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10章 準備が大切、何事も
第407話 オババさまの占い⑤〝我のせいだ〟
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『我のせいだ』
「え?」
『我は呪いも光魔法で浄化できると思っていた』
わたしはもふさまを抱きあげて、ふわりと抱きしめる。
「浄化できたよ。母さまの呪いを浄化できた。わたし、あの時母さまを亡くしていたらどうなったかわからない。エリンとノエルにも会えなかったことにもなるし。母さまの呪いを浄化できたこと、それがどんなことを引き起こすとしても、わたし後悔はないよ。呪術だと教えてくれて助けてくれたもふさまに感謝しかない。それにもふさまがいてくれたから、わたし生きてこられた。もふさま、いつもありがとう。本当にありがとう」
もふさまがスタンとわたしの手から床に降りる。そしてブルッと身を震わしてトラサイズの大きさになった。
『いつもリディアを護るといいながら、我はちっとも護れていない。まだほんの子供のアリやクイさえ役に立とうとして、役立っているのに。人族に肩入れできないゆえに、我はリディアのためにならない。呪術のことも中途半端にしか知らなかったし、人族の思いもよくわかってないようだ』
うなだれている。耳がペシャンコだ。
「地下の主人さまから言われたことがあるの」
『地下の護り手から?』
わたしは頷いた。
「護り手は聖なる方から護りを預かっていて、何より大切なことは、自分なら地下の護り。地下を護るために、ある者にとっては非道となることもするだろう、って。もふさまでいえば、森の範囲は広いから人には肩入れできない。人族だけに、何かだけに肩入れできないように、護り手の気持ちの形は特別製なんですって。だから齟齬は必ず出る。それに耐えられないと思うなら、もふさまから離れるべきって」
『地下の奴……』
「地下の主人さまだけじゃないよ。空の主人さまからも、海の主人さまからも同じようなことを言われた。みんな、もふさまを心配してたよ。人族と一緒にいると、もふさまが守られている側と気持ちの形が違うことで、傷つくことがあるんじゃないかと。……そうなっちゃったね」
もふさまが顔をあげるから、にへらっと笑う。
「でもね、何かして欲しくて一緒にいるわけじゃないよ。森の護り手であることを誇りに思い、役目をまっとうしている。それでいて、優しくて気高くて、もふもふで、強くてあったかくて、もふさまの全部が好き。一緒にいたいから一緒にいるの」
『我の全部が好き?』
「そうだよ。もふさまが生まれてから思ったこと、してきたこと込みで、丸ごともふさまが好きだよ」
大きなもふさまを抱きしめる。
『リディア、……我はリディアと出会う前に記憶をなくしているのだ』
え? 腕を緩め、もふさまを見た。
「記憶を? 怪我したの?」
大きな傷痕はないと思ったが記憶をなくすようなことがあったのなら、大きな怪我をしたんじゃない?
