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12章 人間模様、恋模様
第462話 火種①嫉妬
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「メランは〝チョコレート〟で、ライラが〝柱時計〟。ケイトが〝こんちくしょう〟で。クラリベルが〝ジェインズ・ホーキンス〟。アイデラがわからなかった。〝い〟から始まると思うんだけど」
ジニーが口をとんがらせていた。
「なんで4人の言ったことを聞き分けられてるの?」
「ジェインズ・ホーキンスが解るの、おかしいよ」
それには同感だ。
ジェインズ・ホーキンスは巷を騒がせている舞台俳優さんの名前で、ものすごくカッコ良くて、彼を見た女性は何人たりとも逃れられず恋してしまうとか。
「なんでジェインズ・ホーキンスはわかって、イシュメルがわからないのよ?」
アイデラが憤慨したように言った。
「アイデラはブレないね」
「どういう意味?」
「イシュメル一筋って意味」
「そりゃそうよ、イシュメルはすっごい〝いい男〟だもの!」
そ、そうなんだ……。
わたしたちが何をしているのかというと、寮の隣の森で自主練中だ。
魔法戦の授業の時に気づいたんだけど、わたしたちは案外味方の声を聞き分けられてないことを知った。戦っていたりしたら余計に音が飛び交い、何を言っているのかわからなくなってしまう。
だから戦い中は合図が主だけど、並行して声を聞き分ける練習を始めた。
5メートルぐらい先で5人に並んでもらう。〝せーの!〟で5人いっぺんに言葉を叫ぶ。何個聞き取ることができるか、ゲーム感覚での鍛錬だ。
まだ5人聞き分けられた人はいない。
「ジニーが一番だね」
みんなで頷く。わたしなんかふたりしかわからなかったもん。
朝練が終われば、ご飯の用意だ。
掃除は業者の人にやってもらうことになった。料理人も常勤の人をもうひとり雇ってもらった。寄付金はもう集まったので、これからは切り詰めなくて済む。それに、お金ではない社会貢献のあり方も学んだ。
もちろん資金に余裕があると無理に使う気はないけれど、わたしたちの本業は学生なので、これからは学業を優先することにした。
ああ、今日は放課後、寮長会議か。ヤーガンさまも身分がどうこうというのがなければ悪い方でもないのはわかっている。ただ根が真面目なので、寮長会議はものすごく息の詰まる時間なのだ。
放課後になり、案の定、たっぷり1時間かけての苦行が終わった。気が緩みやすい時なので、寮長がしっかり寮生を見守るようにとの主旨だった。
「シュタインちゃん、学園祭で頑張ってたねー」
帰りがけ、廊下でシヴァルリィ寮長であるカラ先輩に絡まれる。なんでこの先輩はわたしの頭に顎を乗せたがるんだろう。
「わたしの頭は顎置きじゃありませんっ」
「そんなことわかってるよー」
カラ先輩は何がおかしいんだか、ケラケラと笑った。
そしてふと真面目な顔になって、小さな声で言った。
「シュタインちゃん、ありがとね」
「え? 何がですか?」
「私たちを助けてくれて」
〝私たち〟を?
「……わたしは何もしてないですけど?」
カラ先輩はふふっと笑う。
「ガネットさんから寮長を引き継いだ。ガネットさんとドーン女子寮の子たちが苦しんでいるのに、何もできない私たちも苦しかった。あなたは私たちも救ってくれた。それにヤーガンさまを糾弾することもできただろうに、あなたが悪者のままで、……ヤーガンさまも救われた」
「救うとかは違うと思いますけど、アベックス寮とは戦いますよ」
「真っ向勝負だよね。だから、ありがとう」
…………………………そうか。
「ガネット先輩が辛そうなのを見て、先輩も辛かったんですね」
「……ウチも下級だけど貴族ではあるからね、人のことより保身に走った。自分のズルさが見えて寮長会議は本当に嫌だった」
いつも元気で人をからかい倒すカラ先輩の目が赤くなったので、わたしはびびった。
「ガネットさんの辛さに比べたら……比べられるようなものでなくて、辛いなんて言える立場じゃないんだけどさ。
みんな何もできなかったのに、新入生のあなたが、貴族ではあるけど、D組なのに、あなたが何もかもひっくり返した。
ガネットさんの恨みを思い知れってヤーガンさまにやり返すのかと、浅はかな私は、そう誤解したけど。あなたは全然違った! ガネットさんを守って、あのヤーガンさまに真っ向勝負を持ちかけた」
なんかいい感じに言われているが、なりゆき任せのところが多い。……ので、微妙。
「それに、ヤーガンさまをただ悪者にしないでくれて、ありがとね。シュタインちゃんの評判はすっごく悪くなったのに」
意外にもカラ先輩はヤーガンさまを慕っているようなので驚く。
「カラ先輩は、ヤーガンさまを慕っているんですね?」
「尊敬はしてるけど、慕うというと、ちょっと違うかな。でも、結局のとこ始まりはさ、気持ちはわかるから」
「始まり、ですか?」
カラ先輩はわたしを見て、したり顔になる。
「そっか、新入生だもん知らないよね。始まりはヤーガンさまのガネットさんへの嫉妬だったから」
えーーーーー、ヤーガンさまが、ガネット先輩を嫉妬でやっかんだってこと?
平民なのが許せないとかじゃなくて?
わたしは思わずカラ先輩の手を引いて、校舎から出た。
裏庭の片隅で質問攻めをしてしまった!
