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9章 夏休みとシアター
第386話 家族間大会議③軍団の想い
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『なら、私が行こう!』
「レオ」
『私は人族に肩入れしても問題ないからな。少しの間、その共和国の農場を見てこよう』
「おいらも行くでち。レオだけじゃ心配でち」
『何をぉ? 私は人族より強いぞ。何が心配なんだ?』
「感情のままに行動するところでち。おいらが一緒なら、レオを止められるでち。元の姿になれば強いし、探る時は小さくぬいぐるみになって近づくでち。そして隠れるでち。危険はないでち」
レオとアオのジャブが続く。
そしてアオはわたしを見上げた。
「だからリディアは心配することないでち」
!
『そういうことなら、わたくしも行きましょうかねぇ。アオも慌てやすいですから、常に冷静なわたくしがいれば、役立つというものです』
『行くー! リーの役に立つ!』
『行くー! いっぱいリーの役に立つ!』
『よし、決まりだ。みんなで共和国の農場に行くぞ』
もふもふ軍団が盛りあがる。
「父さま、伝達魔法の魔具を貸して欲しいでち。それで連絡取り合うでち」
「あ、ああ、それはいいが……」
「ダメだよ、みんな。危険があったらどうするの?」
『私たちは強いよ、リディア。リディアの〝いっぱいやること〟を私たちも手伝える。だから恐がるな。リディアもまだまだだけどちゃんと強いし、ここにいる人族は人族の中でも強いぞ。自分だけで悩んで、辛くなるな』
トテトテとレオがテーブルの上を歩いてきて、くりっとした大きな瞳でわたしを見上げた。空の青さを切り取ったような瞳に不安そうな顔をしたわたしが映っていた。
『リーはちゃんと強いから大丈夫』
『リーはボスだ!』
アリとクイもわたしを見上げる。
『そうですねぇ。きっとリディアなら全てをやり通せますよ』
……ベア……。
「大丈夫、おいらたち、調べてくるでち。証拠も絶対出てくるでち。兄さまはちゃんとリディアの隣にいつもいるでち。だから魔力を暴走させたりしちゃダメでちよ」
「魔力の……暴走?」
父さまの声がやけにゆっくりに聞こえたような気がした。
『アオ、それは秘密だったのに』
「え? 秘密だったんでちか?」
『まあ、いいや。そんなわけだから、私たちは行くよ。伝達魔法の魔具を貸してくれ』
「そんな今すぐじゃなくても!」
『主人さま、リディアとみんなを頼んだぞ』
『誰に向かって言っておる』
「ちょっと待って、ご飯をいっぱい作るから」
『今生の別れでもあるまいし。帰ってきたときにいっぱい作ってくれ。思い立った今、行くよ』
「あ、じゃあ、せめてこれ」
アラ兄が自身の収納袋を手渡した。
『ありがとう。遠慮なくもらっとくぞ』
「リディア、そんなに長い別れじゃないでち。だから泣かないで。兄さま、リディアを捕まえていて」
「ちょっと、待って!」
みんながわたしを振り返って見て、駆け出して行く。
追いかけようとして、兄さまに止められる。
『リディアのために何かしたいのだ、気持ちを汲んでやれ』
もふさまが言った。
でも……。
庭が見える窓に駆け寄る。
庭先でみんな本来の姿になる。大きなドラゴンのレオの背中にみんなが駆けあがっていく。弾みをつけてレオが飛び立った。家が風に煽られたように音が鳴った。
わたしは空を見上げた。と同時にして、一瞬にして消えた。
「え?」
『ミラーの空間からあちらに戻ったのだろう』
あ、そうか。びっくりしたー。
ふう、と息を整える。驚いたことにより、急に離れ離れになった不安が少しだけなりを潜める。
「さて、リディア」
静けさが降りた部屋の中で、父さまがかしこまって言った。これあかんこと言われるやつだ。そう思って身構える。
「魔力の暴走とはいったい何かな?」
ええと。
「カートライト令嬢と話してから、元気そうにしているけど塞ぎ込んでいるのも知っているよ。リディーが自分から話してくれるのを待っているつもりだったけど、悩んで辛くなっているなら話して欲しいな」
兄さまがわたしの手を取りながら言う。
「魔力の暴走と合わせて、話そうな、リディア」
うっ。
父さまの笑顔の圧力。
