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11章 学園祭
第441話 クレープ
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もちろん料金は取るが、家族にはこうして本人が、空いている場所でクレープを作ってもいいことになっている。
父さまともふさまのだから、辛子を結構きかせちゃえ。
鉄板の上でまあるく焼いておいた生地を温め、上半分にチーズを散らし、先に鉄板で温めておいたソーセージを12時の方向に立てて置く。
チーズがぐつぐつしてきたら、下の半分をフライ返しで具を挟むようにして折り返す。半円の中心点を起点に三つ折りする。ワセランで作った三角形の袋に入れた。ワセランは手でも簡単に切れるから、食べ進めていって袋が邪魔になったら切っていけばいい。それも図解してある。
甘い方はチョコ単品以外、生地を温める必要はないから簡単。ポイントは生クリームを薄く塗ること。折り重なるからいっぱいだと比重が重たくなりすぎてしまうのだ。生クリーム大好きさんでも、やっぱりバランスって大事だから。
上半分に生クリームを薄く塗り、カットしたバナーナをおいて、ひとさじの削りチョコを振りかける。さっと包み込んで、ワセランに入れる。
わたしは時間になったら来ますと言って、3つのワセランを持って、ベンチに赴く。
父さまにチーズソーセージクレープ。もふさまには同じものと、生クリームバナーナチョコクレープをもふさま専用のお皿に出す。
「お、これは、パンともまた違うな。薄い皮のハジはパリッとしてて、ソーセージとチーズ。ちょっと辛いのがいいな。あれ、味が変わった。マヨソースからトマトソースだな。どっちもおいしい」
父さまがおいしそうに頬張ってくれた。
『リディア、この辛いのがいいな。我はマヨソースが好きぞ』
白いふわふわの毛の先に黄色いマヨソースがついちゃってる。
あっという間に食べ終わると、甘い方にも顔を突っ込んだ。
『これはまた、甘い。生クリームとバナーナうまいな。チョコもいいな』
どちらもお気に召したようだ。
満足気な顔を見ていると、こっちも嬉しい。ハンカチでソースを拭こうと思った時には、もふさまは上手に毛についたソースをすっかり舐め終えていた。
父さまはこれから兄さまのところへ行ったり、フォンタナ家の子供たちのところに行ったりするようだ。わたしはクレープ屋の当番なので、そこで別れた。
さて。エプロンをつけ、スタンバイだ。
「リ、リディア預かって」
チェルシーがわたしの両手を包み込みようにして袋を押し付けてきた。
「な、何?」
売り上げだという。多くて怖くなったと。
受け取ってから焦る。皮袋はずっしりと重い。
え、こんなに? あれ? え?
「多くない?」
というとチェルシーは頷いた。
マイナ先輩に引っ張って奥に連れて行かれる。すでに300個以上売れたと聞いて、先輩の顔を二度見した。
え?
わたしたちの寄付の目標額、これを達成するには1日640枚、2日で1280枚売り上げる(見込みで9割のトッピングを概算)必要がある。ただ、お客さんがそこまできてくれるかというそもそも論は置いておいても、そんな数を実際捌けるか?ということもあり、今日500個売れたらめちゃくちゃ幸先いいと思っていた。
それだと目標額は見込めないけれど、この後、12月まで掃除を業者にやってもらうのではなく自分たちで掃除を続ければ、目標額に届くと思っている。
「クレープの生地補充しておいた方がいいかもしれませんね」
「そうだね、シュタインさんはクレープの皮の部分、お願いしていい?」
「はい、わかりました」
大体注文をとってからクレープを包むまで、早くても4分はかかる。今までで300個も売れたってことは……どうやって捌いたんだ?
