妬の嵐が舞い込むかわからない。だから後からバレたりしないように、気をつけろと言われた。
わたしだって、婚約者候補争奪戦に巻き込まれたくないから、大人しく頷いた。
屋敷の中に入り、ブライがノックをして一室に促される。
「ようこそ、リディア嬢。ブライ、使いのようなことを頼んで悪かったね」
「いえ、とんでもない」
ブライは武人の礼をした。
お茶の用意をしていたメイドさんが、わたしに目を止めた時、微かに笑った気がした。まぁ、嫌な笑いというより、微笑ましいって顔だったけど。
メイドさんが出ていくと、ブライにも外で控えていてくれとロサが願う。
ブライまで人払いしてくれるんだ。
もふさま用のお菓子がお皿にてんこ盛りされていた。
もふさま、さっきも食べたのに、ここでも匂いを嗅いで食べようとしている。
聖獣は太ったりしないのかな。羨ましいね。
「先ほど、派手にやったらしいね?」
もう伝わっている。
「せっかくのお茶会なのに、ごめんね」
「いや、あらかたのことは聞いたが、君は悪くないだろ?」
ロサは甘くもないけど、公平に物事を判断する。
だから、ロサに悪くないと判断してもらえて、いくぶん心が軽くなる。
「頬が少し赤いようだけど、暑いか?」
窓を開けるかと尋ねられた。
わたしは大丈夫と答える。
お酒入りのお菓子のせいだろう。
意識ははっきりしている。
あの日、あの場で問い詰めることなく引いてくれたことに感謝している。
できればこんなお茶会ではなく、どこかでのお茶ぐらいで話をしたかったけれど、〝種まき〟もできたから、お茶会に参加したことは悪くないと思おう。
わたしの言葉だけで、犯罪に加担していないと信じてくれたロサだから、包み隠さず話そうと思った。
「あの時も、ありがとう。わたしを信じてくれて」
あの日、とわたしが言いかけると、まず喉を潤そうと提案された。
ずっと今まで、飲むことも食べることもしてなかったという。
テーブルの上には黒い飲み物の入ったカップと、真っ白のまあるいお皿にちょこんと杏のようなドライフルーツが2個並んでいた。
黒い飲み物はセイン国の人のお土産で琥珀湯というそうだ。
苦いので、蜂蜜や砂糖を溶かし、甘くしていただくらしい。
色と苦いと聞いて、コーヒーか?って思ったけど、独特ないい香りはしない。
飲むと体がポカポカするそうだ。
飲んでみようと思ったけど、メイドさんが出てから少し経つのに、熱々らしく湯気が出ているので、冷めてから飲もうと思う。猫舌だから。
「こちらはアズ。ホッテリヤの特産なんだ」
わたしの様子を見てか、初めて見るかと聞かれた。
頷くと説明してくれる。
「まあ、そうだな。砂糖漬けで食べるのは珍しい。あ、警戒しなくていいよ、鑑定済みだ」
王子が口にするものだからか、鑑定はされているみたいだ。
けれど一応、わたしも鑑定してみた。
琥珀湯:琥珀豆の種子から作った飲み物。苦味が強い。お酒入り。
お酒入りか、飲めないじゃん。それにポカポカするってお酒の効能なんじゃ?
アズ:ホッテリヤ特産の果実。砂糖を目一杯まぶし、ある程度乾燥させたもの。
「普通はどうやっていただくの?」
砂糖漬けで食べるのは珍しいというからには、他の食べ方がメジャーなんだろう。
ロサはアズを手で摘み、口の中に入れた。
わたしも手づかみして、口の中に放り込んだ。
酸味とジャリジャリした砂糖が口の中で混じり合う。
奥歯にくる甘さだ。
「携帯食に使われる。果実をたっぷりお酒に浸してから乾燥させるんだ。カラっカラになるまでね。そうしないと危険だから」
「危険?」
「お酒を含んだアズはお腹の中に入ると膨らむんだ、腹持ちがいい。それで調子に乗ってアズと一緒にお酒を口にするものがいるんだが、お腹が膨張して亡くなった人もいるくらいで……」
と、カップを持ち上げたので、わたしはストップをかけた。
「ダメ、それお酒入ってる」
ロサはカップに鼻を近づけ、お酒の匂いがしなかったのか、首を傾げた。
「……そのお酒の量って、ちょっとなら大丈夫よね?」
ロサはわたしのカップに目を走らせ、飲んでないなというほっとした顔をしたが、ハッと顔をあげる。
「なぜ酒が入っていると? ……え、まさか、君! 酒入りの菓子を食べたのか?」
わたしは恐る恐る頷いた。
ロサが立ち上がって走ってきて、わたしを立ち上がらせる。
「リディア嬢、アズを吐き出せ!」
すごい剣幕だ。
吐き出せって、そんなこと言ったって……。
もう噛んで飲み込み、とっくに口の中にはない。
「失礼する」
ロサが冷静に言って、わたしを抱き込んだと思ったら、ドレスの背中のホックを外し始めた。母さまが苦労してはめた、恐ろしいまでの数の背中のホックを。
「え?」
ガバッとドレスが脱がされ、風に晒され寒くなる。上半身は下着のシュミーズ姿だ。
ウエストを締めていたふっといベルトの結び目が解かれ、息苦しいのが薄まる。
ロサは、わたしのお腹に片腕を通し前屈みにした。
もう片方の手で器用に自身の上着を脱いで、わたしの首下から上着を置くようにした。
もふさまがうろうろしているのが見える。
けど、本当にロサは素早かった。
そしてもう一度、わたしに謝る。
「リディア嬢、ごめん」
ロサの指が口の中に入ってきて、奥に……。
わたしはもちろんリバースだ。
ロサの上着にぶちまけた。
といっても、ウエストが締められそうなのは予想していたので、食事はセーブしてきた。そして今日もそう食べたわけではないので、そこまで吐き出したわけではないけれど、いや、却って少ないからか胃液ばかりが出て、喉やら何やらすごく痛い。
体が出そうとしているものを出す時は、吐き出したあと楽になるけど、無理やりは非常に体に負担がかかる。
っていうか、何この状況!
痛いし、汚いし、最悪!
「ブライ! ブライ!」
ロサが大きい声でドアの外で控えているブライを呼んだ。
ブライが慌てて入ってくる。
「医師を連れて来い、胃洗浄だ」
「! わかった」
ブライの声がして、もふさまも外にかけていく。
その後も地獄だった。いや、その後が地獄だった。
ゲストハウスにお医者さまもいたんだろう。
もふさまがお医者さまとブライを上に乗せ、驚くべき早さで帰ってきた。
お医者さんにいろいろ説明されたけど、朦朧としていた。
どうも胃洗浄をどうやってやるかと器具の説明をしてくれたようだ。
お医者さまのスキルで麻酔みたいのをかけてくれたんだと思うけど。
恐ろしかった。異物が入ってくる痛みはなかったけど、圧迫感はずっとあった。
口からホースみたいのを突っ込まれて、水を流し込まれる。
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