もふさまは迷子のような目をして微かに首を傾げた。
『怪我はしていないと思う。ただ……。聖なる方や他の護り手たちの言葉を鑑みると、我は以前も人族と関わりを持ったことがあるようだ。そして何かがあった』
「何かが?」
もふさまは頷く。下を向き、言いにくそうにして。
『わからないが、利用されそうに……、信じていたものに騙されたのだと思う』
「信じていた者に?」
『夢に見る光景がある。桃色の髪を長く伸ばした少女が泣いている。我はそれを見ると胸が痛くなる。夢と護り手たちの言葉で導き出した推測だが、我はその桃色の人族と懇意にしていた。けれど騙されたのだろう。それで記憶を封印した。恐らくそういうことだと思う』
思わず抱きつく。
「……ごめんなさい」
『何がだ?』
「人族がひどいことをして」
『い、いや、はっきりしたことではないし、それにリディアが謝ることではない』
「……それなのに、人族を嫌いにならないでいてくれてありがとう」
『人族を嫌いにならないで?』
「傷つけられたのに、もふさまは人族のことも好きでいてくれてる。最初に会った時からそう思ってた。もふさまは人族と触れ合ったことがあって、いい思い出があったんだと」
頭に大きな雨粒でも落ちてきたのかと思って顔をあげると、もふさまの深い緑の瞳の縁に水がいっぱい溜まっていた。
たまらなくなって、もふさまをぎゅっとする。
「もふさまは優しい。傷つけられたのに、いい思い出のままなんだ。だからわたしのことも助けてくれた。人族なのに、一緒にいてくれた」
『……我は優しくなんかない。そして我も同じだ。リディアと共にいるのは、リディアといると心地よく、楽しく、……リディアのことが好きだからだ。友達だからだ』
もふさまにぎゅーっと抱きつく。
日向の匂い。いつも隣にいてくれた。一緒に過ごしてきた。
呪いが発動しなかったことだけでなく、わたしはもふさまの存在に今までもずーっと救ってもらってきた。
『なぁ、リディア?』
「うん?」
『地下の護り手たちから我と離れるべきと言われて、なんと答えたのだ?』
「え、嫌ですって。もふさまがわたしを嫌いになって一緒にいたくないと言われたならともかく、わたしから離れたがることはありませんって」
もふさまは固まっている。
「友達は誰にも引き離せないよ。お互いの気持ちが変わらない限りはね。だから、そう言ったの」
もふさまが笑い出した。
え?
「聖なる護り手に意見したのか。それも地下の護り手に! 人族は……リディアは本当に愉快だ」
気持ちよさそうに笑っている。何がツボに入ったのかはわからないが、少し安堵した。
もふさまがひとつ息を吐いた。
それからわたしに視線を合わせる。
『……迷っているようだが、母君以外には伝えたらどうだ? お前は今までもそうしてきただろう? それでみんなに助けられながら今まで生きながらえてきた。だから、このことも話すとよいのではないかと思う』
「……そうだね。わたしも、そう思う」
わたしはにっと笑って見せた。
「え?」
『我は呪いも光魔法で浄化できると思っていた』
わたしはもふさまを抱きあげて、ふわりと抱きしめる。
「浄化できたよ。母さまの呪いを浄化できた。わたし、あの時母さまを亡くしていたらどうなったかわからない。エリンとノエルにも会えなかったことにもなるし。母さまの呪いを浄化できたこと、それがどんなことを引き起こすとしても、わたし後悔はないよ。呪術だと教えてくれて助けてくれたもふさまに感謝しかない。それにもふさまがいてくれたから、わたし生きてこられた。もふさま、いつもありがとう。本当にありがとう」
もふさまがスタンとわたしの手から床に降りる。そしてブルッと身を震わしてトラサイズの大きさになった。
『いつもリディアを護るといいながら、我はちっとも護れていない。まだほんの子供のアリやクイさえ役に立とうとして、役立っているのに。人族に肩入れできないゆえに、我はリディアのためにならない。呪術のことも中途半端にしか知らなかったし、人族の思いもよくわかってないようだ』
うなだれている。耳がペシャンコだ。
「地下の主人さまから言われたことがあるの」
『地下の護り手から?』
わたしは頷いた。
「護り手は聖なる方から護りを預かっていて、何より大切なことは、自分なら地下の護り。地下を護るために、ある者にとっては非道となることもするだろう、って。もふさまでいえば、森の範囲は広いから人には肩入れできない。人族だけに、何かだけに肩入れできないように、護り手の気持ちの形は特別製なんですって。だから齟齬は必ず出る。それに耐えられないと思うなら、もふさまから離れるべきって」
『地下の奴……』
「地下の主人さまだけじゃないよ。空の主人さまからも、海の主人さまからも同じようなことを言われた。みんな、もふさまを心配してたよ。人族と一緒にいると、もふさまが守られている側と気持ちの形が違うことで、傷つくことがあるんじゃないかと。……そうなっちゃったね」
もふさまが顔をあげるから、にへらっと笑う。
「でもね、何かして欲しくて一緒にいるわけじゃないよ。森の護り手であることを誇りに思い、役目をまっとうしている。それでいて、優しくて気高くて、もふもふで、強くてあったかくて、もふさまの全部が好き。一緒にいたいから一緒にいるの」
『我の全部が好き?』
「そうだよ。もふさまが生まれてから思ったこと、してきたこと込みで、丸ごともふさまが好きだよ」
大きなもふさまを抱きしめる。
『リディア、……我はリディアと出会う前に記憶をなくしているのだ』
え? 腕を緩め、もふさまを見た。
「記憶を? 怪我したの?」
大きな傷痕はないと思ったが記憶をなくすようなことがあったのなら、大きな怪我をしたんじゃない?