みんなの動きを見ながら、生地を焼いていると……さすが商人の娘が何人もいるだけある。完全なスタバ方式をとっていた。
混んでくると窓口は3つにして、注文を取り会計までしてしまう。クレープを巻くところを6箇所作り、注文を伝え、出来上がったクレープを受け取り、受け渡す人を4人配置して、すっごい勢いで回している。さすがだ。
1時間で交代だけど、終わる頃には疲れきっていた。でもみんな笑顔だ。みんながおいしいと言ってくれるので、それが嬉しくて楽しいという。
確かにおいしい顔は何より嬉しいよね。
先輩たちのクラスはほぼ〝展示〟だった。スタッフも何人かで足りるので、寮の出し物につめてくれている。
……王都は物価が高く、そして宿問題もあり、D組の保護者は今まで学園祭にあまり来られなかった。ゆえにD組の出し物を見に来てくれる人も少なかったという。1年生の時は張り切った出し物も、人を呼べないとそこはかとなく寂しい。いつしか展示を選ぶようになっていったそうだ。
でも今年は家族が来てくれて、そしてこのクレープを食べてもらえて、すっごく達成感もあると嬉しそうに笑った。
1年生は劇で時間を取られてしまい、クレープ屋に先輩たちほど貢献していないのだが、頑張っておいでと快く送り出してくれる。初めてで見たいものもいっぱいあるだろうしと寛大だ。
ウチのクラブはそんなことはないけど、他のクラブは1年生、しかもD組だからとこき使われることもあるようで、みんな小刻みに移動している。
だから先輩たちがクレープ屋を回してくれているのが、めちゃくちゃありがたかった。
わたしも予定通り1時間で切りあげた。
通りすがりに、先輩のクラスの展示を見たり、フォンタナ家の出し物をチラ見した。あと、絶対行きたいのが、兄さまのカフェとアラ兄の魔具クラブの店と5年C組の迷路だ。
全部いけるといいなぁ。そう思いながら更衣室に急ぐ。本日2回目の劇に向かう。
Bグループはどうだったのか、まず聞いてしまった。
成功だというので、胸を撫で下ろす。
13時からの上演では、上級生の観客が多かったとか。
茶化してやれという嫌な空気があって、みんな荒れるんじゃないかと予感した。
そこでメランは、その中のボスを見極めた。そいつを〝勇者〟に引き込むぞと決意した。メランはボーイッシュで、そこが魅力なかわいい女の子だ。彼女はそのギャップある魅力を振りまいて、先輩たちのハートを鷲掴みしたんだって! もうそれで、メランの望むように、物語は進行していった。
ちなみに結末は、お助け妖精の万能お宝により、守りの木を植えて、小さな村でみんなで仲良くひっそり暮らすというものになったそうだ。
さてさて、本日2回目の劇はどんなふうになるかな?
父さまともふさまのだから、辛子を結構きかせちゃえ。
鉄板の上でまあるく焼いておいた生地を温め、上半分にチーズを散らし、先に鉄板で温めておいたソーセージを12時の方向に立てて置く。
チーズがぐつぐつしてきたら、下の半分をフライ返しで具を挟むようにして折り返す。半円の中心点を起点に三つ折りする。ワセランで作った三角形の袋に入れた。ワセランは手でも簡単に切れるから、食べ進めていって袋が邪魔になったら切っていけばいい。それも図解してある。
甘い方はチョコ単品以外、生地を温める必要はないから簡単。ポイントは生クリームを薄く塗ること。折り重なるからいっぱいだと比重が重たくなりすぎてしまうのだ。生クリーム大好きさんでも、やっぱりバランスって大事だから。
上半分に生クリームを薄く塗り、カットしたバナーナをおいて、ひとさじの削りチョコを振りかける。さっと包み込んで、ワセランに入れる。
わたしは時間になったら来ますと言って、3つのワセランを持って、ベンチに赴く。
父さまにチーズソーセージクレープ。もふさまには同じものと、生クリームバナーナチョコクレープをもふさま専用のお皿に出す。
「お、これは、パンともまた違うな。薄い皮のハジはパリッとしてて、ソーセージとチーズ。ちょっと辛いのがいいな。あれ、味が変わった。マヨソースからトマトソースだな。どっちもおいしい」
父さまがおいしそうに頬張ってくれた。
『リディア、この辛いのがいいな。我はマヨソースが好きぞ』
白いふわふわの毛の先に黄色いマヨソースがついちゃってる。
あっという間に食べ終わると、甘い方にも顔を突っ込んだ。
『これはまた、甘い。生クリームとバナーナうまいな。チョコもいいな』
どちらもお気に召したようだ。
満足気な顔を見ていると、こっちも嬉しい。ハンカチでソースを拭こうと思った時には、もふさまは上手に毛についたソースをすっかり舐め終えていた。
父さまはこれから兄さまのところへ行ったり、フォンタナ家の子供たちのところに行ったりするようだ。わたしはクレープ屋の当番なので、そこで別れた。
さて。エプロンをつけ、スタンバイだ。
「リ、リディア預かって」
チェルシーがわたしの両手を包み込みようにして袋を押し付けてきた。
「な、何?」
売り上げだという。多くて怖くなったと。
受け取ってから焦る。皮袋はずっしりと重い。
え、こんなに? あれ? え?
