プラス的 異世界の過ごし方

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11章 学園祭

第449話 直球

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 着替えて更衣室から出ると、外で待っていたのはアラ兄ではなく、機嫌悪そうなロビ兄と、対照的に機嫌のすこぶるいい将軍孫だった。
 もふさまと顔を見合わせる。

 どう話が決着づいたのかわからないけれど、ロビ兄と将軍孫とわたしは、これから一緒に過ごさないといけないようだ。カゴチ将軍孫だけど、父さまから危険はないと判断されたってことだろう。

「劇は甘い考えだとは思うが、作り手の考えはわかったよ。途中で口を挟んで悪かったな。でもあのまま〝勇者〟の決断のままに終わると思ったんだ」

 当たり、と心の中で思った。

「そちらは裏のテーマでしたので、納得されない方が出なければ、伝えはしませんでした。表のテーマで楽しんでいただけるので十分ですので」

 内情を伝えれば、そういうことかとすんなりと頷いた。

「わたしは平民ではありませんので、ガゴチさまの思惑から外れると思いますが、本当にわたしと過ごされますの?」

「ああ、もちろん。妖精の宝は俺がもらったからな」

 まったくどんなシンキングタイムでそんな話になるんだ。

「聖女候補誘拐事件」

 将軍孫がいうから、わたしはキッと少年を見た。

「それにシュタイン嬢は巻き込まれたんだよな? 我が国の者も加担者がいたと聞いた。それについては、心より謝罪申し上げる。申し訳ない。我が国でも総力をあげて関わったものを探している」

 その首謀者があなたのお爺さんなんじゃないの?と言えないのが腹立たしい。

「……ご存知でしたか。わたしたち、とても怖い思いをしました。そこであなたの国の話を聞きました。正直に言いますと、あなたの国が怖いです。だからあなたと過ごすことが、わたしは怖いです」

「直球だな」

 何でそこで笑えるの?

「何で笑うんだって顔だな。やっぱりシュタイン嬢は面白いって思ったからだ。聖女候補のカートライト令嬢も、第1王子の婚約者のメロディー令嬢も、対外的な言葉で繕って断ってきたのにさ」

 わたしだって強制的でないお誘いだったら、同じように対外的に断ったさ。異性なら、伝手がなければ断わるのが一般的だし。

「約束するよ、シュタイン嬢に危害は加えない。一切触れるなとも言われているしね。何もしないよ。異国の地の学園祭、ひとりで回るのも味気ない。付き合ってくれよ。妖精の宝は絶対に願い事を叶えるんだろ?」

「当番がありますから、そんなに回れませんよ」

「いいよ」

 人目があるところで、何かするわけはないか。もふさまも全く警戒してない。

『リディア、いい匂いがするぞ』

 もふさまに言われて意識したが、いい匂い?
 もふさまが少し走って振り返る。
 本物の犬みたいだ。

「では、まず、あちらに」

 何だかわからないけど、もふさまについて行ってみよう。

「ロビ兄?」

 距離を置いて後ろについてくるロビ兄に声をかける。

「おれのことは気にするな」

 いや、気になるよ。

「一緒に行こうよ」

「はは、俺は構わないぞ」

 ロビ兄の手を引く。
 あ、もろこしの焦げる匂い。野菜好き同好会のやっているモロコシ屋だ。
 いい匂いがしているのに誰も並んでない。
 もふさまがワンワンと吠えた。
 鉄板の上で黄色いモロコシがいい具合に焼けている。

「甘味たっぷりのモロコシです!」

 みんな食べるというので4本お願いした。
 涙目でありがたがられる。
 熱々のをワセランより強度がある厚紙みたいなので巻いて、渡してくれた。

 早速アムっと齧る。
 コーンだ。あましょっぱくておいしい!

「まぁ、大口開けてはしたない」

 ああ、原因はそれか。
 モロコシを齧るのは、お嬢さまには敷居が高いか。串焼きも女子はほとんどいなかった。同じ立ち食いでもお菓子になればイケるらしい。その境界線はわかるような、わからないような。

 将軍孫は大きく口を開いてガブリとやり、おいしそうに咀嚼している。
 もふさまは……芯まで丸ごと食べている。ワイルド!

「ロビン、リディア嬢!」

 ロサだ。
 両手でモロコシを持っているので、どうにもならない。置くという選択肢は考えられず、わたしはなんとなく頭を下げた。
 ロビ兄も簡素な礼をした。

「おいしそうだな、私も食べよう」

 ロサ殿下自ら屋台でモロコシを買い込んできて、立ったまま大きく口を開けた。

「これは甘くてしょっぱくて〝うまい〟な」

 いい匂いだったし、気にはなっていたんだろう。王子殿下のロサがパクついたことで弾みがついたようだ。パラパラと人が並び出す。
 野菜好き同好会、大喜びだ。

「ロサ……殿下、おひとりなんですか?」

 尋ねれば、

「フランツと一緒に劇を観たんだ。勇者にはなり損なったけど」

 とチラリと将軍孫を見た。

「あと、聞いたんだけど、義弟が〝クレープ屋〟で突っかかったって? 申し訳なかった」

「劇に参加してくださったあのお方は、第3王子さまですか?」

「ああ、バンプーだ。根は素直で悪い奴ではないんだが、それゆえに周りに担がれやすい」

 素直そうだね。それに劇中にわたしが足をかけられたのも見過ごせないようだった。正義感があるってことだものね。

「ユオブリアの王族はいち貴族にもずいぶん親しげなんですね」

「君ほどではないと思うけどね」

 ロサは将軍孫を知ってるの?

「お初にお目にかかると思いますが?」

 ロサはニヤリと笑った。

「お会いしたことはありませんが、お噂はかねがね」

「ガイン・キャベル・ガゴチです」

 将軍孫は胸の前で左手をパーにして、右手の拳を左手の掌に叩きつけた。そして黙礼する。ガゴチの礼なのだろう。
 ロサは片手を胸に置き、軽く目を瞑った。

「ブレド・ロサ・ミューア・トセ・ユオブリアだ」

 なんか静かな火花が散っている気がする。わたしはモシュモシュとモロコシを食べ続けていた。みんな食べ終わるのが早い。

「俺は異国の者ですからこちらに知人がいないのは当然として、殿下はひとりで回られているのですね?」

「仲間はたまたま当番でね。そうだ、リディア嬢、一緒にまわってもいいかい? あ、劇の中の〝願い〟を叶えている最中なんだっけ? それなら君に聞くべきかな?」

「リディア嬢が良ければいいですよ?」

 と微笑んだ。
 ご馳走さまをして歩き出す。
 将軍孫にどのあたりをまわったのかを聞く。
 展示はあまり見ていないようなので、近いところから入ってみることにした。
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