「……魔力の暴走は、精神の均衡が崩れたみたいで、魔力酔いよりちょっと激しくて胸がわさわさしたことがあって。気づいたら聖樹さまのところにいて、落ち着かせてもらったの。魔力が暴走しそうだったって言われた。聖樹さまはわたしの魔力が暴走したら、学園に被害が出るだろうからわたしを呼び寄せたって言ってた」
「なぜ暴走しそうになったんだ?」
「それは……」
「それは?」
チラッと原因である兄さまに目が行った。心配そうにこちらを見ている。ダメだ理由を言うのは恥ずかしすぎる。
「理由は言いたくない」
おじいさまがほっほっほっと笑った。
「言わずとも、理由はわかっているようだな?」
「すっごく驚くっていうか、衝撃を受けると、均衡が崩れるみたい……」
「大人でも激しく動揺することはある。心を落ち着ける方法は人それぞれだ。リディーは魔力が多い。もし魔力が暴走したら大変なことになるかもしれない。早く落ち着ける方法を身につけるんだよ」
父さまに諭される。
「はい」
「じゃあ、それ以外のリーの心配事って何?」
アラ兄とロビ兄にも真剣に目を向けられている。
わたしは不安度の小さなものから話すことにした。
まず、宿題が進んでない。学園が始まったら学園祭の準備で追われるだろうし、年末のエイベックス女子寮との勝負。
愚痴チックだよな。だから言うの嫌だったんだけど。
「え? リーが宿題? 難しいものでもあったの?」
まーね、量はあるけど、粛々とやっていけばいつかは終わると思うんだよ。でも、一つだけどうしても意味のわからないものがある。
「意味がわからない? リーが? 教科は?」
「算術」
「えー、算術でリーが困っているの?」
そういいながら、なんとはなしに嬉しそうなアラ兄とロビ兄。
「なんだ、割り算か? 教えてやるぞ? あ、今、問題は覚えてないか」
「ううん、覚えてる」
無言で促されたので言うことにする。
「一番美しいと思う数式を理由とともに挙げよ」
「なんだよ、それ!?」
「やっぱ、そう思うよね?」
わたしはわたしの気持ちをわかってくれたロビ兄の手を取る。
「だって、何が美しいと思うかなんて人によって違うでしょ? 正解なんて知らないよ」
「リディアが言うように正解は人により違っていいんだろう」
おじいさまが言った。
「そうですよ、お嬢が素直に美しいと思えるものを理由と一緒に書けばいいんですよ」
シヴァもそう言ってくれる。
美しいと思える数式か、うーーーーむ。
「レオ」
『私は人族に肩入れしても問題ないからな。少しの間、その共和国の農場を見てこよう』
「おいらも行くでち。レオだけじゃ心配でち」
『何をぉ? 私は人族より強いぞ。何が心配なんだ?』
「感情のままに行動するところでち。おいらが一緒なら、レオを止められるでち。元の姿になれば強いし、探る時は小さくぬいぐるみになって近づくでち。そして隠れるでち。危険はないでち」
レオとアオのジャブが続く。
そしてアオはわたしを見上げた。
「だからリディアは心配することないでち」
!
『そういうことなら、わたくしも行きましょうかねぇ。アオも慌てやすいですから、常に冷静なわたくしがいれば、役立つというものです』
『行くー! リーの役に立つ!』
『行くー! いっぱいリーの役に立つ!』
『よし、決まりだ。みんなで共和国の農場に行くぞ』
もふもふ軍団が盛りあがる。
「父さま、伝達魔法の魔具を貸して欲しいでち。それで連絡取り合うでち」
「あ、ああ、それはいいが……」
「ダメだよ、みんな。危険があったらどうするの?」
『私たちは強いよ、リディア。リディアの〝いっぱいやること〟を私たちも手伝える。だから恐がるな。リディアもまだまだだけどちゃんと強いし、ここにいる人族は人族の中でも強いぞ。自分だけで悩んで、辛くなるな』
トテトテとレオがテーブルの上を歩いてきて、くりっとした大きな瞳でわたしを見上げた。空の青さを切り取ったような瞳に不安そうな顔をしたわたしが映っていた。
『リーはちゃんと強いから大丈夫』
『リーはボスだ!』
アリとクイもわたしを見上げる。
『そうですねぇ。きっとリディアなら全てをやり通せますよ』
……ベア……。
「大丈夫、おいらたち、調べてくるでち。証拠も絶対出てくるでち。兄さまはちゃんとリディアの隣にいつもいるでち。だから魔力を暴走させたりしちゃダメでちよ」
「魔力の……暴走?」
父さまの声がやけにゆっくりに聞こえたような気がした。
『アオ、それは秘密だったのに』
「え? 秘密だったんでちか?」
『まあ、いいや。そんなわけだから、私たちは行くよ。伝達魔法の魔具を貸してくれ』