部室に行けば、いきなり労われる。
「疲れてるね。寮長会議だったんだから、そういうときは休んでもいいよ」
エプロン姿の部長・タルマ先輩は、ノミを持った手でそう言った。
すかさず、エッジ先輩がココアを入れてくれたので、ありがたくいただくことにする。甘い。心地いい甘さが身体中に染み渡っていく。
ジニーが口をとんがらせていた。
「なんで4人の言ったことを聞き分けられてるの?」
「ジェインズ・ホーキンスが解るの、おかしいよ」
それには同感だ。
ジェインズ・ホーキンスは巷を騒がせている舞台俳優さんの名前で、ものすごくカッコ良くて、彼を見た女性は何人たりとも逃れられず恋してしまうとか。
「なんでジェインズ・ホーキンスはわかって、イシュメルがわからないのよ?」
アイデラが憤慨したように言った。
「アイデラはブレないね」
「どういう意味?」
「イシュメル一筋って意味」
「そりゃそうよ、イシュメルはすっごい〝いい男〟だもの!」
そ、そうなんだ……。
わたしたちが何をしているのかというと、寮の隣の森で自主練中だ。
魔法戦の授業の時に気づいたんだけど、わたしたちは案外味方の声を聞き分けられてないことを知った。戦っていたりしたら余計に音が飛び交い、何を言っているのかわからなくなってしまう。
だから戦い中は合図が主だけど、並行して声を聞き分ける練習を始めた。
5メートルぐらい先で5人に並んでもらう。〝せーの!〟で5人いっぺんに言葉を叫ぶ。何個聞き取ることができるか、ゲーム感覚での鍛錬だ。
まだ5人聞き分けられた人はいない。
「ジニーが一番だね」
みんなで頷く。わたしなんかふたりしかわからなかったもん。
朝練が終われば、ご飯の用意だ。
掃除は業者の人にやってもらうことになった。料理人も常勤の人をもうひとり雇ってもらった。寄付金はもう集まったので、これからは切り詰めなくて済む。それに、お金ではない社会貢献のあり方も学んだ。
もちろん資金に余裕があると無理に使う気はないけれど、わたしたちの本業は学生なので、これからは学業を優先することにした。
ああ、今日は放課後、寮長会議か。ヤーガンさまも身分がどうこうというのがなければ悪い方でもないのはわかっている。ただ根が真面目なので、寮長会議はものすごく息の詰まる時間なのだ。
放課後になり、案の定、たっぷり1時間かけての苦行が終わった。気が緩みやすい時なので、寮長がしっかり寮生を見守るようにとの主旨だった。
「シュタインちゃん、学園祭で頑張ってたねー」
帰りがけ、廊下でシヴァルリィ寮長であるカラ先輩に絡まれる。なんでこの先輩はわたしの頭に顎を乗せたがるんだろう。
「わたしの頭は顎置きじゃありませんっ」
「そんなことわかってるよー」
カラ先輩は何がおかしいんだか、ケラケラと笑った。
そしてふと真面目な顔になって、小さな声で言った。
「シュタインちゃん、ありがとね」
「え? 何がですか?」
「私たちを助けてくれて」
〝私たち〟を?
「……わたしは何もしてないですけど?」
カラ先輩はふふっと笑う。
「ガネットさんから寮長を引き継いだ。ガネットさんとドーン女子寮の子たちが苦しんでいるのに、何もできない私たちも苦しかった。あなたは私たちも救ってくれた。それにヤーガンさまを糾弾することもできただろうに、あなたが悪者のままで、……ヤーガンさまも救われた」
「救うとかは違うと思いますけど、アベックス寮とは戦いますよ」
「真っ向勝負だよね。だから、ありがとう」
…………………………そうか。
「ガネット先輩が辛そうなのを見て、先輩も辛かったんですね」
「……ウチも下級だけど貴族ではあるからね、人のことより保身に走った。自分のズルさが見えて寮長会議は本当に嫌だった」
いつも元気で人をからかい倒すカラ先輩の目が赤くなったので、わたしはびびった。
「ガネットさんの辛さに比べたら……比べられるようなものでなくて、辛いなんて言える立場じゃないんだけどさ。
みんな何もできなかったのに、新入生のあなたが、貴族ではあるけど、D組なのに、あなたが何もかもひっくり返した。
ガネットさんの恨みを思い知れってヤーガンさまにやり返すのかと、浅はかな私は、そう誤解したけど。あなたは全然違った! ガネットさんを守って、あのヤーガンさまに真っ向勝負を持ちかけた」
なんかいい感じに言われているが、なりゆき任せのところが多い。……ので、微妙。
「それに、ヤーガンさまをただ悪者にしないでくれて、ありがとね。シュタインちゃんの評判はすっごく悪くなったのに」
意外にもカラ先輩はヤーガンさまを慕っているようなので驚く。
「カラ先輩は、ヤーガンさまを慕っているんですね?」
「尊敬はしてるけど、慕うというと、ちょっと違うかな。でも、結局のとこ始まりはさ、気持ちはわかるから」
「始まり、ですか?」
カラ先輩はわたしを見て、したり顔になる。
「そっか、新入生だもん知らないよね。始まりはヤーガンさまのガネットさんへの嫉妬だったから」
えーーーーー、ヤーガンさまが、ガネット先輩を嫉妬でやっかんだってこと?
平民なのが許せないとかじゃなくて?
わたしは思わずカラ先輩の手を引いて、校舎から出た。
裏庭の片隅で質問攻めをしてしまった!
部室に行けば、いきなり労われる。
「疲れてるね。寮長会議だったんだから、そういうときは休んでもいいよ」
エプロン姿の部長・タルマ先輩は、ノミを持った手でそう言った。
すかさず、エッジ先輩がココアを入れてくれたので、ありがたくいただくことにする。甘い。心地いい甘さが身体中に染み渡っていく。
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