「多くない?」
というとチェルシーは頷いた。
マイナ先輩に引っ張って奥に連れて行かれる。すでに300個以上売れたと聞いて、先輩の顔を二度見した。
え?
わたしたちの寄付の目標額、これを達成するには1日640枚、2日で1280枚売り上げる(見込みで9割のトッピングを概算)必要がある。ただ、お客さんがそこまできてくれるかというそもそも論は置いておいても、そんな数を実際捌けるか?ということもあり、今日500個売れたらめちゃくちゃ幸先いいと思っていた。
それだと目標額は見込めないけれど、この後、12月まで掃除を業者にやってもらうのではなく自分たちで掃除を続ければ、目標額に届くと思っている。
「クレープの生地補充しておいた方がいいかもしれませんね」
「そうだね、シュタインさんはクレープの皮の部分、お願いしていい?」
「はい、わかりました」
大体注文をとってからクレープを包むまで、早くても4分はかかる。今までで300個も売れたってことは……どうやって捌いたんだ?
みんなの動きを見ながら、生地を焼いていると……さすが商人の娘が何人もいるだけある。完全なスタバ方式をとっていた。
混んでくると窓口は3つにして、注文を取り会計までしてしまう。クレープを巻くところを6箇所作り、注文を伝え、出来上がったクレープを受け取り、受け渡す人を4人配置して、すっごい勢いで回している。さすがだ。
1時間で交代だけど、終わる頃には疲れきっていた。でもみんな笑顔だ。みんながおいしいと言ってくれるので、それが嬉しくて楽しいという。
確かにおいしい顔は何より嬉しいよね。
先輩たちのクラスはほぼ〝展示〟だった。スタッフも何人かで足りるので、寮の出し物につめてくれている。
……王都は物価が高く、そして宿問題もあり、D組の保護者は今まで学園祭にあまり来られなかった。ゆえにD組の出し物を見に来てくれる人も少なかったという。1年生の時は張り切った出し物も、人を呼べないとそこはかとなく寂しい。いつしか展示を選ぶようになっていったそうだ。
でも今年は家族が来てくれて、そしてこのクレープを食べてもらえて、すっごく達成感もあると嬉しそうに笑った。
1年生は劇で時間を取られてしまい、クレープ屋に先輩たちほど貢献していないのだが、頑張っておいでと快く送り出してくれる。初めてで見たいものもいっぱいあるだろうしと寛大だ。
ウチのクラブはそんなことはないけど、他のクラブは1年生、しかもD組だからとこき使われることもあるようで、みんな小刻みに移動している。
だから先輩たちがクレープ屋を回してくれているのが、めちゃくちゃありがたかった。
わたしも予定通り1時間で切りあげた。
通りすがりに、先輩のクラスの展示を見たり、フォンタナ家の出し物をチラ見した。あと、絶対行きたいのが、兄さまのカフェとアラ兄の魔具クラブの店と5年C組の迷路だ。
全部いけるといいなぁ。そう思いながら更衣室に急ぐ。本日2回目の劇に向かう。
Bグループはどうだったのか、まず聞いてしまった。
成功だというので、胸を撫で下ろす。
13時からの上演では、上級生の観客が多かったとか。
茶化してやれという嫌な空気があって、みんな荒れるんじゃないかと予感した。
そこでメランは、その中のボスを見極めた。そいつを〝勇者〟に引き込むぞと決意した。メランはボーイッシュで、そこが魅力なかわいい女の子だ。彼女はそのギャップある魅力を振りまいて、先輩たちのハートを鷲掴みしたんだって! もうそれで、メランの望むように、物語は進行していった。
ちなみに結末は、お助け妖精の万能お宝により、守りの木を植えて、小さな村でみんなで仲良くひっそり暮らすというものになったそうだ。
さてさて、本日2回目の劇はどんなふうになるかな?
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