「そんな今すぐじゃなくても!」
『主人さま、リディアとみんなを頼んだぞ』
『誰に向かって言っておる』
「ちょっと待って、ご飯をいっぱい作るから」
『今生の別れでもあるまいし。帰ってきたときにいっぱい作ってくれ。思い立った今、行くよ』
「あ、じゃあ、せめてこれ」
アラ兄が自身の収納袋を手渡した。
『ありがとう。遠慮なくもらっとくぞ』
「リディア、そんなに長い別れじゃないでち。だから泣かないで。兄さま、リディアを捕まえていて」
「ちょっと、待って!」
みんながわたしを振り返って見て、駆け出して行く。
追いかけようとして、兄さまに止められる。
『リディアのために何かしたいのだ、気持ちを汲んでやれ』
もふさまが言った。
でも……。
庭が見える窓に駆け寄る。
庭先でみんな本来の姿になる。大きなドラゴンのレオの背中にみんなが駆けあがっていく。弾みをつけてレオが飛び立った。家が風に煽られたように音が鳴った。
わたしは空を見上げた。と同時にして、一瞬にして消えた。
「え?」
『ミラーの空間からあちらに戻ったのだろう』
あ、そうか。びっくりしたー。
ふう、と息を整える。驚いたことにより、急に離れ離れになった不安が少しだけなりを潜める。
「さて、リディア」
静けさが降りた部屋の中で、父さまがかしこまって言った。これあかんこと言われるやつだ。そう思って身構える。
「魔力の暴走とはいったい何かな?」
ええと。
「カートライト令嬢と話してから、元気そうにしているけど塞ぎ込んでいるのも知っているよ。リディーが自分から話してくれるのを待っているつもりだったけど、悩んで辛くなっているなら話して欲しいな」
兄さまがわたしの手を取りながら言う。
「魔力の暴走と合わせて、話そうな、リディア」
うっ。
父さまの笑顔の圧力。
「……魔力の暴走は、精神の均衡が崩れたみたいで、魔力酔いよりちょっと激しくて胸がわさわさしたことがあって。気づいたら聖樹さまのところにいて、落ち着かせてもらったの。魔力が暴走しそうだったって言われた。聖樹さまはわたしの魔力が暴走したら、学園に被害が出るだろうからわたしを呼び寄せたって言ってた」
「なぜ暴走しそうになったんだ?」
「それは……」
「それは?」
チラッと原因である兄さまに目が行った。心配そうにこちらを見ている。ダメだ理由を言うのは恥ずかしすぎる。
「理由は言いたくない」
おじいさまがほっほっほっと笑った。
「言わずとも、理由はわかっているようだな?」
「すっごく驚くっていうか、衝撃を受けると、均衡が崩れるみたい……」
「大人でも激しく動揺することはある。心を落ち着ける方法は人それぞれだ。リディーは魔力が多い。もし魔力が暴走したら大変なことになるかもしれない。早く落ち着ける方法を身につけるんだよ」
父さまに諭される。
「はい」
「じゃあ、それ以外のリーの心配事って何?」
アラ兄とロビ兄にも真剣に目を向けられている。
わたしは不安度の小さなものから話すことにした。
まず、宿題が進んでない。学園が始まったら学園祭の準備で追われるだろうし、年末のエイベックス女子寮との勝負。
愚痴チックだよな。だから言うの嫌だったんだけど。
「え? リーが宿題? 難しいものでもあったの?」
まーね、量はあるけど、粛々とやっていけばいつかは終わると思うんだよ。でも、一つだけどうしても意味のわからないものがある。
「意味がわからない? リーが? 教科は?」
「算術」
「えー、算術でリーが困っているの?」
そういいながら、なんとはなしに嬉しそうなアラ兄とロビ兄。
「なんだ、割り算か? 教えてやるぞ? あ、今、問題は覚えてないか」
「ううん、覚えてる」
無言で促されたので言うことにする。
「一番美しいと思う数式を理由とともに挙げよ」
「なんだよ、それ!?」
「やっぱ、そう思うよね?」
わたしはわたしの気持ちをわかってくれたロビ兄の手を取る。
「だって、何が美しいと思うかなんて人によって違うでしょ? 正解なんて知らないよ」
「リディアが言うように正解は人により違っていいんだろう」
おじいさまが言った。
「そうですよ、お嬢が素直に美しいと思えるものを理由と一緒に書けばいいんですよ」
シヴァもそう言ってくれる。
美しいと思える数式か、うーーーーむ。
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