もふさまは迷子のような目をして微かに首を傾げた。
『怪我はしていないと思う。ただ……。聖なる方や他の護り手たちの言葉を鑑みると、我は以前も人族と関わりを持ったことがあるようだ。そして何かがあった』
「何かが?」
もふさまは頷く。下を向き、言いにくそうにして。
『わからないが、利用されそうに……、信じていたものに騙されたのだと思う』
「信じていた者に?」
『夢に見る光景がある。桃色の髪を長く伸ばした少女が泣いている。我はそれを見ると胸が痛くなる。夢と護り手たちの言葉で導き出した推測だが、我はその桃色の人族と懇意にしていた。けれど騙されたのだろう。それで記憶を封印した。恐らくそういうことだと思う』
思わず抱きつく。
「……ごめんなさい」
『何がだ?』
「人族がひどいことをして」
『い、いや、はっきりしたことではないし、それにリディアが謝ることではない』
「……それなのに、人族を嫌いにならないでいてくれてありがとう」
『人族を嫌いにならないで?』
「傷つけられたのに、もふさまは人族のことも好きでいてくれてる。最初に会った時からそう思ってた。もふさまは人族と触れ合ったことがあって、いい思い出があったんだと」
頭に大きな雨粒でも落ちてきたのかと思って顔をあげると、もふさまの深い緑の瞳の縁に水がいっぱい溜まっていた。
たまらなくなって、もふさまをぎゅっとする。
「もふさまは優しい。傷つけられたのに、いい思い出のままなんだ。だからわたしのことも助けてくれた。人族なのに、一緒にいてくれた」
『……我は優しくなんかない。そして我も同じだ。リディアと共にいるのは、リディアといると心地よく、楽しく、……リディアのことが好きだからだ。友達だからだ』
もふさまにぎゅーっと抱きつく。
日向の匂い。いつも隣にいてくれた。一緒に過ごしてきた。
呪いが発動しなかったことだけでなく、わたしはもふさまの存在に今までもずーっと救ってもらってきた。
『なぁ、リディア?』
「うん?」
『地下の護り手たちから我と離れるべきと言われて、なんと答えたのだ?』
「え、嫌ですって。もふさまがわたしを嫌いになって一緒にいたくないと言われたならともかく、わたしから離れたがることはありませんって」
もふさまは固まっている。
「友達は誰にも引き離せないよ。お互いの気持ちが変わらない限りはね。だから、そう言ったの」
もふさまが笑い出した。
え?
「聖なる護り手に意見したのか。それも地下の護り手に! 人族は……リディアは本当に愉快だ」
気持ちよさそうに笑っている。何がツボに入ったのかはわからないが、少し安堵した。
もふさまがひとつ息を吐いた。
それからわたしに視線を合わせる。
『……迷っているようだが、母君以外には伝えたらどうだ? お前は今までもそうしてきただろう? それでみんなに助けられながら今まで生きながらえてきた。だから、このことも話すとよいのではないかと思う』
「……そうだね。わたしも、そう思う」
わたしはにっと笑って見せた。
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